星ふる夜に
星ふる夜に、星たちはきらめき、またたき、色々なところへとふっていきました。
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星は、とあるベランダにふりました。
一人の男の子と、一匹の大きな犬がそれを見つけました。
夜空に星がふるのを見つけるたび、男の子は嬉しそうな声を上げました。
男の子が声を上げるたび、犬は応えるようにくーんと小さく吠えました。
パジャマに毛布を何枚も重ね、犬を抱きかかえた男の子はとても暖かでした。
大きな犬は嫌がりもせず、男の子に抱きかかえられるがままでした。
一人と一匹はそのまま、星ふる夜空を一緒に楽しみました。
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星は、とあるビルの屋上にふりました。
女の人が、それを見つめていました。
その女の人はとてもとても悲しい出来事がありました。
そんな女の人のもとへひとつ、星がふりました。
ひときわ力強く、きらめきながら流れる星を、女の人は見ました。
そして、自然と涙がこぼれたのです。
とても悲しい出来事があってから、女の人は初めて泣く事が出来ました。
女の人はその場に座り込み、星ふる夜空を見上げながら、独り静かに泣きました。
女の人にとって、とっても大切な人の名前をつぶやきながら、一晩中泣き続けました。
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星は、とあるキャンプ場にふりました。
男の人と女の人が、それをながめていました。
二人はたき火を挟んで並び、ゆったりした椅子に寝転ぶように腰掛けていました。
星ふる夜空をながめながら、男の人は女の人が産まれたときの手のぬくもりから、来月女の人が着る予定の花嫁衣裳の美しさまで、色々な出来事をとつとつと語りました。
星ふる夜空をながめながら、女の人は男の人の話をうんうんと聞き、たまにその時自分がどう思っていたのかを語りました。
25年分の思い出は、一晩あっても尽きる事はありませんでした。
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星は、色々なところにふりました。
雪原で、ひとかたまりのペンギンの群れが星ふる夜空を見ていました。
砂漠で、人に連れられているラクダが星ふる夜空を見ていました。
海原で、海藻を体に巻きつけたラッコが星ふる夜空を見ていました。
さえぎるものは無く、地上の光もまったく無いそれらのところで、星の光はまぶしいほどでした。
星ふる夜空に包まれながら、生き物たちはそれぞれのところでそれぞれ眠りにつきました。
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星ふる夜に、ただただ星たちはきらめき、またたき、色々なところへとおちていくだけでした。
星がふる様子を、色々なところから色々な生き物たちが、それぞれの気持ちで見ていました。
生き物たちは星のきらめきを胸にいだきながら、明日を待っていました。
お読み頂きありがとうございました。