コミュ力がカンストしてる三澤さんが、僕の前でだけは赤面しながら無口になっちゃうのは何で!?
「おっ、アダッチー、おっはよー!」
「おはよー、三澤さん」
「アッサイーもおはよー! あっ、ひょっとしてメイク変えた?」
「いやいや、僕は男なんだから、メイクはしてないよ三澤さん」
「アハハー、冗談だよ冗談。ザッキーもおっはよ! ん~、今日もザッキーは可愛いね~」
「ちょっ、くすぐったいよ三澤さん」
おお……。
今日の三澤さんも、相変わらずコミュ力カンストしてるな。
よ、よーし、今日こそは。
僕は意を決して、三澤さんの前に躍り出た。
「や、やあ、おはよう、三澤さん」
「――! ……………………ども」
「――!!」
が、三澤さんはいつも通り、赤面しながら僕から目を逸らし、「ども」という極めて素っ気ない挨拶しか返してくれなかった。
……くっ、今日もダメか!
いや、まだ諦めるのは早い!
何かないか!?
何か話題になるようなものは……!
「……ん?」
その時、三澤さんが付けているヘアピンが、いつもと変わっていることにふと気付いた。
こ、これだ!
「あ、三澤さんヘアピン変えたんだね。と、とってもよく似合ってるよ」
「――!! ………………………………ども」
「――!!!」
三澤さんは尚も顔を真っ赤にし、完全に僕に背を向けてしまった。
しかもまたしても返事は「ども」の二文字のみ……。
三澤さんは僕には「ども」以外の言葉は発してくれないのかな!?!?
「…………ちょっと、用事思い出した」
「え? み、三澤さんッ!?」
そう言うなり三澤さんは、光の速さで教室から出て行ってしまった。
これからホームルームなのに!?!?
「ぬふふー、いやあ、今日も苦戦してるねぇ、寺島君」
「足立さん……」
項垂れている僕に、アダッチーこと足立さんが、ニヤニヤしながら肩に手をポンと置いてきた。
「……うん、どうやら僕は、三澤さんから嫌われちゃってるみたいなんだよね」
「ふ~ん」
まあ、その原因は僕自身が一番よくわかってるんだけどね。
――あれは僕がこの肘川北高校に、入学した初日のことだった。
「やっほー! これから一年間よろしくね! 私は三澤紗耶香っていうんだ」
「――!」
隣の席になった女の子から、唐突に声を掛けられた。
まさか僕みたいな陰キャに話し掛けるはずはないと思った僕は、辺りをキョロキョロと見回す。
「アハハー、君だよ君ー。君に話し掛けてるんだよ、私は」
「っ!?」
その子は吐息がかかるんじゃないかってくらい、顔をグイと近付けてきた。
大分距離感近いなこの子!?!?
しかも僕なんかに話し掛けてくれるなんて……!
女神か何かかな!?!?
人と話すのが苦手な僕は、中学時代ずっとボッチだった……。
どうせ高校でもボッチのままなのだろうなと半ば諦めていたところに、降って湧いた千載一遇のチャンス――!
僕は完全に舞い上がってしまった。
そしてこんなことを口走ってしまったのだ。
「こ、こちらこそよろしくッ! 僕は寺島惇平! き、君みたいな可愛い女の子から話し掛けてもらえるなんて、夢みたいだよ!」
「か、かわっ……!?」
「……あっ」
し、しまったあああああ!!!!
なんてことを言ってんだ僕はあああああ!!!!
僕みたいな陰キャからいきなり可愛いなんて言われたら、キモがられるに決まってるじゃないかああああああ!!!!!!
――案の定三澤さんは顔を真っ赤にしながらそっぽを向いてしまい、それきりその日は一言も話してくれなかった。
――そうして現在に至る。
あの時僕が余計なことさえ言わなければ、三澤さんと友達になれてたかもしれないのに……!
どうしても諦めきれなかった僕は、事あるごとに勇気を出して三澤さんに話し掛けてみるのだが、結果はいつも「うん」とか「ああ」とか素っ気ない二文字の返事ばかり……。
僕以外の人には距離感ゼロでグイグイ絡みにいっているので、完全に僕だけが嫌われているとみて間違いない。
嗚呼、自業自得とはいえ、やるせない……。
「フッ、では今日のホームルームは、文化祭の打ち上げの幹事を決めるぞ」
担任教師の峰岸先生が、不意にそんなことを言い出した。
幹事かぁ。
正直僕はパスかな。
そういうの苦手だし。
まあ、僕が得意なことなんて、この世にないんだけどさ!
「ふっふーん、そういうことでしたら、この不肖三澤紗耶香が立候補いたしましょう!」
――!!
いつの間にか教室に戻っていた三澤さんが、意気揚々と手を挙げた。
み、三澤さん!?
「フッ、三澤なら安心して任せられるな。よろしく頼むぞ」
「りょーかいであります!」
三澤さんはビシッと敬礼のポーズを取った。
「ではもう一人、我こそはという者はいないか?」
……くっ。
こ、ここは――!
