悪役令嬢アーリッサ PICKUP 大人の男1
甘やかす大人の男1、新聞社のオーナー。プレゼントを設置してくれる思い切りの良い文人。影日向に助けてくれる所は、カット。キーワードは、年の差・ほのぼのでしょうか。
+++++ 覚醒乙女ゲーム1-6困っている時に助けてくれる人がヒーロー
1-6 神殿長
北区は今、新興大型商業施設が出来て若者を中心に賑わっています。どこも安く広い土地と成ると郊外型のあれです。道を挟んだ東側にも同じ大きさの神殿エリアが。大きな神殿病院や建物が出来ています。
エリアに足を運ぶと、広い集会場の入口から二人の中年男が話しながら出てくるところでした。一人はいつも穏やかで知的な神殿長で、もう一人は見知らぬ人でしたが、ずいぶんと人目を惹く男前です。長身の、落ち着いた中に何だかいたずらっぽい感じの、お洒落な人です。神殿長の方から呼びかけがありました。
1-6 呼びかけ
「ああ、アーリッサ嬢、聖女が見つかったのですよ。」「そうですか、ようございました。」気のない返事をするアーリッサに、珍しく熱を込めて神殿長が語りかけます。「いや、情報のとおり、シャンパンガーネットの瞳とバラ色の髪、名前もまさにその通りでした。凄い治癒魔法です。」「そうですか。」「コージー神殿長、こちらの素敵なお嬢様は。」客人の問いに、予言者ですとは答えられないのでしょう。令嬢アーリッサが自ら家名を抜いて礼を取りました。
1-6 どちら様
「初めまして、アーリッサです。」「ほう、どちらかの伯爵家のご令嬢ですかな。」感心した口調で微笑むが、目がしっかりと探っています。「せっかく素敵なと言って頂きましたが、このような面相でしてお目汚しを。」「まさか、このマケド国で歯列矯正の器具をつけていらっしゃるとは、美意識の高い証拠ですな、素晴らしい。私も若いころにつけておりましたよ。しかし、この国ではまだ認知度が低い、ご令嬢ならマウスピースの方がよろしいかもしれません。」ご紹介しましょうかなんて言いそうです、軽く知己となり、話を切り上げて去りましょう。「併用しております。あの、お名前を伺っても?」
1-6 取材
男は再度深く微笑み、「私は、王都新聞社の編集長でカルガンと申します。今日は自ら聖女発見の取材をしております。よろしければお話を伺えませんか。予言者様は、子供の誘拐の予言もなさいましたよね。」聖女様の話じゃない。
1-6 神殿の無関心
突然の話題に怯み、アーリッサが慌てて振り向くと、神殿長はいそいそと場を離れる所でした。別人と話に興じるつもりですか。うつし身の術です!やられました。まさか神殿長に嵌められるとは!
1-6 今まさに困っていますとも
4月4日。
「ゲームの話、実に面白い。」「おもしろいですか、」引き篭もりアーリッサは、カルガン編集長に伯爵邸でつかまっています。警備の力が抜けたのか、彼が有名人なのか。こう容易く通しますか。
「興味が尽きませんね。予言を授かったというより、天界にいらしたのですね。」「不敬だとか嘘つきだとか言われたくありません、書かないでください。」「このネタでコージー神殿長に面会を取ります。彼は知っておいた方がいいでしょう。」「会うためには何でもするのですね。」「取材だけではありませんよ、こうして有用な情報を回しておかないと三流誌と同じになります。」
名のある貴族なのでしょうか、快活に動いている編集長の姿勢は、父のフーセン伯爵よりずっときれいです。
1-6 質問のような提案
「一代男爵家に手を焼いていますね。不敬だとか?つきだと言われましたか?」「口の悪い人達です。教えていません。」「賢明です。王家が予言のことを知ったら、運命が変わるとは思いませんか。」「わかりません。途方にくれることばかりです。」
1-6 未来視
「神殿へ送った予言を見られませんか。」「どうでしょう、隠してはいませんが。」侍女を見ると、なぜか心得ておりましたとばかりに書類封筒を持ってきました。「こちらは、お嬢様の予言を使用人が検証するための、控えになっております。」「はい?」
「拝見します。」満面の、作られた、笑顔で編集長が読み始めてしまいました。
「カルガン様はメモをおとりにならないのですね。」「記憶力には自信があります。小道具には使いますが。」言いながらも、結構な速さで読み終える。誤字がありました。彼は笑んではいるけれど機嫌が悪くも見えます。
深く笑む表情は、仕事用でしょうか。ちらりとは見るものの、優しく思えるのに、令嬢アーリッサはなかなかじっと男の目を見ることができません。
