第十八話
正直少し気を抜き過ぎていた。そして気付いた時にはもう遅かった、……全て遅かったのだ。
バサシが意味不明な言葉を口走ったあと、そいつは俺達の泊まっている宿を吹き飛ばした。もちろん宿泊客や周辺の住民は速攻で転移させているので問題ない。
だが、その強引な登場の仕方に苛立ち覚える。大きく深呼吸をして、姿を現したそいつに怒気を含め誰何する。
「おまえ誰だ? いきなりなんのつもりだ? 返答次第ではボコボコにさせてもらうぞ」
「こわいこわい、だが、お前達からはそれを為せるだけの力を感じる、文字通り世界を揺らせる程の力を持っているのだから……そんな力は俺にはない、なぜそこまでの力をお前達は持っている? なんでお前達は持っているのに俺は持っていないんだ? なぜ? なぜ? 俺は持ってないのに、ずるい……ずるい……お前達だけずるい……お前たちの力に俺は今……嫉妬している」
「ご主人様、一応確認してからやりますが、斬り捨ててよろしいですな? それとも、ご主人様が一度斬り捨ててから拙者が生き返らせてもう一度斬りますか?」
「……待て、バサシ」
「どうされました?」
「今こいつ、嫉妬している。って言ったよな?」
「このような輩の言葉を覚えておくのも面倒ですが、確かに先程嫉妬していると言っていましたな」
「詳しく教えてなかったけど、七つの大罪ってのは色々あってヒイラギ君の強欲とか、怠惰とか憤怒とか。あと嫉妬ってのもあるんだよ」
「……ということは、こやつが大罪シリーズの嫉妬のスキル所持者ですか」
「そういうこと、この世界の”鑑定”とは別物だが、今こいつのステータスを確認したら嫉妬のスキルを持っていた」
「強者どころではなく、ご主人様の言った通りラスボス格が来てしまいましたな」
「……でも、さっき世界を揺らすほどの力って言ってたから、お前がチート使ったせいでこいつに気付かれたってことだよな?」
「拙者は、ご主人様がスキルのことを気にされていたのでなんとかならないかと頑張っただけでしたが……ご迷惑おかけして申し訳ございません、すぐに土下座の準備を……」
「ごめんごめん! そうだよな! 俺のために試してくれたんだもんな! ……今のなし今のなしね!」
「その謝罪受け入れましょう」
「……毎度どうも」
「……なにを仲良く話しているんだ? なぜ俺にも話しかけてくれない? 俺は仲間にいれてくれないのか? なんでだ? ずるいぞ! 自分たちだけずるいぞ! お前たちの絆に俺は今凄く嫉妬している」
「お前たちの全てに! 力も顔も身体も絆も服も髪も吐く息さえも、その全てに嫉妬している!」
「だから、お前たちの! ……? ん? ……なぜだ? なぜスキルが発動しない?」
「……べちゃくちゃべちゃくちゃうるせーよ! 俺はパシリやってるけど、気が短いんだよ! どんなスキルだったか知らねーがそのクソみたいな嫉妬のスキルはもう俺のもんだ、まあ使うことなんてないだろうけどな!」
「な、なにが? 俺のスキルがなくなっている? ありえない? ありえないぞ? 大罪シリーズのスキルは例え大罪どうしであっても破壊することなどできないはず。……まさか強欲が関わっている? いや、クソのヒイラギは今この大陸にはいないしそもそもアイツが人に力を貸すなどあり得ない。どうなってる? 意味がわからない」
テンパりストになっている元嫉妬君はバサシの強烈なボディーブローをくらい、一発KOされ完全に伸びてしまった。
なんだか、イラッとして嫉妬スキル盗っちゃったけど俺が欲しいのは強欲だし、面倒だから捨てちゃおう。廃棄、廃棄。
んで、この寝転がってる元嫉妬君はどっかに適当に転移させればいいか? んで建物も直して、住人たちも戻して記憶消したり、……あーけっこう面倒くせーな。
創ちゃんのプランは色々あるから、大変なのに。あれ、ある程度きっちりやらないと後で絶対に拗ねるだろうしな……
「……ご主人様」
「どうした? 色々後片付け済ませたいから後にしてくれ」
「……いえ後回しにできません」
「なんだよ? 急用か? 作業しながら聞くから言ってくれ」
「ご主人様は先程、嫉妬のスキルを盗りましたよね? それは、大罪シリーズなのですよね?」
「そうだよ? さっき言ったろ? 七つの大罪は名前の通り七つの罪があるんだよ」
「……ですよね? つまりそれって創さんが最初に言っていた、大罪シリーズのスキルを盗ってしまう、というのを完遂したことになりませんか?」
「うん? え? ……え? ちょっと待って?」
「あれ? 創ちゃんなんて言ったっけ? ……強欲を盗るんじゃなくて、大罪シリーズを盗れば神が来るって言ったっけ……」
「そう、言っておりました……」
「……おいー! ミッションコンプリートしてるじゃん!」
「完遂です。そして、先程から大した事はないとはいえ神の気配を感じます」
「……本当だ、さっきまで色々考えてて気にしてなかったけど、神の気配感じる。これってやばくない?」
「……これまでの、犬生、人生の中でも飛び切りやばいと思います」
「だよな、今から来るであろう神なんかどうでもいいけど、創ちゃんのプランガン無視で速攻で終わらせるってまずいよな? あんなに、大罪シリーズどうちゃい言って俺の事いじったりしてたのに、大罪達に会うどころか冒険も始まってないのに終わらせちゃったよ! どうしよ!」
「まずいですな。今回は主人公達みたいに旅して、名声集めて、尚且つ異世界を楽しんでそれなりの期間で終わらせてね? とのご要望でしたからな」
「うわーやってしまった、絶対に創ちゃん拗ねるぞ! やばいくらい拗ねるぞ! 拗ねるくらいで済めば良いけど、キレてたらどうしようもねぇぞ。俺達がどんなにチートもってたって創ちゃんの前では赤ん坊と変わらないんだから!」
「なんの抵抗もできないでしょうね。……やはりご主人様が言ってたように、プラン通りに行かないのが人生なのですね? リアルな人生とはわからないものですね」
「えー? あれフラグだったの? マジかよ? てかこの後の事考えると憂鬱すぎるんですけど……」
「ご主人様、まだ起きていない事をいつまでも心配していても仕方ありません! とりあえず流れに身を任せてしまいましょう!」
「バサシ……さすがイケオジ……そうだな! いつまでもグチグチ言っても仕方ない! とりあえず今からくる神を瞬殺しよう!」
「素晴らしい切り替えです! 気持ちの切り替えは大事ですぞ!」
いつもなら、イラッとくるその言葉も今の俺には気持ちを落ち着かせてくれる安定剤になる。気持ちは切り替えられたが正直不安で仕方ない。こんなにビビるのは中学の時地元最強と言われた真崎先輩の悪口を言っていると冤罪で呼び出され、金属バットを頭上でフルスイングされた時以来だ。
あの時は結局人違いで、俺は解放された。その後本当に真崎先輩の悪口を言っていた奴が呼び出されて……って何二十年近く前の話を思い出してんだ? あれか? もう走馬灯始まってんのか?
くそ! 逆にこの待ち時間がもどかしい! さっさとこいよ! 神様!
悶々とした気持ちの中、一分にも一時間にも感じるほどの時間が経ち遂に神様はやってきた。
「……やっときたか」
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