ー目覚めー
目を覚ますと、切り立った崖の上だった。目前には海が広がり、背後には林が広がっている。そして、寝転がった自分の横には、斧。やることは一つしかない。僕は斧を手に取り、
「うおおおおおおおおあのクソ上司!!!!ボケが!!!ゴミが!!!!死ね!!!!死ね!!!!死ね!!!!殺す!!!!」
手当たり次第そこら中に振り回す。素人の斧捌きなど大したことないので、木には浅い傷だけが刻まれていく。
「はあ、はあ…」
身体を思い切り動かしたおかげで、ひととおりスッキリした。ろくな指導もしないくせに、仕事だけは山のように持ってきて、できた書類には文句を言う、ああ言う産業廃棄物が世の中を悪くしている。
「そして、その産業廃棄物を廃棄できなかった俺もまた、社会を悪くしているんだろうな」
文句を言うのは簡単で、結局生き残っていくのは図太いゴミで、生き残った者たちが数を増やし社会を作っていく。自分は結局、淘汰される側なのだ。
人に何かものを強く言うことができなかった。自分が人に何か物を強く言われるのが嫌だったから。人に関わるのが嫌だった。人に関わられるのが嫌だったから。ずっと1人で生きていき、お互いに干渉しない相手と、適当な雑談でもできて生きていければ最高だった。でも、社会に出れば、嫌と言うほど人と関わらねばならず、人に何かをさせる能力が、1番大切だった。
「何も人にさせれなかったなあ」
人に物を頼むことができなくて、何かをやってもらうことが嫌いで。それでも自分でやり切る能力もなくて、よくパンクした。自分の能力に関係なく上司はゴミだったが、上司に関係なく自分の能力はゴミだった。
「…まあこの世界に来た先人たちも、1人でやっていけてるらしいし、なんとか1人でやっていけるだろう」
前の世界のことはもう忘れよう。とりあえず住む家がいる。住む家がいる?無理じゃない?なに、住む家って。
「洞窟でも探すか…てかチート能力って何があんの?」
「これからそれを説明します」
脳内で知らない女性の機械音がした。