1-6 既知
「うちのファッション誌で特集を組みました。お役に立ちましたか。」「あ、はい。」問屋街の、あれ、緊急号。「やっと笑いましたね。」「え。」ずっと不愛想だったかと思い返して、ブランドの主アーリッサは姿勢を正した。「神殿で、お会いした時には別人かと思いました。」「知り合いでしたか。蘇らぬ記憶もあるようです、ご無礼いたしました。」
1-6 関心を持つ人
「年頃の女性が急に変わることは、よくあります。傷も負われましたし。ケガ以来、対戦を拒否する、ある事です。しかし、詳しく予言をしたり、たぐい希なデザインを持ち込んだり。貴女に何が起こったのか、私は大変興味を持ちました。」自ら取材に歩くだけあって、男はデザインをと言った、良く調べている。把握されていると覚醒者アーリッサは感じ入る。「奴隷船の子供誘拐事件は、私も取材して、助けに踏み込んだ側の状況を知っています。接点のない貴女が、どう知識を得たのか、どうしても謎が解けませんでした。今日は、詳しく聞き、見て納得しました。転生なのか、降臨なのか。不明ですが。ただ、急に思い出されての事態は、さぞ不安では。」
1-6 知らぬ人
記者で知り合い、本当だろうか。ゴシップ誌に面白可笑しく書かれたくはない。毅然としながらも、「荒唐無稽な話です。お気になさらず。」そう言う頬を、涙が零れる。失敗した。「空も飛べず遠見もできない見た目の悪い女です。酷い妄想まで口に出します。書くなら神の愛し子である聖女をどうぞ、活躍しますから、追い甲斐が有りましょう。もう寿命の短い者は捨て置いてください。」
1-6 困っている時に助けてくれるのがヒーローです
「アーリッサ嬢。」カルガンは、輝くトパーズの目を潤ませるアーリッサに「憂いが手に余る時は、考えずにひとつずつ変わる事から片づけるのです。」と、傷痕について語り始めた。断ち切る様に覚醒者アーリッサ、「カルガン様。あちらに魔獣はおりません。いませんでした。好き好んで動物と戦う者など、見るのも初めてです。私は、対戦には、大変頭を痛めております。むごい死や暴力など望んでいません。出来ますなら長生きをして、この先一生、魔物等とは関わらずにいたいと思っています。」何の音なのでしょう、来客中に、伯爵邸に動揺が走っています。「まだ諦めていなかったのですね。仕様のない人達。」予言者アーリッサの苦笑いを見て、カルガンは何か腹を括った表情です。「もう、終わりにしましょう。」と、アーリッサが告げる。
1-6 橋渡し
「神殿には、春の会に思い出されたと言って、知らせましたか。」「いえ、治療魔法がいい加減だと、文句を言うために送ったと聞いています。」「上の者にですね。神殿長にですね。どなたの発案ですか、素晴らしいですよ。」マルエラを紹介します。編集長の心底笑っている顔が見られました。主のアーリッサも、赤くなっているマルエラを面白く、そして誇らしく思ったのでした。
1-6 恩人
カルガン氏のお帰りの後です。うちの者に訊ねたところ、「王都新聞社のオーナーです。ご存じですよね。」と言われてしまった。
「知らないから!皆、そんな大事な情報は、教えておいてほしかった。」道理で、だから伯爵邸の者が奥へ通したのね。「お嬢様の不遜な態度には呆れました。」「今になってそれを言う。だって、知らない人ですもの。」
「有り得ませんね。あれだけ世話になっておいて。」「そんな、なの!」家人の冷たい態度が歴史を物語っています。後悔先に立たず。やってしまいました。豪雨のように流れ落ちる汗で足元に滝壺が出来ています。足から落ちるアーリッサ。「会いたくない人に限ってお会いしたりするんでしょ、知ってる。」
++ 新しい関係2-3尽くす者と合わぬ者 ++++++
2-3 巨大な媒体
5月1日。覚醒して1ヶ月ちょっと、優しい使用人がマケド湾の奴隷船に踏み込んでくれたおかげで聖女様との仲は良好です。予言者を認めてくれたことが大きいのではないでしょうか。良いスタートに思えます。暴力担当アーリッサはとても人の運に恵まれているようです。
「中央広場のメインの高い建物、ご覧になって?」屋上にモニターがつけられました。学園からも見えて気になります。今、話題のスポットです。
2-3 実はプレゼント
「我が国もやっと文明国の仲間入りですな。」「いえいえ、編集長の仕業ですよね。」一瞬、とう晦して他人事の様に言ったけれど。間違いない。カルガン編集長、もとい王都新聞オーナーの手配です。
