第4話 修行と別れ
「さて修行始めるとするかの」
「いや、だからやらないって! 第一、さっき言ったから知ってるでしょ、僕には魔力が無いんだ。そんな僕がいくら頑張ろうと無駄だよ」
魔力が無いから物置小屋に閉じ込められる事になったんだ。
才能がない僕が、いくら修行したって意味がない。
「ククク、確かにお主には魔力が無い。だが、『我魂』があるだろう。お主はまだ出現させてないみたいじゃからな」
「なんで僕が、まだ『我魂』を実現させたことがないと知っているんだよ……」
「ククク、我が瞳は森羅万象全てを見ることができる。この程度の事簡単なのじゃ!」
アイリスは、無駄に決まった格好でそう言った。
……なんでだろう。凄い事なんだろうけど、アイリスのせいで全然すごく感じない。
喋り方といい、今更だが何者か聞いてみよう。
「アイリス、君は一体何者なの?」
「なんじゃお主、急にどうした?」
「いや、普通に考えてそう思うでしょ。この真っ白い世界といい、アイリスの存在といい。気になってしょうがないよ」
俺の言葉を聞いたアイリスは、フム、と言い首を傾げる。
「……まぁ、良かろう。我について教えてやるか!」
「本当! やったー!」
真面目な空気を出し、真剣な表情でアイリスは再び無駄に決まった格好で言う。
「我こそはーーーーこの世で最も可愛い女の子だ‼」
アイリスがそう言った瞬間、俺は転けた。
「ふざけんなー‼ 今の空気、絶対に言う流れだったじゃん!」
「何を言う。女の秘密をそう簡単に知れると思わんことじゃ。我はそう、安い女じゃないのじゃ」
「何が安い女じゃないだ。僕と同じガキじゃないか。もっと大人になってから言え」
僕の言葉にアイリスは鼻を鳴らして、自慢気に言う。
「我の本当の姿はもっと、ボン、キュッ、ボンのナイスバディーなのじゃ。アヤツに力を封じられこのような姿になっておるだけじゃ!」
何か意味の分からない言い訳をアイリスが言っている。
本当の姿じゃないやら、力を封じられているやら、ガキの妄想だろう。
アイリスに向かって、僕は鼻で笑い挑発する。
僕の態度が気に入らなかったアイリスは、顔を赤くさせる。
「なんじゃその態度は‼ 我を敬え、讃えろ!」
自分の素性を明かさないのに、アイリスはふざけたことを言ってくる。
そんな偉そうな態度をとるなら、もう一個の質問に答えてもらおう。
「フン、ならこの真っ白い世界は何なんだ。まさか、この質問まで答えないなんてないよね? この世で最も可愛女の子(笑)なんだから。何も質問に答えないなんてあり得ないよ」
「……良いじゃろう。この世界を作りし我の力、その偉大さと恐ろしさを、とくと教えてやるのじゃ! 聞いて後悔するではないぞ!」
「ハッン。そこまで言うなら是非とも後悔させてみろ! まあどうせ、大したことがないだろけど!」
僕の挑発にまんまと引っ掛かるアイリス。
この真っ白い世界について、ペラペラと喋ってくれそうだ。
「良いかリク。この真っ白い世界は我の力、『夢幻たる世界』で作った世界じゃ。この世界は我の思いがままにすることが出来る。まあ、簡単に言うと夢の中の世界じゃな。まさに我に相応しい力だと言えるのじゃ」
夢の中の世界?
たしかに僕はこの世界に来る前に眠った。
ならここは、夢の中ということになるのか?
アイリスは僕が夢の中で作った幻? いや、こんな人知らないしそれはないか?
僕にはちょっと難しい話だ。頭が混乱してくる
この話は置いておこう。
今は話を進めないと。
「……ならこの世界は、魔法で作ったのか?」
「バカもん! 何故我がアヤツの力を使う。これは人類がアヤツに与えられた力で編み出した技術などで作っておらんのじゃ!」
俺の言葉に、本当に怒っている様子のアイリス。
さっきからアヤツと言っているが、一体誰の事なのだろうか?
