ー決戦準備ー
「しかし寂しいなあ」
「しょうがないじゃないですか。帰ってくるまで何日かかるかわからないし、街で預けたら1日8000ギルですよ。もっかい捕まえたほうが絶対いいです」
僕は逃したウギとトリトリスのことを思い出していた。何ヶ月も寝食を共にし、自身の栄養を補給してくれた彼らを逃すのは寂しかったが、餌もやれないのに飼うわけにもいかない。街に預けようかと思ったが、今の手持ちでは何日も払えなかった。
「それよりほら、出発の準備をしますよ」
ナビ子は僕の気を紛らわそうとしてくれる。優しい。
「準備って言ってもな…」
念の為余裕をもってトレーニングを終わらせたが、別にやることはない。食料は干し肉とマンドラゴラがたっぷりアイテムボックスに入っているのでしばらくは困ることはない。武器も使い慣れた斧を使うつもりだし…。
「いるとしたら防具かなあ。あとは便利なアイテムとかあるといいよね」
隠密でコソコソしながら敵を襲うつもりだから、見つかって袋叩きにされることはないだろうけど、不慮の事故はありえそうだ。あとは気を引けるアイテムがあればいい。爆竹とか。
「遠隔で起爆できる爆竹と防具が欲しいんだけど。身軽で強いやつ」
雑貨屋に入って店員に話しかける。
「爆竹は置いてるよ。身軽で丈夫な防具ね…おすすめはこれ。網スケシャツ」
店員はレジの横に置いてあるシャツを指差す。
「いやそんな久保帯人先生が着てそうなシャツ勧められてもな…」
「でもこの防具10回までは致命傷防いでくれるよ」
「その薄さでなんでそうなるんだよ」
理屈が合わないだろ理屈が。
「この世界では装備が躊躇われるものほど威力が強いんだよ。だからこの装備は強い」
「マスター、命には変えられませんよ」
「くっ…」
僕は躊躇いながら網透けシャツを買う。ただでさえサツキとミライに引かれてるのにこんな装備だとドン引きだろうが。
「まいどあり」
店員は嬉しそうに言った。
やるべきことを終えた僕は、街をぶらぶらしたり、肩慣らしにゴブリンたちを狩ったりして、残り2日を過ごした。なんとなしに元の世界の元上司の行く末を確認したところ、職場で発狂して刃物を振り回したあと、窓から飛び降りたらしい。元の世界などもうどうでもいいと思っていたが、案外スッキリするものだな、と思った。