「これで、我々も遠見が出来ます。」キラキラと光りが躍る数奇な運命のデザイナー、アーリッサを見つめて、カルガンが語りかけます。今日は業界新聞の取材で、その話題のスポットで、対談しています。
アーリッサは誰に言うでもなく口にします。「田舎の看板がデジタルになっていったのを思い出します。大きなモニターが付きだすとあっという間に増えましたっけ。あんな大きな物、個人で付けられるのですねえ。感心します。」いつかの件、アーリッサが泣いたことを漏らした件を咎めようと思っていたけれど、きっと思惑の有っての事でしょう。それに実のところ、この頃ときたらとても良くして貰っているのです。どうでも良くなりました。
金色の髪を纏めたアーリッサが、潤ませていた美しい宝石の目を、懐かし気に細めています。
「まだまだこれからですよ。」嬉しいのでしょうか、自称編集長はいつもの笑みより高揚して見えます。「前世では他人事でしたが、こうしてここの知人が手を出すと急に大変さが伺えます。」驚いた顔と目が合います。「大きな事業なのでしょう?」小首を傾げるアーリッサ。
「知人。の、仕事に、興味がありますか。」彼の男らしさが圧力の様に沁みて来ます。「はい。」「長生きしましょう。」編集長の香水はかいだことのない、男らしい、何とも良いにおいがするのです。大人の目にはどんな凄いものが映っているのかと、編集長を見ます。
「暫くは、日に二度その日のニュースを流して、一階の売り場で新聞や雑誌を売ります。資金の回収もあるので、どうぞご贔屓に。」「スポンサーを募ったら如何ですか。」「一流紙ですから、公平性は欠けません。自費で賄います。」嬉しげに、楽しげに笑うアーリッサ。
2-3 応援
「応援します!」新聞社を去る頃には、なんだかもう嬉しくなって。早速、一階で、経済紙、業界新聞と週刊誌の類を、束で購入します。キュンとしちゃいました。さり気無くそれを言う。それはもう、大変だろうに。格好いい大人ですね。
「これで釣って、定期購読者を紹介します。」馬車がいっぱいになって幸せです。
カルガン編集長は、余裕の笑みが素敵なのです。
++++ ストーリー3- 5アイテム2泉の太鼓 +++
3-5 予言
8月も終わりです。覚醒して5か月が経ちました。卒業式イベント迄、1年11ヶ月を切りました。
律儀に主人が売り出したポップなデザインの保冷グッズで身を固めた、可愛い可愛い従者達。行き交う人も何かしら身に着けています。これまた、いえ最早ファンキーな装いの発案者アーリッサ。
令嬢のマストアイテムで扇ぎながら、「それにしても、降らないわね。」仁王立ちの覚醒者アーリッサが王都の中央広場から北区の神殿上の暗雲を見上ています。「雲が定所に渦巻き、雨の降らない暑い暑い乾いた夏ね。」
「真面目で使命感に燃える聖女様達によって、マケド国中の神殿に多くの泉と信者が湧きました。」従者が、的を射た事を言ってくる。「なら、国民に、乾いた季節の先に疫病が有り、侵略が有るのではないかと思われるかしら。」「きっと予言を信じる者がまた増えますよ。」「疫病の詳細を周知し注意喚起をし易くなりますね。」「嘆願書だって、支援要請だって目を通してくれるでしょう。」「それは好いわね。」
王都にいて予言者であるアーリッサは、聖女様の活躍を報道で知るのです。
「お嬢様、今日は争う者はいませんね。」至福の商人の太鼓で水が湧いた初日は、我先に汲もうと民に混乱が見られた。気になって様子を見に来ています。大型モニターに定時に映し出されるニュースに目をやると、暗雲に走る雷光が気に掛かります。
可愛いアーリッサ一行を見つけて自社の窓から、軽く手を振る軽くカルガン編集長。嬉しそうに手を振り返すアーリッサを見て、殊更に笑みを深くします。
そして帽子から覗く輝く金色の髪の予言者アーリッサの後ろ。そこに、予言の載った雑誌を祖国に持ち帰る数人の観光客の姿が。それは、一冊が碧の髪の王子まで齎されました。そして、困った事に、次に通った者達が抱え込む数冊が、予言で敵対する国の城にも届けられるのです。
+ 強制力5-2誘拐 ++++++
5-2 行脚
「馬を扱える様に教えてやるからな。あと、鞭だ。魔術師団長が直々に見てくれるから。わしはまだ、カルガンと話があるから又な、アーリッサ。今日は皆、ゆっくり休みなさい。」テロリストアーリッサを筆頭に全員で将軍に感謝を伝えます。将軍のお陰で、やっとお開きに成りました。
