第2話 『特異な力』
「……ん?」
目的地に向かう俺は、自分を追ってくる不自然な気配を感じた。
それも複数。
群れで行動する魔獣が、俺を襲おうとしている可能性もあるが、何やらキナ臭い。
魔獣にしては連携が取れ過ぎている。
人間の可能性が高そうだ。
俺はその場に止まり、追ってくる者達を待ち構える。
すると、俺を囲むように三人の人影が出てきた。
背丈からして男だ。仮面で顔を隠し、見るからに怪しい。
「……俺になにか用?」
まぁ、用があるから追ってきているんだろうけど。これで理由を話してくれれば、ラッキー、と言ったところか。言うわけ無いだろうけど。
「依頼で、お前を殺させてもらう」
リーダーらしき男が答える。
あ、言ってくれるのね。
依頼ってことはこの人達は暗殺者なのか。
そして、誰かが俺を殺すように頼んだと。
……それって言っていいの? プロとしてダメなんじゃ……
まあ、口が軽いならこっちは嬉しいし、どんどん喋らそう。
「俺がそう簡単に殺られると? あまく見ないでもらいたい」
「フンッ。魔力が無いガキが、随分と強気な事だ」
リーダーらしき男が鼻で笑い、俺を馬鹿にしてくる。
はいアウト。馬鹿はお前。
何で俺に魔力が無いことを知っているの。
シュバルツ家は俺の存在を隠していたはずだぞ。
それを知っているって事は、俺を殺すよう依頼したのはシュバルツ家ということになる。
そうじゃないかと思っていたけど、これで確信が持てた。
「お前を殺して有り金を貰う。依頼料と合わせれば結構な額になる。全く美味しい仕事だ、こんな簡単な仕事で大金が手に入るんだからな」
もはや俺は何も言っていないのに、アッチからペラペラと喋ってくる。
何処まで喋ってくれるんだろうか?
持っていないのに、俺がお金を持っていると思っているし。
もしかして俺が家を追い出される時に、彼奴が渡してきた金は、俺を殺したコイツらに渡す予定だったのか?
おかしいとは思っていた。無能と蔑む俺に少なくない額のお金を渡して来るから。
だが、これで納得がいった。
そして、確信どころか確定する。
俺に暗殺者を差し向けたのはシュバルツ家当主、ダン・シュバルツだ。
俺の存在を無かった事にしたかったらのだろう。
「悪いが、殺される気はない。容赦なく反撃させてもらう」
「はあぁ? 魔力が無い無能が何を言ってる」
そう言い、暗殺者三人は首を傾げる。
何故俺が自信満々なのか、分からないのだろう。
故に見せよう、俺の力を。
「こい、『千変万化』」
掌を前に出し、その名を言う。
「「「!?」」」
暗殺者が警戒し構える。
そして、何も無かった俺の掌に、様々な色が混ざった斑模様の球体がが現れた。
「「「…………プッ! プハハハハ!」」」
俺の『千変万化』を見た瞬間、暗殺者達が笑い声を上げた。
「おいおい。自信満々にカッコつけるから何か有るんだと身構えたのに。出てきたのは、ただの『我魂』じゃないか。そんなもん俺は勿論、人類誰だって持っている。馬鹿じゃないのかお前」
『我魂』とは、神が人類に与えた二つの力のう内の一つ。
『魔力』と『我魂』。この二つが、人類が神に与られた力と言われている。
人類誰しも『我魂』を持っており、『我魂』はその者の、魂の形をしていると言われている。
ある者は剣。またある者は鎧など、様々な形をがある。
だから、暗殺者が俺の『我魂』を見て笑うのは分かる。
誰だって持っている物を自信満々に見せてきたんだ、俺が逆の立場なら絶対に笑っている。
……だが、俺の『我魂』は他とは違う。
特異な力を持っている。
「行け、『千変万化』!」
俺の掌で『千変万化』が、グニャグニャ、とスライムのように変形し、鞭のようにしなって、リーダーらしき男を吹き飛ばす。
「「!?」」
突然リーダーを吹き飛ばされ、驚愕する二人。
「何だよそれ!? 『我魂』が形を変えるなんて聞いた事がないぞ‼」
あり得るはずの無い物を見て叫ぶ暗殺者。
そう、これが俺の『我魂』の、〝特異な力〟。
本来『我魂』は、初めて出した瞬間の形から一生変わらない。
剣なら一生剣のまま。決して形が変わることがないのだ。
だが俺の『我魂』は、様々な形に変える事ができる。
剣に形を変えようと思えば変えれるし。
盾に形を変えようと思えば変えられる。
如何なる形にも変えられ、あらゆる状況に対応できる。
まぁ、この程度が『千変万化』の全てではないが
先ほど驚き叫んでいた暗殺者が、ナイフの形をした自分の『我魂』を出して、俺に攻撃してきた。
俺は直ぐに『千変万化』の形を盾に変え、ナイフを防ぐ。
「チッ、何でもありかよ!?」
攻撃を防がれ、暗殺者が愚痴をこぼす。
『我魂』は信じられないくらい頑丈に出来ている。
俺だけの話ではなく、全ての『我魂』に言える話だ。
そのため盾にして使った場合、壊れる事のない鉄壁の盾となる。
俺は『千変万化』を、盾から剣に形を変えて暗殺者を切り裂く。
「ガハッ‼」
これで二人目の暗殺者を倒した。
あと一人。
「焼き死ね!」
俺の背後からそう声が聞こえ、振り向く。
最後の暗殺者が俺に杖を向け、魔法を放ってきた。
「ファイヤーストーム」
俺目掛け、炎の渦が迫ってくる。
だが、この程度『千変万化』の前では無意味。
今度は『千変万化』を、剣から水に変える。
形は中が空洞の大きな球体にし、その中に入って向かってくる炎の渦から身を守る。
魔法を防がれた暗殺者は、放心状態で呟いた。
「……魔法か? いや魔力を感じなかった。それに、コイツには魔力が無いはずだ……どうなっている。…………なんなんだコイツは…………」
まるで化け物を見るような目で俺を見る暗殺者。
これが俺の、『特異な力』の正体だ。
『千変万化』は、俺が想像する全ての物に姿を変える事が出来る。
〝水だろうと、火だろうと、質量だって変えれる〟
魔力が無いなんて、些細な事だ。
俺は放心状態の暗殺者に、『千変万化』を雷に変え、放つ。
「ガッ!?」
雷を受けて、バタン、と倒れる暗殺者。
これで全ての暗殺者を倒す事ができた。
この暗殺者達、大したことなかったな。
あの人の方が遥かに強い。
俺は再び足を進め、目的の場所に向かう。
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