ー幕間ー
目を覚ますと真っ白な部屋にいた。仰向けになっていた体を起こし、尻餅をついたような体勢になる。尻に触れる地面はそこにあるようで、ないような、変な感覚だった。
「目が覚めたか」
不意に正面から声がし、見上げると白い光の球があった。
「お前であの方法を使って異世界に行こうとしたやつは100人目じゃ」
光の玉は言う。少し眩しい。
「確かに、ワシは異世界人を必要としておった。そのためにあそこにゲートも作った。だけどそれはあそこでバカみたいにスピードを出す無謀なものを呼び出すためであってー」
光の玉は呆れているようだった。
「お前たちみたいに自殺志願者を集めるためじゃなかったんだがのう」
「草」
僕は思わず笑ってしまった。あのあたりだけで100人って多すぎだろう。現実と創作の区別もつかないような手段に縋るしかない人間が、そんなにいるなんて、僕たちは生きるのがあまりに下手だ。
「まああのゲートは100人で閉じるようになっておったから、お前さんが最後じゃよ、良かったな無事これて。いや良かったのか?お前さんたち死にたかったんだろう?」
「いや、他の人は知らないが、僕は死にたかったわけじゃなくて、逃げ出したかっただけ。だから、異世界にこれて、まあ良かったよ」
いや自殺する人はみんな、現実から逃げ出したいだけじゃないかな。目の前の現実に耐えられなくて。立ち向かう力もなくて。異世界への希望に縋った僕たちは、死ぬことも完全には覚悟できない、さらなる弱者かもしれない。
「そんな弱者ばっかり異世界に送り込んで、あなたは何をしようとしているんですか?」
僕は光の玉に問いかける。必要としていたと言っていたから、何か集める理由があるのだろう。
「いや、本当は魔王を倒してもらおうと思っていたんじゃが…」
光の玉は残念そうな声で言う。
「思いの外お前たちみたいなドロップアウト組が多くての。なーんもうまくいっとらん。そもそも人と関わりたくない奴が多すぎて、魔王の場所も知らん奴がほとんどじゃ」
「ンフッ」
笑うしかなかった。無計画がすぎる。というか自分みたいなやつばっかを集めた異世界、嫌か嫌じゃないかで言われたら嫌すぎる。
「じゃからお前にも期待しとらんよ。あの世界ももう魔王の思うままじゃろうし。好きに生きて好きに死んでくれ。最低限生きていけるだけのチートはやるから、あとは勝手にしろ」
「ありがとうございます、どんなチートがあるんですか?」
僕は丁寧に対応する。慇懃無礼とも言う。
「それは暮らしてみてからのお楽しみじゃね。ちなみに魔王がこの世界を征服してしばらくすると、この世界、強制的に終了するから気をつけてな」
「終了?」
今大事なことサラッと言わなかったか。
「それじゃあ異世界ハッピーライフを楽しんでの!」
光の玉はそういうと僕の腹部に思いっきりぶつかってきた。鈍い衝撃とともに、僕はまた意識を失うのだった。