5-2 特攻の後始末
翌日の号外の見出しは、「真夜中の魔獣掃討大作戦?」「王都周辺の魔獣を呼び寄せて、駆除したのですって。」「魔術師団とクラブが共同で。へえ。物は言いようね。」「お嬢様の評判の為ですよ。」「まだ落ちる評判があったのか。」渋い使用人の顔。「ちゃんとお礼を言うわね。だからそんな目で見ないで、とは言えないわね。帰還とは戦地から帰る事で、帰る先を奇襲して戦地にする事ではないなんて、散々に叱られた後だもの。」視線が痛い。
上手い事をいうものだ。流石だと感心しているが、言えばきっと次こそマルエラが切れる。『着いた先が魔術師団とは上出来、いや、初めから魔獣討伐隊を狙えば良かった。』
「もう本当に、将軍様方に頭が上がらないわ。」と、思い当たった。「あれ、ひょっとしたら今回が初めてでは無く、うちの連中がカルガン様に弱いのは、今までのあれこれで、王都新聞社にお世話に成りっぱなしだったせいかも知れない。」見ると、今更という顔の使用人。
編集長が初めて伯爵邸にいらした日の、使用人の呆れっぷりを思いだした。悪い汗が、滝のように出る。「まずいなんてものじゃないわね。」悪役令嬢アーリッサの足元に水しぶきが上がり綺麗な2重の虹が見える。穴ではないが入りたい、落ちるアーリッサ。
暴力担当のアーリッサが何をやらかしてきたか訊くより、テンコ盛りで上塗りした件を忘れ去りたい。『まさか断罪ルートに乗りっぱなしなんてことは、いや今不死身ということは、やはり、まずいわ。』
震える手で新聞をチェックしていると、神官たちが微妙な面持ちで、お見舞いを言ってくれました。「うん。多分、死んだりはしないわね。お気遣いありがとう、皆様もお気をつけて。」気心が知れてみると悪い人はいないようね。要請も良く聞き入れてくれるし、情報も喋る。そして、一緒に働いている所を見ると最早うちの使用人です。
誘拐犯の奴らも生きています。「あれは、魔獣を落とした音だったのか。結局黒幕がいたのか訊き損ねたわね。ジュニアチャンピオンを誘拐しようとして、返り討ち。スポーツ新聞に載っただけか、小さいわね。前科がバレにバレて、犯罪奴隷になったようよ。マルエラ、将軍と新聞社に何か届けたの?」マルエラに抜かりなし。「ありがとうね。感謝しているわ。」
++++++ 5-7視覚情報の効果 +
5-7 乙女のつぶやき
2月末。覚醒して11ヶ月。断罪イベント迄、残り1年5ヶ月を切りました。
毎日学園からモニターで様子を見ながら。つくづく、カルガン様の偉業を感じます。「モニターの設置代金は取り戻せているでしょうか。」キラキラと青く輝くヤラナ様が横で吹き出しました。笑われるようなことを言ったかしら。
+ 新シナリオ進行中7-2必要?侵略対策を邪魔する者 +++
7-2 蟄居
覚醒して1年9ヶ月を過ぎ、殿下の卒業式まで7ヶ月を切りました。
「お誕生おめでとう、私。」1月の王都です。フーセン伯爵邸の周りを厳めしい男達が囲んでいます。護衛のための騎士ではありません。罰です。「どうしても、王家は予言の聖女と認めず、私を虚言癖のあるお騒がせ女として扱いをするつもりのようですね。」覚醒者で予言の聖女アーリッサは質の悪いお騒がせ者として、蟄居させられてしまいました。王都の伯爵邸の前に騎士団から見張りが出され、前を通る者たちを威圧しています。
「いい見世物だわ。失礼ね!」むかついたので、一番高い窓から大きく城に向かって叫んだ。「こんな事している場合じゃ無いでしょう!」
翌日の新聞には「予言の聖女様ご乱心、聖女か世を乱す不埒ものか、」とタイトルが付き、顛末が、面白おかしく書かれていた。
新聞社の二枚目の編集者が嬉しそうにペンを入れている。「さて、聖女様は、気に入ってくれたかな。」長い足を組み替えると、お洒落な靴が輝いた。
+ 勝利、金と力と残るは9-2敵は王城にあり ++++
9-2 ドキュメント本
勝利に酔う人の熱気が侵略ドキュメントという文字を奪い合った。
今日も店長が補足する。「王都新聞社の凄い所は、すぐに後編を販売したところですよ。」王に認められていない覚醒者アーリッサはツールですらが本について熱く語る姿を見て不安に思う。「カルガン様が心配だわ。」
導火線を火が走るように結果に向かって行く。「やっぱり。」アーリッサが贔屓にしている王都新聞の危機です、見過ごせません。
9-2 カルガンの拘束
1月28日。
王室から禁書としてドキュメントの一部が押収され、編集長ことオーナーのカルガン様が拘束されました。
