15 孤高
美食と温泉尽くしの日々、まさに怠惰極まれり。
えーと、ここに来ることになった本来の目的のアシュトさん応援ですが、
正直、出来ることが無いんですよ、俺。
アシュトさんは頼みの綱のツテの方にかかりっきりで、そもそも俺なんかの出る幕無し。
メネルカ入国許可を取得できたマーリエラさんは、何やらアシュトさんのお手伝いに励んでおられる様子。
もちろん男子禁制の国に突貫出来るほどの"勇者"ではございませんので、
俺、蚊帳の外。
やってることといえば、この街のギルドの採取依頼を細々とこなすくらいなので、
近所の子供たちからは、何だか毎日ヒマそうにしてるおじさんなどと認識される始末。
うん、大体あってる。
よくよく考えたら、
いや、ちょっとでも頭を使えば、
こうなることは自明の理であったのですが、
まあ、考え無しなことでは定評のある俺ですから。
というわけで、怠惰極まれり。
流石に見かねたモレッタさんが、何かとフォローしてくれたりしますが、
何と言いますか、それはそれで気を使うのですよ。
早くに旦那さんを亡くされたモレッタさんは、数名の従業員とこの宿を切り盛りしてきた苦労人。
そりゃあもう、出来た人なのです、俺なんかを真剣に気遣ってくれるほどに。
大変にサバサバした性格であり、まさにアシュトさんの実の姉と言っても過言では無い気立の良いお姉さん、
つまりは、俺とめっぽう気が合うわけで。
なのですが、喜ばしい事態などと言ってられないのですよ。
だってさ、いろいろマズいんですよ、これ。
ちょい歳上の世話焼き未亡人が、
いろいろ残念なぼっちのおっさんを気に掛けてくれているわけですよ。
そして何より、ハグしたアシュトさんのお顔を丸っと包み込んじゃうほどの豊満さ。
ほらぁ、勘違いして突っ走りかねないシチュエーションでしょ。
お手伝いに忙しいマーリエラさんの目が行き届かないから、なんてことを言い訳にしかねないのですよ、このおっさんは。
というわけで、ハタから見ればぼっちが怠惰してるように見えますが、
余計な波風立てないように意図的に孤立してると言えなくもないわけで。
つまりは、俺は俺なりに奮闘中。
孤高のおっさんの今後の成り行きにご期待ください。




