10 縁
旅商人アシュトさんと偶然の再会、相変わらずお元気そうで何より。
驚きましたよ、突然こんなところで会うなんて。
「いえね、ちょっとメネルカまで行って買いたいもんがあってさ」
「何の気なしに寄ったヴェルクリで、まさかノアルさんに会えるなんて思ってもみなかったよ、ホント」
「ってか何ですか、速達鳥では『変わりない旅暮らしです』なんてお澄ましした時候の挨拶ばっか送っといてさ、こんな可愛らしい奥さんと旅してるなんてひと言も無かったよねっ」
「どういうことっ、これっ」
あー、説明しますね。
こちらは、マーリエラさん。
冒険の旅のかけがえのないパートナーですが、
まだ妻ではありませんよ。
マーリエラさん、こちらはアシュトさん。
縁あってお知り合いになれたイケてる旅商人さんです。
以前、お話ししましたよね、出会った経緯とか。
「こんちは、マーリエラさん」
「会って早々こんなこと言うのも何だけどさ、怒っていいと思うよ、マーリエラさんは」
「"まだ"とか言っちゃってるんだよ、ノアルさん」
「ガツンと言っとくべきでしょ、これ」
「お気遣い、ありがとうございます、アシュトさん」
「でも大丈夫ですよ、ノアルさんがこんな感じでのんきさんなのは、もう慣れましたので」
「もちろん私は、いつまでも"まだ"なんて言わせるほどのんきさんではありませんから」
……何だか、おふたりとも、出会ったばかりなのに妙に通じ合ってますよ。
まあ、仲良くしていただければ、それが一番ですけど。
「そんなの当たり前ですよ、"るいとも"って言うでしょ」
「こうしてノアルさんと縁が生まれた者同士だもん、仲良しするのなんて朝飯前の当たり前ってね」
いえいえ、今はお昼時ですから。
アシュトさんもご一緒にどうです、お昼。
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一人前の旅商人であることを認めてもらえたらプロポーズする、
と言っていたアシュトさんですが、
旅商人としての修行の方はとても順調とのこと。
「でさ、例のお祝い事のこともあってさ、ちょっと行ってきたの、アルセリア王国」
「あそこの王妃様とは昔から懇意にしてもらってるんだけどさ、お祝いの品を渡そうとしたら、王様が献上品をえらく気に入ってくれちゃってさ」
「いらないって言うわけにもいかないでしょ、『褒美を遣わす』なんて、王様からあんな笑顔で言われちゃったら」
「で、突然結構な額の臨時収入が入っちゃったってことなんだよね」
うん、アシュトさんの人徳へのご褒美ってことですよね。
なるほど、それでメネルカ魔導国でお買い物ですか。
でも大丈夫なんですか、男子禁制ですよね、メネルカって。
「そこら辺はほら、旅商人なりの裏ワザがあるっていうか」
「物資搬入とかでメネルカとの窓口になってるニーケっていう街に、ちょっとしたツテがあるのね、ナイショなんだけど」
「で、今回の臨時収入でメネルカ製のアクセサリーを買っちゃおうかな、なんて」
「あそこで作っているモノって、いろいろと特別なんだけど、まず一般には出回らないのね」
「でさ、せっかくだし、例のツテにちょっと無理してもらって、何とか手に入れられないかなって」
もしかして、結婚指輪……
「相変わらず鋭いねノアルさん、ご明察です」
「マルミさんのためにも、一生に一度の思い出になるようなことしてあげたいってずっと考えてたの」
「いろいろハードル高かったんで迷ってたんだけどさ、今回の臨時収入もあるし、今ならイケちゃうんじゃないかなって」
「ノアルさんっ」
はいっ、突然どうしたんですか、マーリエラさん。
「私たちもメネルカ魔導国に向かいましょう」
「アシュトさん、私たちに何が出来るのかは分かりませんが、是非お手伝いさせてください」
うはっ、マーリエラさんがかつてないほどヤル気満々ですよっ。
ってことで、どうでしょ、アシュトさん。
メネルカまで、ご一緒しても?
「嬉しいねっ、ホント」
「持つべきはイケてる友と素敵な奥さま、だよねっ」
えーと、まだ……