彼が連れ去られた後の王都新聞社前を目指して、慌ただしく中央公園へ走り込んで行く人影達。学園に北区の王都警備隊横から知らせが飛んで来る。
キラキラと弾む青いツインテ、王城側を双眼鏡で覗いたままで学園に響くヤラナ様の声。「やはりね、来たわよ。我々は神に与えられた表現と言論の自由を守る!王家の横暴を許すな。発信せよ。」魔法便の一斉送信。街に散っていた学生達に王都民が呼応し時の声が上がる。すぐににわか信者・読者達が王城へ抗議に詰めかけ、新聞社と書店を守るバリケードを設置。王都や街の書店ではデモ隊との小競り合いで、押収どころではなくなった。
そんな渦中に有りながら、社はカルガンが残した指示どおりに昼夜を通して増刷を繰り返す。増刷も直ぐに買い手がついて無くなった。業者によって巧みに運び出される増刷便。多くの者が禁書の売買に関わった。そして国中に拡散する不満。王城には、カルガンを釈放せよと毎日人が押し寄せる。
9-2 署名活動
「カルガン様の釈放及び無罪放免の要求嘆願書をしたため、同士を募り署名活動をします。」「編集長は、予言の聖女様のファンですから、きっと喜びますよ。」目を見開いたアーリッサは、共に署名を募る記者の言葉が嬉しい。「初めて聞きました。」居ても立っても居られない不安と心配の波間に、頼りなく、けれど仄かに優しい灯りがともる。「貴族の署名集めは私に任せて下さい。やります。無罪放免釈放です。」
9-2 暴力以外の力
いつもそこに在る渦巻く黒い巨大な塊。王のいる王城と一体となっている蠢く暗さ。チラチラと光る目障りな暗雲を睨みつけたアーリッサ。曇を走る迅雷がトパーズの目に映り込む。途端に、電源が入り効果音が。悪役令嬢の目が大きく怪しく金色に輝く。「知っているわ。私は、王家にとって署名など大した事では無いと、ちゃんと分かっている。」口の端を引き上げ薄く笑うアーリッサ。従者の主に魔が差します。
伯爵邸に入り込む知れ者一代男爵家の為にナッシュを神殿に預け、カルガンまで身柄を王城に捕られたアーリッサの悲しみを、従者が憂い気遣います。
様子のおかしい悪役令嬢を乗せた馬車が南区を目指す。中央公園には新聞社前にデモ隊、学園からは王城を囲む人混み、東西に走る大街道から王城南門へも詰め寄る人と馬車、商店街など書店の近くは通れない。
南北を走る大街道を南へ行くフーセン伯爵家の馬車から、魔法便が飛び立つ。
9-2 親衛隊の発案
魔獣山寄りの南区、フーセン伯爵邸。眉を顰める従者、「クラブに集まった親衛隊から、良くない案が届いています。」「そう。下品で厭らしくても素晴らしく有効な手段を採用しますと注文したの、お礼を返送して頂戴。」いつもより暗く闇を感じる居間。テラテラと濡れたような赤味の濃い黄金の輝きアーリッサ、「ここからが勝負ね。私にしか出来ない事をするだけだわ。」アーリッサを良く知っているファンなら確かな案を提出して呉れるでしょう。いつもの爽やかさは無く、より暗い影を纏った悪役令嬢が、異常な輝きを放つトパーズの目で、書き付けられた並んだ案を見る。気に入ったものがあった、歓喜が見て取れる。「まずは最難関から当たるべきね。」もうすっかりと笑ってしまっている暴力担当アーリッサが告げる。「近衛隊長カクラ様に直談判に、王城へ参ります。」ニールが痛そうに呻きを上げる。
9-2 カチコミアーリッサ
戦国ならば敵の首魁を取り本丸を落とすところだがそうではない。主悪役令嬢は王城へ行き、王を守っている最強の敵に会うと言う。王に命を狙われているアーリッサを、果敢にニールが押し留める。「王を狙っての殴り込みにしか見えません。追随する者が出て酷いことになります。内乱です、処刑まっしぐらです。ただの署名活動なら、近衛騎士隊長でなく騎士団長に合いに行きましょう。同じ人です。私がアポを取ります。」と怒りの滲む声で言い張りながらガーガンアーリッサを軟禁し、一時も目を離さぬまま、複数の矢のような魔法便のやり取りだけで事を終えてしまいました。
「何故アポが取れるの。」「そのままを伝えただけです。将軍やデカリア様方、マルエラ等に知れ渡りました。良い知恵がすぐに帰ってきましたよ。準備も任せるように言われています。行くだけでいいのです。神殿に行きましょう。神殿長の招待で騎士団長様が御出でに成ります。お時間が取れ次第です、待たせてはいけません、いつでも行けるように用意しましょう。」「今一番忙しい時に呼び出してしまったの、申し訳ないわね。お気遣いが心苦しいわ。」「王城へ行けばもっと申し訳なくなります。分かりませんか。サインが貰えるか訊くだけでしょう。対立して騒がせないで下さい。」「していないわ、王のお気に召さないだけで。殺されかけているだけよ。」高揚したトパーズの目が怪しく光る。
