14 堪能
落ち着いた雰囲気の、良い宿です。
余裕のある敷地に建てられた大きな平屋のお宿は、
なんと、各部屋に温泉完備!
案内されたのは、何だか和室を思わせる雰囲気の部屋。
一見質素だけど心地良く過ごせるよう細やかに気を配られていますね。
そして浴室には、檜っぽい木を贅沢に組み上げた立派なお風呂。
凄いね、源泉掛け流しだよ、これっ。
うひゃあ、たまらんっ、
早く入りたいですっ。
「ノアルさーん、晩飯出来たって」
はーい、いま行きまーす。
えーと、壁はちょっと薄いみたいですね……
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この国の名物の北方料理は、お芋がメインの煮込み料理が定番。
肉じゃがとボルシチのいいとこ取りしたみたいな、
野菜とお肉の旨味を存分に味わえる逸品。
花嫁修行している乙女たちは習得必須のポピュラーな家庭料理って聞いてたけど、
確かにコレは胃袋を掴むには最高の武器ですな。
いったい幾人の殿方がこれの餌食となって堕とされたのやら……
「この味、絶対に取得してみせます」
おっと、マーリエラさんが燃えておりますっ。
「うちの厨房は可愛い娘さんでも容赦無しだよっ」
おっと、モレッタさんも燃えておりますっ。
「姉さん、おかわりっ」
おっと、アシュトさんの食欲も燃え上がっておりますっ。
でも、そのタイミングは如何なものかと……
案の定、厨房に拉致されていったアシュトさん、
どうやらマーリエラさんの料理修行の生け贄、
もとい、お手伝い 兼 試食要員としてのお務めを果たすこととなったようです。
頑張れ、アシュトさん……
あー、以前こっちの世界ならではの体験がしたいなんてほざいちゃったけど。
こうしてぐうの音も出ないほど美味いもんを堪能させられちゃうと、
世界がどうこうとか関係無しに、いいもんはいいってなっちゃうよね。
この優柔不断感こそが、まさに俺。
だって、何より重要なのは堪能出来たか否か、ってことでしょ。
それでは、温泉の方ものんびり堪能させてもらいましょうか。




