ーはじまりー
海沿いに車を走らせていた。朝から大事な取引先との打ち合わせがあったが、そんなものはぶっちした。そんなものをぶっちしてしまったから、もう、人生には戻れなかった。携帯の電源は切ってある。
「487号線の急カーブあるじゃん。あそこ、不自然にガードレールがないけど、突っ込むと異世界にいけるらしいよ」
そんな噂を信じていたわけではなかった。だが、どうせ死ぬなら、最後に蜘蛛の糸ほどの可能性に縋ってもいいと思った。
どこかで何かを失敗したわけではない。むしろ、世間一般的に正解と言われるレールを走ってきた。ただ少しずつ、少しずつ自身の車輪とレールが噛み合わなくなり、ついに、外れてしまった。仕事はうまくいかず、実家とは不仲で、恋人はできない。百点満点の人生を歩んできてはずなのに、マイナス10点の人生が続くことに、耐えられなかった。
「お願いします。神様」
ふふっ。今更何を神に祈るのだろうか。神がこの世に存在するとして、今の人生を与えているのもこの神であろうに。それでも僕は、祈りながら、487号線の急カーブに向かって思い切りアクセルを踏んだ。
車は宙に舞い、何かにおもいきりぶつかったかと思うと、僕は気を失った。