9-2 大魔王
聖女らしく整えられて、予言の聖女アーリッサはいつもにも増して美しく、神々しく見える。手には、署名を待つ用紙と嘆願書を大切に持つ。「これを手に私が有力貴族を訪ねる。私と敵対するなら滅ぼす。雷撃・魔獣・水没、どれでも選べと、圧を掛けて回る。そして賛同した貴族の数を盾に、王家と同じ交渉をします。」行動確認する魔王アーリッサに対し、ニールが更に厳しい態度で臨みます。
9-2 押しとどめる力と開眼
「止めて下さい。交渉では無く脅しです。お嬢様、必要ありません。それも知らせてあります。安心してデカリア様にお任せください。全て上手く行くでしょう。拘束或いは排除される危険性があります。国軍が国外に出ていても全部ではないし、騎士団、護衛団もいます。」「数の暴力ね。」「魔獣で対抗なんて以ての外ですよ。」ニールにボレーで返されて、覚醒大魔王金色のアーリッサは、ふと王を取ってしまおうかと思いつく。魔術師が守っているだろうが、今なら王城に自分の外部魔力について知っている人間はいない、やれる。カヌガさんが言っていたではないか、弱く見せて強いのがカッコいいと。歌って倒す、又は破廉恥な格好で洗脳をする。直ぐにげんなりとした、心臓に悪かったのだ。想定を止める。が、覚悟は決まった。揺れる心のままに手段は選べる。何でもやってやる。またも薄く笑ってしまう。
9-2 他者の手配
自暴自棄とも違う様子の主人に、ニールが語りかける。「将軍が言ったのですよ。むしろ特別待遇だそうです。信仰が薄くとも、マケド国民は皆が神殿で祝福を受けた信者です。一枚岩でない王室の命令で、カルガン様が酷い扱いを受けているわけではないのですよ。王妃様とも対立します、良いのですか。」アーリッサが、主思いの従者を見る。ニールがいつもならしゃくり上げ始めるだろう、主アーリッサの為にハンカチを用意する。
9-2 繋ぎ止める力
「お嬢様、カルガン様に嫌われてはいけません。大丈夫です。沢山の貴族が署名してくれます。きっと上手く行きます。」そうではない。美しく仕上げられた大魔王アーリッサが静かに告げる。「これは、悪役令嬢アーリッサが今できる最大限の救出劇だ。もしもカルガン様を虐げ放さぬ場合、最悪の場合は、国ごと頂くわ。」覚悟を決め、それでも苦しみめいて涙をこぼした。
9-2 青のドミノ
魔王アーリッサの決意は様々な人を動かした。けれど、王には届かない。
「オーナーを開放しろ、」「王都新聞を守れ、」「報道の自由だ!」広場で、神殿で、カルガンの放免を叫ぶ人達。身分の上下なく人々が彼の開放を叫び、「王室の神殿軽視を許すな。」と非難し、なされなかった対応を糾弾する。「忘れたと思ってるのか!」いくら騒いだところで、騒ぎすら気にも掛けぬ王。
王城を取り巻き勢いづくデモ隊。「アーリッサ様、お待たせしました。頃合いです。直ぐ片が付きますよ。」深い深い海の青のヤラナ様の仕掛けが動く。『外国からの介入が有り王家の敵対勢力に加勢して、一気に国を転覆させるのでは。』と、怖い噂がまた王城に流れる。
「アーリッサ様。カルガン氏が放免になったら、近いうちに神殿を絞め直しましょう。王を落とすには諸外国、諸外国には神殿ですよ。」ヤラナ様が言うのならカルガン編集長が戻るのだろう。
アーリッサはただ嬉しい。「やります。どこでも絞めてやります。ナッシュの見舞いを邪魔する神官は要りません。」「あら、取りこぼしがあったのね。全く。神殿には自浄機能が必要ね。アーリッサ様の証言があれば、直ぐに綺麗になりますから、諸外国も丸ごと締められるように彼らを集めてやりましょう。うん、いつがいいかな。」何時の間にか、執事や副官のように見覚えのある学園の者達を侍らせている。「神殿のアーリッサ様に力があれば国くらい守れます。国民に関心のない王を攻めても、外国に睨みが効きますから。私達の卒業と共に国を捨てるにしても、自由に使える身分を手に入れますよ。」流石、政治力の青。悪役令嬢ヤラナ様が頼もしい。
9-2 作戦と方針と記者の見解
王に殺し屋を向けられた予言の聖女アーリッサに、王都新聞の記者が言う。「アーリッサ様もお気を付けください。私達が拘束されてしまうと、オーナーが理不尽な要求を飲まされかねません。足を引っ張らないことも大切です。慎重にお願いしますよ。」慎重に。
