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ーやり残しー


「私たち、元の世界から逃げてきたような人間たちが来た時に、共有することがあるんだけど」


「ふーん?てかなんで俺が逃げてきた側だってわかるの?」


別にそんなことを話した記憶はないが。


「所作でわかるでしょ」


「めちゃくちゃ悪口」


「だって…じゃあ…たとえばミライは?」


「存在すると思ってなかった、逃げたのではなく、異世界に能動的に行こうとして、来た人間」


確信をもって言えた。僕たちは主体的に動けないし、僕たちは人を仕切れない、何か提案もしたくないし、それに人を巻き込むなんてこともできない。


「ほら、わかるじゃん。スキル獲得画面を開いて。異次元小窓とシンパシーを獲る」


僕は言われるがままにスキルを獲得する。


「あなたがこの世界に来る羽目になった、自分と一番違うタイプの人間を思い浮かべてスキルを発動」


 忘れていた、忘れたかった、頭の奥底に封印していた人間が、記憶の底から這い上がってくる。自分とは相容れず、人に仕事をぶん投げ、他人を糾弾するくせに、自分には甘い。ダメ出ししかできず、人を追い込むことしかしない、クソ上司。ゴミ野郎。


 目の前の何もない空間に丸い画面が浮かんだかと思うと、クソ上司が映り、画面はすぐに消えた。


 「これで、その人のメンタルは当時のあなたと同じステータスになるよ」


サツキは言う。あー…


「つまり、俺たちと正反対の人間に、俺たちと同じステータスで生きてもらうってことか…それって…」


んな酷な。


「だいたい気が狂って犯罪に走るか、死ぬかよ」


そりゃそうだろう。僕たちは生まれた時からこのメンタルと付き合っている。最終的に耐えられはしなかったが、それでも何年も一緒にやってきた。それを平々凡々順風満帆円満満タンな人生を送ってきた奴らに与えたら。


「これ、やっとくといいのよ。私たちは間違ってなかったことがわかる。正解なんて何一つわからなかったけれど、間違えたことだけはしていない。社会に迷惑をかけず、1人で異世界に飛ぼうとした私たちは、正しい選択をしたんだと、胸を張って言えるのよ」


サツキは滔々と言う。吹っ切れたように。擦り切れたように。


「まあ、このスキル使い切りだから、1人にしか使えないんだけどね。異世界小窓は2回使えるから、1週間後ぐらいに覗いてみると、あなたを追い詰めたやつの結末が見れるわよ」


サツキはそう言うと、明後日の方向に去っていった。


「よかったですね。一つだけでも、復讐できて」


ナビ子が言う。追い詰められた要因はいくつもあって、上司はその一つに過ぎなかった。それでも、


「そうだな。もうこっちの世界に来たからあっちはどうでもいいと思っていたけれど」


それでも、心の整理や過去の精算は、行えるのなら行った方がいいのだろう。行えないことの方が多いのだから。


「マスター、それよりも来週までになんのスキルをゲットするか決めましょう」


「あー実は決めてて。パッパと取って、練習しよう。本番で失敗したくないし」


僕たちは街を出て根城に帰った。夜風がいつもより気持ちよく感じた。


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