俺が不思議に思い首を傾げていると、アイリスが呆れた様子になる。
「はぁぁ。まあリクは幼子だから、我の言っている意味が分からないのは仕方ないのじゃ。ここは大人の我が器の大きさを示してやるとするのじゃ」
何でだろう。さっきまで怒っていたアイリスが落ち着いた様子で、上から目線で言ってきた。
意味が分からないが、イラっとする。。
「兎に角、我の事についての質問は終わりじゃ。いい加減修行を始めるとするのじゃ」
アイリスはそう言うが、まだ俺は納得していない。
それに、もう一つ気になることがある。
「アイリス、この世界で修行するのとして、僕は自由にこの世界に入る事が出来るの?」
「勿論じゃ! お主を、と・く・べ・つ・に、この世界に、自由に出入り出来るようにしておく。特別じゃぞ!」
アイリスは、特別と、強調して言った。
やけに自慢気だ。
「リクよ、この世界の入りかたは後で教えよう。そろそろ質問も終わりじゃ。早速修行といくのじゃ!」
ーー俺はそれからアイリスと修行をしていった。
夜寝たとき、「夢幻たる世界」の中に入り、アイリスと修行。
起きているときは、シュバルツ家の人にバレないよう隠れて修行。
閉じ込められているため、時間はたっぷりとあった。
それと修行の合間に、アイリスに勉強を教えてもらった。
多少の一般知識はあるものの、色々と知っておきたい。
何れこの屋敷を出ていく時の為に。
ーー修行を毎日行い、三年が経った。
「リク、我の修行をよく耐え抜いた。辛いときもあったろう。苦しい時もあったろう。じゃが、お主は見事修行をやりおーー」
「いや、もういいよその芝居、ダサいから」
「なんじゃと‼ 威厳ある我が、心を込めた言葉をお主に送っていると言うのに、その言いぐさはなんじゃ!」
アイリスはそう言い、怒って頬を膨らませる。
三年経っても幼い姿のアイリス。
誰がどう見たって可愛いとしか言いようがない。
威厳なんてあったもんじゃない。
「はいはい、分かった分かった」
「適当に流すなぁぁぁ!」
もはやコントのようだ。
だが、このじゃれ合いというべきものを、俺は好いている。
何だかんだ楽しいし。
「リク、おふざけはここまでじゃ」
アイリスの顔が真剣な表情に変わった。
「我との修行は今日でお仕舞いじゃ。そして別れの時じゃ」
「……え」
今アイリスはなんと言った。
修行が終わったのはいい。
だが、別れの時? 一体どういう事なんだ?
「それは一体どういう事だ、アイリス」
「何、暇潰しにお主を鍛えたが、そろそろ我も忙しく色々と動かないといけない。その為、お主と会うことが出来るのはこれで最後。さようなら、ということになる」
「……そうか」
今だアイリスの正体は分からないが、何やら忙しくなるそうだ。
俺は何時かアイリスと別れると思っていた。
だから、その時のが来たときの事を考えていた。
「アイリス、君と別れるのは寂しい。三年も毎日会っていたんだ。そう思うのが当然だと俺は思うの」
「リク……」
『だから、今度俺が君に会いに行く』
「……え」
この夢の世界でしか俺達は会っていない。
なら、夢ではなく、現実でアイリスと会う。
「だから、待っていてくれ。今だアイリスの正体も素性も知らないが、夢ではなく現実の君に会いに行く。だから、さようならじゃない。またね、だ」
「……」
俺の言葉を聞いたアイリスは、無言になり顔を伏せる。
どうしたのかと思い、声をかけようとしたら。
「ククク、クアハハハハ! 流石は我が弟子。この我が女として、キュン、としてしまったぞ!」
伏せた顔をあげた瞬間、大笑いするアイリス。
真剣な雰囲気からから、何時もの元気な雰囲気に戻った。
やはりアイリスはこうでなくては。
「良いだろう、約束だリク。必ず我を探し会いに来い!」
「ああ、必ず探しだして会いに行く!」
俺はアイリスと約束を交わし、笑顔で別れる。
「じゃあ、またなアイリス」
「ああ、またじゃリクーーーーとその前に、最後に我の本当の姿を見せてやる」
「……はい?」
いい感じに別れようとしていたのに、その空気をぶち壊すアイリス。
本当の姿とは一体どういう意味だ?
「見るがいい、これが我の本当の姿じゃ!」
そう言った瞬間、アイリスの姿が変わっていく。
「ーーハアァァァァ!?」
俺は姿が変わったアイリスを見て、驚きの声をあげてしまう。
幼い姿のアイリスは、身長が俺より伸び、何時も冗談だと思って聞いていた、ボン・キュッ・ボン、のナイスバディーの美女にその姿を変えた。
「見たかリク、これが我の本当の姿じゃ!」
自信満々に堂々と言うアイリス。
「ちょっと待て! 詳しく聞かせーー」
俺が、詳しく聞かせろ、と言う前に、この世界から追い出されていく。
「ああ後、修行を終えた記念に、便利な物をお主の家のから離れた所に隠しておく。場所はお主の記憶に刻み込んでおくがゆえ、安心するのじゃ」
「だから、ちょっとまてぇぇぇ‼ 色々と有りすぎて付いていけない‼」
俺はアイリスに、そうツッコンだ。
そして、その時最後に見たアイリスの顔は、涙を流し笑っていた。
ーーアイリスにからの手紙を読み思い出す、楽しかった記憶。
懐かしい思い出に思わず笑みがこぼれる。
「アイリス。絶対に君を探して会いに行く。だから、待っていろ」
アイリスからのプレゼントである薄汚い袋を片手に、俺は歩いて次の目的地に向かっていく。
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