ー幸せー
「何か食べたいものとかあるんですか?」
「うーん、そうだなあ…魚かな。一人暮らしだとあまり食べないし」
「だったら近くに川がありますので、そこに向かいましょう」
ナビ子の案内に従い、僕は川にでる。
「そういや釣りスキルとか持ってないけど」
「狩猟で獲ればいいんですよ。銛です」
ワイルドだなあ。
「あと別にスキルはなくても行動はできますよ。それに、その行動を繰り返してるとスキルとして習得できることもあります」
「ふーん」
つまり、スキルと言いながら、自分の能力の表面化ってことなわけね。ポイントで獲得すると、技能が身につくのはかなりチートだけど。
「まあとりあえず今は目下の食料の確保が大事だし、銛で突くことにするよ」
僕はアイテムボックスから銛を取り出し、川に入っていく。近くの魚は逃げてしまうため、僕は遠くに向かって銛を投げる。スキル補正のおかげか、何度か投げると魚が取れた。
「僥倖僥倖」
料理スキルで魚の下処理をし、串に刺し、火を起こし、塩をかけ焼いた。調味料もいくつかアイテムボックスに入っていたので、料理スキルは必須だったかもしれない。
パチパチという焚き火の音と、目の前で焼ける塩魚が、昨日までの現代生活からは程遠く、理想の生活だった。僕は焚き火を見てボーッとし、焼き上がった魚にかぶりつく。
「うまい…」
まともな飯を食べるのはいつぶりだろう。いつだって終電帰りで、夜飯は近くのファーストフード店か、牛丼だった。体臭が明らかに異様になっていくのに目を瞑りながら、僕は毎日生きるためだけに栄養を補給していた。
「うまっ…うまい…」
涙が出た。次から次へと涙が出て止まらなかった。鼻水も出た。誰も見ていないのだ。僕は顔面をぐしゃぐしゃにしながら、魚を全部たべきった。
「ごちそうさまでした」
自然と手を合わせた。誰も見ていないのにこの挨拶をしたのはいつぶりだろう。生きているものを、命をいただいたことに、感謝する気持ちだった。
「自慰行為はおわりましたか?」
ナビ子が変わらない口調で言う。そういや1人じゃなかった。
「いや言い方。もう少し優しくしてよ。社畜上がりなんだから」
生きてるように死んでいて、死んでるように生きていた、あの日々から解放されたのだ、少しぐらい浸ってもいいだろう。
「落ち着いたら家に戻りますよ。農作も並列して行うべきです。この世界では、最低限農作さえ行っていれば、飢え死にしません」
「そんなに農業が発達してるんだ。あと30分くらいだけ待って」
僕は焚き火を眺めボーッとしていた。満足したら火を消し、家に戻った。