「ひょっとして、署名活動時の騒ぎが知られているのかしら。」「何ですか。」「いえ。」弱く見せておいて一撃ですよ、秘密です。
庶民の署名嘆願を仕切った記者が言う、「うちはオーナーを帰して貰わなくちゃいけませんから。王ではなく、その為されなかった対応に的を絞り、非難し咎め立てますよ。新聞は城にも納めていますからね。オーナーの身柄を捕っても、記事が的を絞っていても、尚酷くなる事態を見れば、何時までも失策を抱えてはいられないでしょう。すぐオーナーが帰ってきますよ。」ヤラナ様が明言した後に聞くと、更に信ぴょう性が増しました。ナッシュの回復を祈るように待ったアーリッサが、希望を胸にカルガン編集長を待ちます。
王都新聞社では、ニュースとしていつどこで騒ぎが有ったと、民衆が王の職責を問いただす姿が、大型モニターに映し出されます。「神が与えた表現と言論の自由を守れ、」と学生が叫び、「神殿の軽視を許すな、神殿が認めた予言の聖女を守れ。」と信徒が騒ぐ。戦地を忘れさせないように、聖女と魔導士と兵の掲げた所属の分かる旗、そして奔走していた信者の様子が。休みなく繰り返し映される。王都の様子は地方に伝えられ、地方が遅れまじとまた騒ぐ。王都新聞社のオーナーを拘束して尚更に大きく成るばかりの今、神殿を軽視する神敵を理由に外国が動き出してもおかしくはない。
9-2 強い記憶
報道による煽りは、公平性を重んじるカルガンが無事解放され戻ると、早々に避難地での民衆の苦労や復興に尽力する人々の、ドキュメントに居切り替わった。公平な報道。これこそ、カルガン氏が放免された理由である。
しかし、モニター画面が変わっても、王に燻ぶる不満の声は国中に漂い続ける。王城に詰めかけた人々が、「謝罪しろ!」「過ちを認めないのか、」と声を上げる。
王室が行った失策、行わなかった失点、不都合を事細かに言い上げ騒ぎ立てる。理解しない王に押し寄せる不満。大衆の中には確かな記憶がある。果敢に立ち向かう姿。続き超えたい、他者を思いやり献身する、小さな姿。
疫病の村人に知り合いは無くとも、民衆の心は、共に有る。将軍とヤラナ様が仕掛けた、武器を持たず一途に立ち向かった女子供と共に。
馬車から降りるアーリッサに手を貸す従者ニール、「お嬢様、これほど騒いでマケド国は大丈夫なのでしょうか。」手を借りているフーセン伯爵家の宝石、金の髪の令嬢アーリッサが答える、「皆、どこかで思っているのよ。王妃様が出てくるまでは大丈夫だって。いつだって最後は王妃様頼みだったじゃないの。静かなうちはまだまだ遊んでいて大丈夫だって。そしてできる今の内に、自分達だって何か立派なことがしたいじゃないの。いつかの子供たちのようにね。」
断罪を回避したいアーリッサが覚醒して1年と11ヶ月。殿下の卒業式の断罪イベントまで残り5ヶ月です。
9-2 おかえりなさい
2月10日。
中央広場前の王都新聞社。「お返りなさいカルガン様。」やっとアーリッサが訪ねると、少しやつれた人目を惹く洒落者の中年男が、嬉しそうに笑った。「名前を呼んでくれるのですね。」面映ゆくて、うつむき加減に伝えるアーリッサ。「本当に心配しました。ご無事でようございました。」カルガンは真直ぐに歩み寄るとじっと宝石のようなアーリッサを見つめている。「嘆願をありがとうございます。」「いえ、こちらこそ。モニターが、特集が、私たちを本当に助けてくれていると理解しています。それらがカルガン様のご配慮なのだと分かっています。慮って頂き、手を尽くして頂き、本当にありがとうございます。感謝しています。」息を吸い込んで男は言う。「苦労が報われますね。」「お体をいたわってください。心配ですなのです。」一層笑みを深めて男は言った。「神殿で貴女にあった時に決めました。尽くすと。」ゆっくりとかみしめるように言う。「貴女の憂いを取り除きます。」カルガンの目を見つめるアーリッサ。氏の手がゆっくりと髪に触れてくる。痺れるような幸せにアーリッサは感嘆する。
+++++ 不要キャラの削除10-6フーセン服飾店 ++++++
10-6 口実
「王を庇うように要請があった、予言の聖女の返答が新聞に載ると、連日記載された甲斐があっての事でしょう、新聞のみならず新聞社の書籍は売れに売れていますよ。流石、信頼の
おける王都新聞社です。景気のいい話は、気分がいいですなあ。」と、ザンシ店長。
