第1話 無能の烙印と始まり
「まだ着かないんですかお父様?」
「ハッハッハ! そう急ぐな。もう直ぐ教会に着く。リクの魔力量がどれ程沢山あるか、俺も楽しみだ。何たって俺の息子なんだ、凄い量の魔力を持っているはずだ!」
「もちろんです! お父様!」
今日で十歳に成った僕は、魔力量を計りに馬車で教会に向かっている。
待ちに待った時がやって来たんだ!
この世界において魔力量は絶対のステータス。
人類に信仰されている教会の教えでは、神が人に与えた二つある力の内の一つで、魔力量が多いいほど神に祝福されていると信じられている。
お父様も、お母様も、お兄様も魔力量が多いい。
お兄様はその多いい魔力量から、天才と色んな人に呼ばれていたりする。
(僕も、お父様やお母様に負けない魔力量を持っていたら良いなー!)
ーー「ダン・シュバルツ様、残念ながら貴方のお子さんは神に祝福されていません。魔力量……ゼロです」
僕の魔力量を計った後、教会の人が言った一言で空気が凍った。
「……何かの間違えではないのか?」
「……いえ、残念ですが事実です……」
悲痛そうに言う教会の人。
それを聞いた瞬間、お父様が膝から崩れた落ちた。
「ッ!? 大丈夫ですかお父様‼」
僕はお父様に近寄り背中を擦る。
こんな姿のお父様、見たことがない。
家では何時も優しく笑顔だが、今のお父様の顔は死人のように真っ白になっている。
「……グッ、触るな出来損ない‼」
「ッ!?」
お父様がそう叫びながら僕を殴った。
「痛いですお父様‼ 何するんですか‼」
「何するだと、この出来損ないが‼ 魔力量が低いならまだしも、ゼロだと! そんな神に祝福されていない子供がシュバルツ家から出たなど、他の貴族にバカにされるわ‼」
「……お父様……」
怒りの形相で、お父様は僕を睨んだ。
僕は恐怖で萎縮し、涙を流した。
☆☆☆
朝になり目が覚めた俺は、硬くボサボサとした布団から起き上がる。
「……久しぶりにあの時を夢を見た……」
ーーあれから四年経った。
何故あの時の事を夢で見たのか、その理由は分かってる。
俺リク・シュバルツは、今日行う十四才の成人の儀をもって家を追い出されるのだ。
(まあ、しょうがないったらしょうがないけど)
ーー魔力量を教会で計った日から俺の生活は一変した。
家に帰った後、直ぐに両親は俺の事で話し合う。
そして、自分達の体面を何よりも気にした両親は、最低なことに実の息子である俺を無能と蔑み、物置小屋に閉じ込めた。
「お前のような無能に与える家など無い‼ 物置小屋で十分だ‼」
「リク、貴方の見たいな無能を産んだ私の悲しみが、分かりますか‼」
「フンッ、リク。お前のような無能を弟に持つ、天才である兄が気持ちが分かるか?」
三人は、何も分からなかった小さい頃の自分に好き放題言う。
あの時俺は、閉じ込められた物置小屋で泣いた。
仲良かった家族に怒鳴られ、分かる筈がない事を言われ、俺が悪いんだと思い、膝を抱えて震えた。
ーーそれから俺は物置小屋で生活していった。
最低限の食事と生活品を与えられ、トイレは旅用の、携帯用魔法道具を使った。
貴族どころか、平民だってしない生活だ。
十歳の子供にしていい事ではない。
唯一の楽しみは、あの人|会えることぐらいだった。
ーーコンッコンッコンッ
嫌な記憶を思い出していると、物置小屋の扉がノックされた。
「旦那様がお呼びです」
どうやら親父に言われ、メイドが呼びに来たようだ。
「分かった」
俺はメイドに連れられ、親父の元に向かう。
ーー案内されて部屋に入った俺は、親父と正面で向き合う。
「ようやくお前を家から追い出せる。無能とはいえ、成人してない子供を家から追い出したら、世間体が悪いからな」
「……」
俺は親父の言葉に無言で返す。
こうしとけば自信家のコイツは、良いように考える。この対応が一番だ。
それに、ようやくなんだ。こんな所で台無しにしない。
「フンッ、無能が。口答えしないとは、自分の立場を分かっているようだな。いくら無能でも俺の血が入っているんだ、少しは頭が良いようだ」
何を言ってるんだか。頭がいいのはあの人のお陰だ。お前のお陰じゃないに決まってるだろ。
よくもまぁ、自分の良いように考えれるもんだ。
「お前は今日からシュバルツの人間ではない。以降は名字を名乗らぬように」
はぁ、誰が名乗るかこんな家の名前。こっちからお断りだ。
「少しだけ金をやる。有りがたく思え無能」
いや、別にいらないけど。昔から準備してたからお金はある。
「ではーー出ていけ無能二度とこの地に足を踏み入れることを許さん」
「……失礼します……」
わざわざ無い威厳を出して、出ていけ、という親父。
俺は少し悲しそうに顔を伏せながら部屋を出ていく。
実際は、一切悲しくなんてないが。
ーー俺が玄関から外に出ると、兄のエル・シュバルツが待っていた。
ニヤニヤ、と嫌らしい笑みを浮かべて、偉そうに嫌みったらしく言ってきた。
「おい無能、お父様から貰った金を返せ。お前ごときには勿体ないものだ」
……このバカは何を言っているのだろうか。
何故俺が親父から金を貰っていることを知っているんだ?
親父との会話を盗み聞きしていたのだろうか?
そうだとしたら、貴族としてどうなんだ、と思うが。恥ずかしくはないのか?
「……お兄様……どうぞ……」
渡したくないけど渡す。そういう演技をしてお金をコイツに差し出す。
こんなはした金捨てようと思っていたので丁度良い。
欲しいならくれてやる。
「フンッ。無能、二度とボクの前に顔を見せるなよ。お前が家から消える記念に、ボクはお父様達と一緒に旅行に行くんだ。このお金は旅行先で有効活用しやるよ」
エルは俺から金が入った袋を奪い、ニヤニヤ、として家のなかに入っていく。
俺はゆっくりと悲しげな足取りでシュバルツ家を後にした。
実際は全然悲しんでいないが。
ーーそれから一時間ぐらい林道を歩いて行く。
周囲に誰もいないことを確認し、力一杯両手を上げる。
「ハハハ! ようやく家を出られた! 四年も待ったんだ。窮屈な生活から今日でおさらばだ!」
俺は大きな声で喜び、待ちに待ったこの瞬間を楽しむ。
約四年間、自分の特異な力に気が付いた時から家を追い出されるこの時を待っていた。
シュバルツ家の奴等が俺の特異な力に気付いたら、どうなるか分かったもんじゃないからな。
よくて飼い殺し。悪かったら殺されていただろう。
あの連中ならやりかねない。
「先ずは、例の場所に向かわないとな。あの人が役立つ物やお金を隠しておくと言っていた場所に」
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