テンプレ異世界転生2
「質問ではなくゲームですか」
『はい、今から私と3回じゃんけんをして頂きます。そして、甲斐さんが勝った数に応じて、こちらのルーレットを回していただきます。』
そういうと、女神様の後ろの壁が開き、テレビのバラエティなどでよく見る形の、大きなルーレットが3つ登場した。
『私にじゃんけんで1回でも勝つ事が出来れば、向かって1番左の〈スキル〉の〈ルーレット利用回数〉、2回勝てば1回目+真ん中の〈ステータスアップ〉の〈利用回数〉を、全勝すれば右端の〈アイテム・装備品〉用の〈利用回数〉ルーレットも更に回すことが出来ます。』
これは困った。
もしもじゃんけんに勝てなければ、スキルも貰えずに放り出されるって事か…
『あ、その御心配は無用ですよ。1度も勝てなかったとしても、3つそれぞれのルーレットを1回ずつ回すことが出来ますし、“言語”や“ステータス表示”を始め、“空間収納・特大”と““浄化”に“鑑識”スキルと、最低でもトップアスリート並のステータスアップはお付けしますので。』
うーん、トップアスリートがどれほどのものかはさておき、やらない理由は無い訳だ。
そうと決まれば、じゃんけん必勝の願掛けだ。
オレは両手を前に突き出し、手首辺りで交差させる。
そして、親指側を下にして手の平を合わせて、指を組む。
その組んだ手をグルリと手前に引き寄せて、顔の前に持って来て小指側から覗く。
別にこれをやったからと言って、相手の出す手がわかるわけでも、絶対に勝てる訳でもないが、何故か全国的行われる“じゃんけん必勝の願掛け”である。
『あの、よろしいでしょうか?』
女神様が少し不安そうに声を掛ける。
「見えた…!」
別に何も見えていないが、口に出した方が効きそうな気がする。
『それではいきますねー』
「あっ、ちょっと待ってください。」
『はい、なんでしょうか?』
「掛け声は、最初はグーですか?それともじゃんけんポンッで出すやつですか?もしかして英語圏みたいにOne,Two,Three,ですか?」
『えっと、甲斐さんに合わせますが…』
なら、最初はグーでやれば相手はグーを出しやすいので有利だろうが…いや、待てよ。さっきから女神様にオレの心の声はバレているんだから、圧倒的に不利なのでは!
『さすがに、そんなズルいことはしません。心の声は勝手に聞こえてきてしまうので、OFFにしたりする事は出来ませんが、私はこの箱の中に入っているグー・チョキ・パーが描かれているボールを取り出しますので不正は出来ませんし、やりません。』
なるほど、確かにそれなら大丈夫か…
しかし、その箱やボールにトリックが無いとも言い切れない。
『ありません!』
いやでも、そんな事を言われても…て、駄目だ駄目だ。
オレはこんな疑い深い奴じゃないだろ。
しっかりしろ!
邪な考えを振り払うかの様に、一度大きく首を振る。
「それじゃあ、じゃんけんポンッでいきますね。」
『はい。』
「せーの、じゃーんけーんポンッ!」
オレが出したのはチョキ。
一方、女神様が手にしたボールには、手の平が大きく開かれたパーの絵が描かれている。
よっっしゃ!とりあえず1勝。
『あ、負けちゃいましたね。でも、次は甲斐さんには申し訳ないですが負けないですよー』
手に持っているボールを確認し、箱の中に戻しつつ女神様は不穏な発言をした。
大丈夫かな…
『大丈夫です。私、負けるのは嫌いですが、正々堂々とやって勝たないと意味がないと思ってますので!』
鼻息もやや荒く、女神様の顔付きが変わった。
『それじゃあ、今度は私が掛け声をかけますね!』
お、応。
『行きますよー!あ、最初にやっていた変な動きはやらなくても大丈夫ですか?』
「?」
『ほら、こういうのですよ。こういうの。』
そういうと、女神様はオレに向かって祈りを捧げるかの様に指を組み、バーテンダーがシェイカーを振るかの様な動作を始めた。
『上手く出来ないですけど、なんかこんな動きのやつですよ。』
あー変な動きって、じゃんけん必勝の願掛けのことか。
すっかり忘れていた。
でも、一応やっておくか。
女神様がバーテンダーのモノマネみたいな動きをしている中、オレは両手を前に突き出し、手首辺りで交差させ、親指側を下にして(以下省略)
「見えた!」
『良いですか?それじゃあ行きますよー。じゃーんけーんポンッ!』
オレは、あえての2連続チョキ。
女神様の手には、1回目と同じパーのボールが。
「よっしゃぁぁぁっ!」
これでステータスアップ、ゲットだぜ。
『ぐぬぬ…』
かなり悔しそうにボールを箱に戻す女神様。
てか、『ぐぬぬ』なんて産まれて初めて聞いた。
『次こそは、次こそは負けませんからね。』
そう言うと、女神様は涙ぐんだ様な目でこちらを見つめてきた。
「望むところよ!」
正直、ステータスアップまで貰えるだけで万々歳なのだが、ここまでくると欲が出てしまう。
次も勝つために、じゃんけん必勝の願掛けを行わなければ。
両手を前に突き出し、手首辺りで交差させ、手の平を合わせ…
『あ、ちょっと待って下さい。私にも、それのやり方教えて下さい。』
さすがに負けず嫌いなだけあって、3連敗は嫌らしい。
オレの、じゃんけん必勝の願掛けを教えるべく、一つ一つの動作をゆっくりと行っていく。
さっきまで泣きそうな目だったのに、真剣そのものだ。
『こうして、グリンッとやって、こう!』
見た目は美しい姿でも、なんたが中身は純粋無垢な少女の様で、愛おしさすら感じる。
ヤバい。女神様相手に父性愛に目覚めさせられそう。
『見えた!』
女神様が言うと、本当に見えてそうで怖い。
でも、女神様が神頼みとか大丈夫なのだろうか?
そんな事を思いつつ、改めてじゃんけん必勝の願掛けを行う。
「見えた!」
それにしても、一体誰が最初にこんな動きを始めたのだろうか?
『それでは、最後は私が掛け声をかけますね。行きますよー。あ、ごめんなさい。ちょっと待って下さい。』
ん?どうしたんだろうか?
何か急用とか出来たのだろうか。
『もう一回アレやって良いですか?』
女神様、2回目の願掛け。
しかも、1回覗いた後に、すぐに2、3回覗き直すというベテランのやり方。
『…良し。お待たしました。それじゃあ3本目、行きますね。じゃーんけーんポンッ!』
オレが出した手は、グー。
女神様のボールは、グーであいこ。
『あいこですか。よし、あーいこーでーしょっ』
オレが出した手は、チョキ。
女神様のボールは、グー。
『やったー!すごいですね、あの動き。』
ボールを握り締めたまま飛び跳ねる美女。うーん、さすがに3連勝は厳しいかー
『勝てて良かったです!』
満面の笑みを向けてくる女神様。
『これからじゃんけんするときは、必ずやりますね。』
いや、このじゃんけんって、転生する人にとってはかなり重要だと思うので、あんまり女神様側はやらない方が良いのでは…
あまりにも嬉しいのか、こちらの心の声も聞こえないくらいにはしゃいでいる。
ま、こんなに喜んでくれるのなら、負けたかいもあったかな。
一通り喜んだ後、本来の仕事を思い出したのか、少し照れながら元の位置に戻ってきた。