「よし。」と、カルガン編集長推しのアーリッサは満面の笑顔。お嬢様アーリッサが王都新聞社を贔屓にしていることは、店中の者に知れ渡っています。
デザイン画を手にしたツールも目を細めています。「お嬢さま。最初に会った頃と比べたら、随分とお綺麗になられたじゃないですか。もう、別人ですよ。気になった男性とか、アプローチしてみたらどうですか。敷居が高くなりすぎて男側からは言いにくいものですよ。聖女様ですから。自分から動けば、きっと好いことが有りますよ。」
それを聞いていたザンシが、「帰りに新聞を買いに行って下さいよ。ちゃんと編集長に服のコメントも貰って下さい、参考にしますから。業界新聞の記者さんの声も忘れずに。それと、くれぐれもまた攫われない様にして下さいね。」「飛んで火にいる夏の虫よ。」「悪い顔してますよ。」ニタニタと笑うだけのツールと違って、店長が釘を刺します。「売れる前にイメージを崩さないでお願いします。格好良い妖艶系美女でね、お願いしますよ。」広告塔アーリッサが真面目な顔で頷きます。
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10-7 新聞社
新聞を買い、訊いてみると、ちょうど編集長が戻っていると言う。厚かましいと思いながらも、広告塔アーリッサは仕事中のカルガン編集長を訪ねてみる。ちょうど戻った記者が驚いたように編集長に知らせてくれる。
「おや。」そう言って、事問いたげに、じっと黒衣の麗しい聖女アーリッサを見つめるカルガン。少し、言葉が遅れるアーリッサ。「あの、ブランドの新しいコンセプトです。黒の衣装は喪服にも見えます。是非、編集長と業界新聞記者の方の感想を聞くようにと。アポもとらず、お仕事中に。失礼いたしました。すぐに帰ります。」「いえ、お気になさらずに。いつでも歓迎します。」
わざわざ記者の所までエスコートをしてくれる。「カルガン編集長、如何でしょう。」「ご心配なく、売れると思いますよ。大人の女性らしい。」にこりと微笑む聖女を見下ろすカルガン。「いつものイメージと違った、魅惑的な装いです。仕事が立て込んでいて、お相手できませんが、どうぞごゆっくり。」「お世話になります。あの、力強いご意見をありがとうございます。」
「どういたしまして。」何時ものように深い笑みで迎えられて、面映ゆいアーリッサの唇が弧を描く。黒いベールの奥からカルガン編集長の後姿をじっと見送る。
「初々しい悪女ですね。」モード誌の担当に声を掛けられて、つい訊いてしまう。「似合いませんか。」彼女は楽しそうに笑いながら付き合ってくれた。「これが嫌いな男はいませんよ。そして、聖女様がここまでして下さるなら、乗らない女は腰抜けです。これは記事の差し替えですね。ようこそ、修羅場の編集室へ。」フーセン服飾店が扱うブランドの主アーリッサはしばらく広告塔として、黒いベールの衣装を着ることなどを話した。「もう少し色っぽく見えるように、練習してみます。」
「少し後にしたら如何ですか、ちょうど王家へ返答を出すでしょう。疫病や侵略に対する評価が足りない王家に、黒衣の聖女。受けますよ。」また新聞社に利益が出ますと、微笑む記者。「なるほど。」
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10-12 言葉
夕刻、伯爵家のアーリッサを東都新聞社の編集長が訪ねた。「取材に来ました。」いつもの、作り物めいた深い笑みで見下ろす。カルガンの様に長身のアーリッサを見下ろす男は少ない。「貴女の運命を記事にします。」
穏やかに静かに対談をする。この人を一人占めするのはどんな人だろう。合間にそんなことを考える。
補足しながらしばし答える。「今日は、このくらいにしましょう。」特集を組むには短い。「はい。」「実は、もうほとんどできているのです。」編集長らしい。「また、お願いします。」カルガンが笑みをまた深くする。
「はい。」と、答えると。「明日の決闘を、楽しみにしています。」手を握っていつもの様に見下ろす。「貴方の運命を、見届けます。」そう言った。
玄関ホールで彼に別れを告げて見送った。他人行儀に、貴女を見届けさせて頂きます。とは言わなかった。こんな時なのに。ただそれだけで、アーリッサの心は揺れるのだ。
悪役令嬢を選ぶと、恋愛にカテゴライズされるので、男だけ切り出します。摘まんだライトも作ります。本編は全削除中、チビチビ出し直しです。