第3話 あの人と出会った、過去
「……ここか」
目的の場所に着いた。
綺麗な泉がある場所、とあの人は言っていたし、距離と方向を考えてここで間違いない。
あとは、あの人が言っていた役立つ物を探すだけだ。
確か目印として、剣を地面に刺しておくと言っていた。
そして、役立つ物はその下に埋めて置いとくと。
剣がないか、泉の周りを探す。
「……ッ、あった!」
剣は直ぐに見つかった。
所々錆び付いているが、間違いなくこれが目印の剣だろう。
俺は『千変万化』を使い、剣の下を掘り起こす。
「……これが、役立つ物なのか? 随分とボロボロだが……」
そこにあったのは、薄汚い掌サイズの袋。
一先ず、袋の中を見てみる。
「……ん? これは?」
袋の中に一枚の手紙が入っていた。
俺はその手紙を確認する。
『〝ククク、元気かのうリク。この手紙を見ているということは、無事に家を追い出されたんじゃな。十歳の頃から企んでいた計画が上手くいって我は嬉しいぞ。我がお主に言っていた便利な物とお金は、この手紙を入れていた薄汚い袋に入っおる。是非とも役立ててくれ。そして最後に、お主との約束を楽しみにして待っておるのじゃ、リク〟』
俺は手紙を読んで胸が熱くなる。
自分との約束を楽しみにしている、と書かれている事に。
「……俺も楽しみにしている、アイリス」
彼女の名と共に、出会った時の事が頭に浮かぶ。
ーーシュバルツ家の恥とお父様に言われて、物置小屋に閉じ込められた僕は、悲しみに暮れ毎日膝を抱え泣いていた。
あんなに優しかったのに、突如として自分に厳しく冷たくなった両親。
「僕は魔力を測った時悪いことをしたんだ。だからお父様もお母様もあんなに怒っていたんだ」
そう思い、両親に謝ろうにも、物置小屋に閉じ込められてから一度も両親は僕の所に来たことがない。
だから僕は、毎日食事を持ってくる使用人に頼んだ。
お父様やお母様に会いたい、と。
だが、僕の所に来ることはなかった。
深いショックを受け、絶望する。
何もない毎日。僕は今日も孤独の中眠る。
ーー「ん? ここは何処?」
いつの間にか、不思議な世界に僕はいた。
見渡す限り全てが真っ白い。
その場所に、ポツンと立っている自分。
一体ここは何処なのだろうか? 僕は物置小屋で眠ったはずだ。
不思議に思い首を傾げていると、……背後から足音が聞こえた。
「ククク、面白い。まさか我の世界に無断で入ってくる者がいるとは思いもしなかったのじゃ。それもこんな幼い子供が!」
自分しかいなかった真っ白い世界に現れた、僕と同い年くらいの面白い喋り方をする銀髪の女の子。
君も十分幼いと思うのだが?
「君、誰? それにここは何処? 僕は物置小屋にいたはずだけど」
僕の言葉に訝しげな顔をする少女。
探る様な目で僕を見てきた。
「……お主、何も知らずにこの世界に入ってきたのか?」
「うん。僕、いつの間にかここにいたんだ……」
少女は僕の言葉を聞き、頷く。
僕は怒られると思い、ビクビクしてしまう。
「……フム、嘘は言っておりそうにないか。どうやら本当に、何も気付かずこの世界に入ってきてしまったようじゃの。ーークク、実に面白い!」
僕は少女の、予想外の言葉に面食らう。
「……え……怒ってないの?」
「怒ってなんかいないのじゃ。この世界に許可なく入ってきたから、何者か警戒したが。……お主の反応を見るに、どうやら本当に何も知らずにこの世界に入ってきたようじゃの。我としては怒りより、どうやってこの世界に入ってきたのか気になるのじゃ。是非とも色々聞かせて欲しい! それに、お主にも興味がある」
そう言い少女は急に顔を近付け、僕の顔を見上げる。
目と目が合い、まるで全てを見透かす様な少女の蒼い瞳に、僕は見惚れてしまう。
凄く綺麗な瞳。
宝石みたいだ。
「……クク、どうかしたかの?」
「ッ! 何でもない‼」
からかう様に聞いてくる少女。
ニヤニヤとしながらこっちを見る。
恥ずかしくなった僕は、強引に話を進める。
「分かった。僕がここに来る前のことを話すよ‼」
「ククク。なんじゃ、もっと我の瞳を見ても良いんじゃぞ」
「結構ですぅ!」
ーーそれから僕は、少女に色々話した。
眠っていたらいつの間にかここにいた事や、物置小屋に閉じ込められている事。
久し振りに他人と会話し、今まで溜め込んでいた辛い気持ちが爆発してしまい、全てを話してしまう。
決して面白い話とは言えない。
だけど、少女は優しく頷きながら聞いてくれた。
「……そうか。お主、その年で中々苦労しておるようだのう。…………しかし、ククク。」
突然、堪えきれないような笑い声をあげる少女。
どういう事だろう? 僕、何かおかしな事を言ったかな?
「どうしたの? 何か可笑しかった?」
「いや、可笑しい事は言ってない。ただ、我はますますお主を気に入った!」
「えっと……」
大丈夫かなこの子。
突然笑いだして、意味が分からない事を言っている。
僕を馬鹿にしている訳ではなさそうだけど。
「何、人間でアヤツに力を与えられていない存在がいるとは思いもしなかったのじゃ。それで、ついつい笑ってしまったのじゃ」
説明されたけど意味が分からない。
アヤツって誰?
「ねぇ、そのアヤツってーー」
「まあ兎に角、お主は我が鍛えてやるのじゃ。ちょうど暇であったし!」
僕の質問を遮り、テンション高めの少女。
駄目だ、全然話を聞いてくれない。
いつの間にか僕、この少女に鍛えられる事になっているし。
凄く身勝手な性格をしているなこの子。
「さあ、修行をするぞ!」
「いやいや、待って。勝手に話を進めないでよ。僕、修行なんてしないよ」
「そんなもんは知らんのじゃ! 我が決めたことは絶対なのじゃ!」
「無茶苦茶でしょ君!!」
「何を言う、我を誰と心得る!」
知らないよ。今日初めて会ったんだから。
僕はジト目、思いを伝える。
「……ん? なんじゃその目は? ……おっ! そうじゃ、そう思えば我の名をお主に伝えていなかったな! ちょうどいい、お互いに自己紹介しよう!」
どうやら、僕の思いは伝わったようだ。
……だけどこの少女、ちょっと残念な性格をしているのが分かった。
「じゃぁ、僕から言うね。ーー僕の名前はリク。リク・シュバルツだよ!」
僕の自己紹介を聞いた少女は、両手を腰に当て胸を張り、大仰な言い方叫ぶ。
「聞くがよい‼ 我の名は、アイリス。アイリス・クロフィルニアだ!」
ーーこれが俺とアイリスの出会い。
そして、幼い頃唯一の楽しく幸せな時間。
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