05 わがまま
ほんとデッカいね、リグラルト王国。
徒歩だけだとめっちゃ苦労してたろうな、これ。
この広い国土に点在している特色豊かな街を効率良く回ることが出来ているのは、
整備された街道を頻繁に行き来している定期便的な幌馬車便のおかげ。
王家がヤバめって聞いてたから王都リグラートには近付かないようにしてるけど、
わざわざ面倒ごとの起こりそうな場所に行かなくても国内に見どころ満載ですもん、
まさに充実したぶらり旅ライフってヤツを満喫出来てますよ。
エルサニアと比べると民度がイマイチ、
って聞いていたので、危険な目に遭いやすいかもって心配してたけど、それほどでもないし。
いや、確かにヒャッハーしてる連中は多いし、俺みたいな流れ者を警戒して非友好的な村もあったけどさ、
なんて言うのかな、異世界モノ本来の冒険を体感出来てる感じ?
エルサニア王国って、良くも悪くも召喚者たちが頑張りすぎちゃってて、
あっちの世界の空気が濃すぎるんだよね。
食いもんは確かに美味いけど、どっかで見たことあるようなのをアレンジしたもんばかりだし、
ちょっと気の利いた宿ならまともな風呂とトイレがあるのが当たり前、みたいな感じだし。
それって確かに便利で快適なんだけど、
なんていうか、風情が無いよね。
縁あってこっちの世界にお呼ばれされたのに、
やってることはあっちの世界と変わり映えしないなんてつまんないでしょ。
せっかく海外旅行したのに、和食レストランばかりにお世話になってる残念ツアーみたいでさ。
いや、ヒャッハーでワイルドライフな冒険をしたいってわけじゃなくて、
些細なことでもいいから目新しい体験をしたいってこと。
……えーと、何だかいい歳したおっさんがワガママ放題に駄々こねてるみたいになってるね、これ。
興奮すると妙な若作り口調になるのも、まさに歳甲斐も無く、だよね……
「…………」
ごめんね、マーリエラさん。
カッコ悪いとこ見せちゃって。
「多面性を隠し持っている男性、素敵です……」