ー新生活ー
ー新しくスタートを切った。何もかも、わからないままー
林をしばらく散策していくと、いい感じの横穴があったので、そこをとりあえずの住処とすることにした。
住処の前に、気持ち程度でいいから柵を作りたい。
「スキルってどうやって使うの?」
「使うと思えば使えますよ。あとはスキル獲得ボーナスで、そのスキルにふさわしい道具がアイテムボックスに入ってますね」
「ふーん、アイテムボックス取ってない場合はどうなるの?」
「地面にまろびでます」
「まろびでるんだ」
ていうかそもそも斧だけは何故かこっちにきた時から横にあるんだった。僕は斧を手に持ち木に向かって振りかぶった。すると、身体がまるで木の伐採の何たるかをしったかのように、スルスルと動いていく。
「お〜」
斧、鋸、鉋を使いこなした僕はあっという間に柵の材料を揃えた。
「次は工作スキルってわけね…」
金槌と釘を使って柵を作っていく。面白いように綺麗に柵は完成した。横穴の周りに柵を建て、我が家の完成だ。
「これで良し。他の人も誰か住んでるなら近寄らないだろ」
「誰か住んでるから奪いに来る輩もいそうですけどね」
そういう悲しい妄想はしないこととする。そもそも今とられて困るものもないし。
「冗談です。この辺りに人の気配はなかったので、よっぽど強盗の類は来ないと思いますよ」
AIが冗談っぽく言う。いい性格してるなあ。
「AIって呼びにくいけど名前ないの?」
「ないですね」
「じゃあ好きに呼んでいい?」
「ご自由に」
そう言われるとそれはそれで困るんだよな…まあでもこういうのは簡潔なのが1番いい。
「ナビゲーターだからナビィ…は怒られそうだから…ナビ子にしよう。女の子だし」
「ナビ子…マスター、ネーミングセンスないですね」
「なんでだよ。かわいいだろナビ子」
奥ゆかしきジャパニーズトラディショナルネームだぞ〇〇子。子という名前には生まれてから死ぬまでそのような人でいてほしいという由来があってだな。
「マスターは生まれてから死ぬまで私にナビゲートして欲しいんですか?」
「言われてみれば確かに。でも生まれてから死ぬまで正解に導いてくれる存在がいたら、それは最高じゃない?」
人生はわからないことばかりで、正解も何も知らないままで、答え合わせもないまま進んでいく。気づいたらもう挽回不可能なところまで来てしまった僕のような存在からしたら、ある意味ナビ子は理想のパートナーだろう。
「改めて、よろしくね、ナビ子」
「はいマスター。あなたの異世界ライフが快適に続きますように。一緒に頑張っていきましょう」
ナビ子はどこか機嫌が良さそうだ。
「ちなみにさっきの索敵は本来lv2の能力なので、常に使えてるわけではないので、期待しないでくださいね」
「そうなんだ、了解」
まあしばらくは人間に会わなくて住むということがわかっただけでも、儲け物だろ。とりあえず次は食べ物の確保だなあと、僕はぼんやりと次にやることを考えていくのだった。