第7話 リクが去ったギルド内
ギルド内で一人の少年の話で騒がしくなっていた。
「オイ、なんだよ今の奴。どうやってバンをぶっ飛ばしたんだ?」
「俺が知るかよ。魔法なんじゃねーか?」
「でも、魔力を感じなかったぞ?」
ギルドにいる誰もが、先程ギルドを出ていった少年について話している。
別段、若い人が冒険者に成ることは珍しくない。
冒険者とは誰でもなれる職業なのだから。
全ては自己責任で、実力があれば富と名声を得る。
冒険者とはそういう職業だ。
だけど少年には魔力が無いはず。
あり得ない光景を見て、騒ぐなって言う方が無理な話だ。
ーーーー二階に繋がっている階段から、一人の女性が降りてくる。
見た目は若く、東方の国の着物と呼ばれる物を着て、煙管を吹いてやって来た。
「リーナちゃん、なんだいこの騒がしさは。何があったんだい?」
着物を来た女性に声を掛けらた、リーナと呼ばれる受付嬢。
困惑した様子で状況の説明をする。
「実は冒険者登録をしに先ほど来た少年について騒がしくなっているんですよ」
「冒険者登録なんて何時もの事でしょ? それがなんで騒がしくなるんだい」
「その…………冒険者登録に来た少年にバンさんが酔って絡んでいきまして、少年とバンさんが喧嘩になったんです。そしたら怒ったバンさんが少年に殴り掛かると、攻撃を防がれ逆に吹き飛ばされたんです!」
「それがどうした。冒険者の喧嘩なんて何時もの事だろう? バンの実力は大したことない。その少年が実力のある有力株だったというだけだろう。騒ぐほどのもんじゃないと思うのだが?」
リーナの言葉に着物を着た女性は首を傾げた。
バンと呼ばれている男はこのギルドでの強さは一番下の方だ。
さらに酔っていたらしいし、バンを吹き飛ばしたからといって騒ぐのはどう考えてもおかしい。
着物を着た女性が不思議がっていると、リーナがその疑問に答える。
「確かにそうなんですけど問題はその少年が、『魔力をもっていない』、ということなんです」
「はぁあ!? 魔力をもっていないだって!」
着物を着た女性自信、魔力が絶対のこの世界でごくたまに、そういう子が生まれるのは知っている。
だけどいくらバンが一番下の方の力しか持っていないといっても、バンは冒険者だ。
魔力が無い少年に負けるなんてあり得ない。
この世界の常識が崩される思いだ。
「冒険者登録したなら紙に名前とか書いいるはず! 用紙を貸しなさい!」
「はっ、はいぃぃ!」
リーナは着物を着た女性の必死な形相に、慌てて用紙を渡す。
「名前はリク、年齢十四歳。出身は『聖王国テスタール』か。ならこのリクという少年は訳ありといったところか」
聖王国テスタール。
この国は聖神教会の教えが根強くあり、魔力が無い者は聖神教会が信仰する神に愛されていないという教えがあったはず。
恐らくその教えのせいで迫害されて逃げてきたか、家を追い出されてこの都市にやって来たというとこだろう。
中立都市トルバにも聖神教会の教えは信仰されているが、聖王国ほどじゃない。聖王国とトルバば隣国だし、逃げてくるには最適だ。
「このリクという少年の印象はどうだったんだい?」
「最初来たときは敬語で礼儀正しい印象を受けましたが、バンさんと喧嘩したときは言葉も崩れ、荒い言葉を使っていました」
「そうか。なら荒くれ者ということじゃあなさそうだね。喧嘩して言葉が荒くなるぐらいなら、まぁ冒険者向きだろう。冒険者は危険な職業なんだ、そのぐらいが丁度良い」
時には盗賊等を討伐する依頼がギルドにやって来る事もある。
礼儀正しい気弱な者より、売られた喧嘩を買えるぐらいの気が強い者の方が冒険者に向いている。
「まぁ、魔力が無いなんて面白い新人が来た事だ。つい最近着たもう一人の新人と、真逆の存在だこれは面白くなりそうだね」
「…………ギルドマスター、なんか悪い顔になっていますよ…………」
ジト目でギルドマスターと呼んだ、着物を着た女性を見るリーナ。
「リーナちゃん。若さを保つコツは、娯楽なんだよ! そんなんじゃすぐに老けるよ」
「…………確かにギルドマスターは三十を越えているのに、二十才の私と同い年に見えますけど、余計なお世話です!」
頬を膨らませて怒るリーナ。
「あはははは!」
ギルドマスターは、そんなリーナの様子に笑う。
その笑いの中には、真逆の存在である期待の新人二人の姿も入っていた。
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