第八話
重たい沈黙が流れ、俺はやっと口を開くことができた。
「まじかよ? なにがあったんだよ? そもそも犬のお前が俺を殺すのは無理があると思うんだが?」
そう問いかける俺に、バサシは口を徐々に開いてくれた。
「あの運命の日……バサシはいつものようにご主人様を家で待っておりました。しかし、なかなか帰ってこないご主人様を待つのは本当につらいものでした……」
哀愁たっぷりに語るバサシは、ただのイケオジだ。実はそれなりに長い間この世界にいるらしく、イーフとして生きてきたため少し変な話し方になりますと、一言添えて続きを話すバサシ。
「ようやく帰ってきたご主人様は大層疲れており、少しでもゆっくりしてもらおうと遊んで頂くのを我慢していたのですが、一回ぐらいは! なんて軽い気持ちでボールを持って行ったのがいけなかったのです」
「ご主人様は焦点の合っていない目でボールを取り、キッチンの方に投げました。興奮した拙者は、ボールを追いかけキッチンに行ったのですが。ボールはバウンドしてしまってコンロの裏に行ってしまったのです」
「拙者は台を使いながら短い足でなんとか上り、コンロの裏に足を延ばしカリカリしている内にガスを開けてホースすらもちぎっていたようです」
「それまで、けっこうな時間がかかっていたためその間にご主人様は既に寝ておりました。そのうちに拙者もガスにやられ二人仲良く死んでしまったと創さんに聞きました……」
「その後、転生できる事を聞きこの世界に創さんのチートを頂戴しやってきました。四十年程お待ちしておりました……あの時は本当に申し訳ございません。許していただけるとは思っておりません、ここでその罪を償いたいと思っています」
「バサシ……」
バサシは本当に申し訳なさそうに、頭を下げていた。あれだけ煽ったのもあのまま俺にやられてしまいたかったのかもしれない。
けっこう間抜けな死に方だしショックではあるが、こうして四十年も俺を待ち続けてくれてここまで真剣に謝罪されたらな……
「もういいんだよ、俺も忙しかったとはいえちゃんと遊んであげられてなかったし。完全な事故だしな。俺の方こそごめんな」
「そうですか、許していただけますか? まあこれで許してもらえないってパターンは流石にありえないでしょうし、想定していませんでしたが。でも、ありがとうございます。拙者もご主人様の謝罪を受け入れましょう! 今後はもう少し拙者と遊ぶ時間を作ってください。それで手打ちとしましょう!」
「ちなみにこれからは、拙者もご主人様にお供いたします。改めてよろしくお願いします! 創造神クエストがあり、ご主人様がイーフになった方が良いようですので、今後はイーフの弟子のリートとでも名乗ります。それで良いですか?」
バサシはすぐに土下座をやめ膝に着いた埃を払い、手の土もパンパンと払いながら淡々とこれからのことや俺に対しての願いを述べ同意を求めている。
「え? え? なにその切り替えの速さ? ちょっと怖いんだけど、もうちょっとこうないの?」
「(俺が悪かった、いや俺の方が悪かった)なんて不毛な問答を繰り返しても意味がありませんからな。それともそういうやりとりをしないといけませんか?」
「いやそうだけどさ、なんか納得いかねーな。創ちゃんが俺を殺した相手がいるとか言うから、めっちゃ色々考えてたのにさ」
「まだ納得がいかないのですか? さっきもういいと、カッコつけて言ったのはなんなんですか? また土下座いたしますね?」
「なんだよその言い方! しかも、俺カッコつけてなかったぞ! ……ああもう! わかったよ! もう忘れますよ!」
「てか、創ちゃんのシナリオってのはどういう事?」
俺がグチグチ言っていると、バサシは申し訳なさそうに一枚の紙を差し出した。
つーさんに変な裏設定ないから
あなたは本当にただの凡人です
(ただ、この偉大なる創ちゃんに見いだされたという点だけ見ると凡人とは言えないかもしれん)
事故死乙
(笑)
すぐさまビリビリに破り捨てようと思ったが、創ちゃんが用意した紙に直筆の文字であったためビクともしなかった。こんな所に力使うんじゃねーよ! 俺のチートでも破れないってどんな紙だよ。
「まあ仕方ないか、じゃあこれからどうしようかなートウマ君って今どこにいるんだろ?」
「素晴らしいですご主人様、切り替えは大事ですぞ!」
「……やっぱり納得いかないけど、どうも」
「トウマは今拙者を仲間にすべくこの大陸に向かっており、多分明後日には着くと思われます。会う約束もギルドを通して打診されていますのですぐに会えると思います」
バサシめっちゃ有能になっててびっくりだが、まあ会える手筈が整っているならいいや。このまま、俺がイーフになりすましてトウマ君のパーティーに入れてもらえば良いってことだよな?
……ん? でも、待てよ? すり替わって世間にバレないのか? もちろん俺のチートを使えばいくらでも誤魔化せるが。そこのところどうなのよ?
「創さんのアドバイスにより拙者は顔を隠して行動しておりました。その為なんの心配もいりません」
はいはい、全部創ちゃんの手のひらね。頷くバサシに、今までの事を聞いた。
バサシは死んだあとこの世界に犬として転生し、創ちゃんにもらったチートで人間となり冒険者をしつつ今日俺が来るのを待っていたらしい。時間軸が違うからどうたらで、バサシが四十歳になり俺より年上になっている。
だが、人化をやめ昔のパグにもなれるらしく一度戻ってもらったらやはりとても可愛いパグのままだった。……だったのだが、物凄い勢いで甘えだして物凄く複雑な気分になったので基本は常に人化してもらうことにした。
そうして数日後、ギルドより時間ができ次第早急にトウマ君とあって欲しいと連絡が入ったのだ。
「休憩は終わりだ、トウマ君に会いにいこうか?」
「かしこまりましたご主人様。ところで万が一トウマのパーティーが無礼を働いたら切り捨てても良いですな?」
「良いですな? じゃねーよ! 絶対だめだからな!」
「ぐっ」
「ぐっ、でもねーよ! 一緒に魔王倒しに行くんだから仲良くしろよ?」
「かしこまりま……」
「最後までちゃんと返事しろ!」
バサシは俺に対して過剰なまでの忠誠というか愛情というかそう言った感情を向けてくる。まあ飼い犬にここまで愛されると嬉しいが、今はただのイケオジだから複雑な気分。
だが、飼い犬であることには変わりはないししっかり面倒を見ないといけない。
昨日なんか俺達が素顔で歩いてたもんだから獄炎のイーフとは分からずチンピラみたいのに絡まれて、その瞬間バサシがチンピラの腕を切り落としてしまった。もちろん一瞬で回復魔法で治したけど。
「とにかく、トウマ君たちと仲良くな? 絶対に傷つけるなよ? ご主人様命令な?」
「かしこまりました」
「んじゃ行こうか?」
バサシが普段イーフとして活動していた服に着替えたのだが、それがまた厨二チックで流石に恥ずかしかったので顔を隠すだけにして着替えは終わった。
ちなみに、バサシは前回の異世界で購入していた黒の装備一式をあげたらめっちゃ喜ばれたのでそれを着用している。
準備が終わった俺たちはイーフが稼いだお金で宿泊していた、町一番の豪華なホテルをあとする。
(……飼い犬におごられるってダサいな)
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この後二十三時までにもう一話投稿したいと思います。