「……は、はい、ぼ、僕でよければ」
「――!!?」
震える手で、おずおずと挙手をした。
案の定三澤さんは目を丸くしながら、口をあんぐりと開けていたが、これが最後のチャンスだ。
二人だけで幹事をやれば、否が応でも話さざるを得なくなる。
ここで何としてでも、三澤さんと仲良くなってみせる――!
「フッ、ではもう一人は寺島で決定だな。――上手くやるんだぞ」
「は、はい?」
峰岸先生の言い回しが若干気になったが、まあいいか。
足立さんもそんな僕を見ながら、何故かニヤニヤしていた。
「じゃ、じゃあ、よろしくね、三澤さん」
「……………………うん」
そして迎えた放課後。
二人だけの教室で、早速文化祭の打ち上げについて話し合う場を設けたのだが、僕の向かいに座る三澤さんは、いつも通り赤面しながら頑なに僕とは目を合わせようとしない。
……うん、まあこれは想定内だ。
問題はここからだぞ、僕。
とにかく僕のほうから、いろいろと話し掛けるんだ!
「え、えーっと、打ち上げといえば、やっぱ定番なのはビンゴ大会とかかなぁ」
「……………………うん」
「あとは、山手線ゲームとかもいいかもね」
「……………………うん」
「ジェスチャークイズとかも面白いかも! 何チームかに分かれてさ!」
「……………………うん」
ヤバい早くも心折れそう……!!!!
僕と二人になってから、三澤さん「うん」以外の言葉発してないッ!!
……くっ、やっぱ僕みたいな陰キャが三澤さんみたいな超陽キャと仲良くなろうなんて、おこがましかったんだ。
何を調子に乗ってたんだ僕は……。
陰キャは陰キャらしく、放課後は独りでコックリさんでもやってるのがお似合いだったんだ……。
「ゴ、ゴメンね三澤さん!」
「……………………え?」
僕は立ち上がって、三澤さんに深く頭を下げた。
「僕みたいな嫌いなやつとの幹事じゃ、まともな打ち上げの企画なんて作れないよね。峰岸先生に言って、僕は幹事を他の人に代わってもらうからさ。――じゃあね」
「――!」
僕は鞄を抱え、教室から出て行こうとした――。
――が、
「ま、待って、寺島くんッ!!」
「っ!?」
三澤さんに袖を掴まれ止められたのだった。
み、三澤さん……!?
「……………………嫌いじゃ、ないよ」
「……え?」
三澤さんは目に薄っすらと涙を浮かべながら、ボソッとそう呟いた。
三澤さん――!?
「……寺島くんのこと、嫌いなわけじゃないから」
「あ……うん」
そ、そうか……。
嫌われてはいなかったのか。
それは僥倖だ。
あれ? じゃあ、何で三澤さんは僕とはあまり話してくれないんだろう?
「だから一緒に、幹事、やろ?」
「――っ!!」
僕の袖を掴んだまま、三澤さんは上目遣いで見つめてきた。
――その瞬間、僕の心臓がドクンと大きく跳ねた。
そして全身がカッと熱くなり、動悸も激しくなる。
あ、あれ!?
あれれれれれ!?!?
「? どうかしたの、寺島くん?」
「あ、いや、ななななな何でもないよ!」
「? ふうん?」
こ、この気持ちはもしかして……!
なんてことだ……、まさかこのタイミングで、自分の気持ちに気付いてしまうとは……!
そうか、僕はずっと三澤さんのことを……。
うわあああ、どうしよおおおお!!!!
恥ずかしくて三澤さんの顔、まともに見れないよおおおおお!!!!
「ホントに大丈夫? 顔真っ赤だよ?」
「――!」
心配そうに僕の顔を覗き込んでくる三澤さん。
――その瞬間、僕の頭はオーバーヒートし、とんでもないことを口走ってしまった。
「み、三澤さんッ!!」
「は、はひ!?」
「ぼ、僕は…………三澤さんのことが、好きですッッ!!!!」
「……………………え?」
…………あ。
ややややや、やっちまったあああああああ!!!!
今じゃないだろ!?!?
告白するにしても、今じゃなかっただろ僕ッ!!!
あああ……、せっかく幸いにも嫌われてはいなかったのに、これで完全に嫌われちゃったよおおおおおお!!!!
――が、
「………………………………ども」
「――!?!?」
三澤さん!?!?
三澤さんは頭をポリポリと掻きながら、満更でもない様子だ。
こ、これは――!?
「……あのー、それは、僕とお付き合いしていただけるということでしょうか?」
「………………………………うん」
三澤さんは過去最高に顔を真っ赤に染めながら、コクリと小さく頷いてくれたのであった。
――拝啓 お父さん お母さん
――高校でも友達はできなかった僕ですが、その代わり彼女はできました。
お読みいただきありがとうございました。
普段は本作と同じ世界観の、以下のラブコメを連載しております。
そちらでは足立さんがヒロインですので、もしよろしければそちらもご高覧ください。⬇⬇(ページ下部のバナーから作品にとべます)