24 気遣い
当初の予定では、アシュトさんとはヴェルクリの街でお別れのはずだったけど、
事情が事情ですので、大事を取ってエルサニア王都のご自宅までご一緒しました。
「マルミさんただいまっ、あなたのアシュトがこの通り無事に帰って参りましたよっ」
「早速で悪いけどお茶の準備、お願いねっ、お客さんてんこ盛りだよっ」
待って、アシュトさんっ、先にご挨拶させてっ。
初めまして、マルミさん。
ノアルという旅の冒険者です。
縁あってご主人と親しく旅をする間柄となりました。
旅の間、ご主人にもモレッタさんにも、大変お世話になり……
「もー、そういうのいいからっ」
「積もる話しはお茶しながら、それがうちのしきたりだよっ」
---
アシュトさんのご自宅は、話しに聞いていた通りの倉庫兼住宅な一軒家。
1階は倉庫と幌馬車ガレージ、2階も大部分が倉庫。
居住空間は、2階の隅の一角のみ。
うん、確かに倉庫のおまけに住むところがくっついてきた、みたいな物件。
俺とマーリエラさんは、ご迷惑にならないようお泊まりのお誘いはお断りせねば。
「お噂どおりの素敵な冒険者さんですね」
「マーリエラさんともお似合いですよ」
お恥ずかしい限りです。
マルミさんも、アシュトさんが仰っていた通りの方ですね。
「あら、どんな噂を流されたのでしょう」
えーと、『鏡の賢者』様のパートナー、アヤさんに勝るとも劣らない素敵なメイドさんだと。
「おふたりに叱られてしまいます、そんな過分な評価は」
はて、まるでお知り合いのような口ぶり。
「あら、アシュトさんからお話しは何も?」
おっと、もしかしてこれは問い詰め確定案件ですな。
ちょっとアシュトさーん、マルミさんから凄いカミングアウトされちゃったんですけどっ。
---
いろいろあって、旅商人ふたり暮らしを始めたアシュトさんとマルミさん。
子供だったアシュトさんもようやくその生活に慣れてきた頃に起こった出来事。
お父さんの遺産は玉石金剛な謎アイテムの数々でしたが、
旅商売を続けるうちに厄介な連中に目を付けられてしまう。
上手いこと回避しながら旅を続けたが、道中を悪党集団に囲まれて絶体絶命。
そのピンチを救ってくれたのがなんと、鏡の賢者様とお供のアヤさん。
アシュト少年と賢者様は、妙に気の合う間柄となり、
それ以来、家族ぐるみちっくな親しいお付き合いが続いているそうです。
って、なんすかソレ、今回の旅でイチバンのビッグニュースですよっ。
「あー、ゴメンね」
「けんちゃんもアヤさんも騒がしくされるの苦手でさ、なるたけナイショにしてるんだよね」
「でも、マルミさんから話したってことは、大丈夫ってことだよね」
「今度けんちゃんたちに会えたら、ちゃんと話しとくね、ノアルさんたちのこと」
お忙しい方たちでしょうから、お気遣いなく、ですよ。
お気遣いといえば、
『アンチ』さんが随分と大人しいね。
マルミさんともしっかりご挨拶出来てたし、
スライムボディになってから食事するのが楽しみだって言ってたから、
こんなにごちそうがあればもっと夢中になってもよさそうなもんだけど。
どうかしたの、『アンチ』さん。




