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表の顔と裏の顔

暇な探偵事務所だったけど、それをもて余していた訳でもなかった。

 瑞穂は今日も事務所にいた。中学に学童保育がないからだ。それは高校生になってからも続いていた。

もっとも部活動はあるから暇だってことでは無いらしい。俺が又暴走しないかと思った姉がお目付け役として送り出してくれているようだ。でも俺はそんな中でもラジオを追い掛けてアチコチ出掛けていた。

瑞穂は暇な仕事だと思っているようだが、俺には反って好都合だったのだ。







 赤錆に覆われたアパートの外階段に足音が響く。



(此処に来ないかな)

その音を聞きながら呑気なことを考えていた。



俺がこのアパートに越して来て以来ペンキを塗った状態を見たことがない。

手が汚れてしまうと考えた俺は、時々甥っ子の瑞穂に頼んで水拭きなどをしてもらっていた。

そんなことするから余計に錆びるんだとか言われかねないので、乾拭きも勿論瑞穂の仕事になった。



何時の間にか瑞穂は俺にとって、大切な相棒になっていたのだ。





 ――ガラガラドッシャーン!!

突然大きな音がした。

その途端に瑞穂が慌ててイワキ探偵事務所から飛び出した。



どうやら瑞穂はバケツを無造作に置いたらしい。



(馬鹿者が……)

管理不行き届きを瑞穂のせいにしておきながら、ドアを開けて犠牲者を中に入れた。



その男性は渡部和也(わたなべかずや)さんと言い、一番奥の水村麗子(みずむられいこ)さんのアパートを訪ねる途中だったようだ。

でも途中でバケツに足を突っ込んでしまったのだ。



その男性は前に何度か見たことがある。

何時かは、泥酔した水村さんを部屋まで運んであげてたりした。

でもその後、タクシーに残していたもう一人の男性も同じ部屋へと運んで行ったのだ。



(三人で泊まるつもりなのかな? それとも?)

俺は水村さんを心配しながらそんなことを思っていた。



独り暮らしの女性の部屋へ男性が二人。

しかもその内の二人は泥酔している。

俺はあの日、水村さんに何事も起こらないことを祈っていた。





 『すいません。イワキ探偵事務所の者ですが』

瑞穂の声が聞こえる。

俺が水村さんの部屋を訪ねてに着替えを持ちに行かせたからだ。



和也さんはまだイワキ探偵事務所に居た。

瑞穂が無造作に階段の横に置いたバケツに和也さんが足を突っ込んでしまったからだった。



履いていた革靴とスーツを汚れてしまったので着替えを頼のんだのだ。



『すいません。スエットの下有りますか? それとスニーカー……』

申し訳なさそうに瑞穂言っていた。



瑞穂が持ってきたスエットなどを受け取った和也さんは早速事務所で着替え出した。



(下着!? そうかやはり恋人同士か? 俺の目に狂いはなっかた)

そうは思った。でもその途端に、三ヶ月ほど前に起こったあの泥酔した姿を思い出していた。






 イワキ探偵事務所から出た和也さんは真っ直ぐに水村さんの部屋に向かった。



その時、何かが落ちた。

でも気付かずに和也さんは部屋に入って行った。



それを見て驚いた瑞穂は慌ててそれを隠した。



「瑞穂。今何を隠した?」

俺の言葉にドキンとしたのか、仕方なさそうにそれを見せてくれた。



「これは!?」

相当おったまげたのか声が裏がってしまった。

其処に写っていたのが男女の営みだったからだ。



「女性は水村さんのようだな?」

俺の言葉に瑞穂は頷いた。



「でも男性はさっきの人とは違うようだ」



「そうだよね。だって、これを誰が写したかってことだから」



「何れにしても、何故これを持っているかってことだ」



「水村さんが可哀想だ」

瑞穂はさっき水村さんに会っているいるから余計に心を痛めたようだ。



「瑞穂悪いけどドアの下の隙間から入れてきてくれないか?」

俺の言葉を受けて、瑞穂は慎重に対処してくれることにした。

本当はそんなことはしたくないこだろう。

水村さんに災いが降りかかることが判っていたからだ。





 「『その子のことはコイツと良く相談するんだな』写真を拾ったらしい和也さんはそう冷たく言い放っていたよ。俺は探偵の癖で聞き耳を立てていたんだ」

瑞穂は苦しそうに言った。





 「三月前、くらいになるかな。和也さんは泥酔した水村さんと帰って来たんだ。俺はその姿を見て心配したんだ。でもそれだけは終わらなかった。待たせていたタクシーにはもう一人いて、和也さんはその男性をアパートに運び込んだんだ」



「わ、汚ない。そんなことして……水村さんが可哀想だ」

瑞穂は泣いていた。



「あの後ろ姿はその時の男性に似ていた。もしかしたら二人を……」

俺は自分の発言に確証を得た。

漠然とした何かに当たったのだ。



麗子さんの部屋に送り込まれたのは酩酊状態の男性だった。

どうやらその時に男女の関係を持たされてしまったらしい。



でも麗子さんは、全く知らなかったのだ。

だから……

和之さんの子供だと思い込んでいたのかも知れない。

だから待っていたんだ。

和也さんの足音があの階段から聞こえる日を……






 その後、上村治樹(うえむらはるき)さんがイワキ探偵事務所を訪れた。

その上村さんこそ和也さんが持っていた、水村さんと写っていた男性だったのだ。



「何時麗子さんの部屋を訪れたのか解りませんが、どうやらその時に関係を持ってしまったらしいのです。でも麗子さんも私も、全く知らなかったのです」



「隠謀だな。これは」

瑞穂は口を滑らせた。



「だと思います。噂で、この辺りに刑事経験のある凄腕探偵がいると聞いたことがあります。もしかしたら?」



「あ、そうですよ」

又だ。

全く瑞穂のヤツは口が軽くて困る。

とは言うものの、やはり凄腕探偵なんて言われると気持ちがいい。

俺もおだてには弱かったのだ。





 「あの日麗子さんは和也と飲んでいました。だから……和之の子供だと思い込んでいたのだと思います。さっき言われた隠謀かも知れません。調べていただけないでしょうか?」

上村さんの目的は探偵に真相を解明してもらうためではなかったのだろう。



(水村さんのアパートを訪ねてようとしたらイワキ探偵事務所の看板が目に入ったのかな?)

そんな風に思っていた。



「でも二人共かなり酔っていましたから……」

俺はあの日見た真実を話してやろうと思った。

勿論調査料無しで……



「もしかしたら見ていたのですか?」



「三ヶ月ほど前でした。泥酔した水村さんが和也さんにあの部屋に運ばれたのは事実です。その後で貴方も……。本当に覚えがないのですか?」

俺の言葉に上村さんは頷いた。



「だとしたら、和也の言ったように私の子供なのかも知れない」

上村さんは頭を抱えた。



「やはり水村さんには子供が出来ていたのですね」



「やはりって……」



「コイツが聞いていたそうです。あっ、聞こえてきたが正解かな?」





 実際の探偵業は地味で浮気調査や人探しなどで占められている。

今回もそのようだ。



上村さんの場合上司のお嬢さんとの破談がショックで、その原因を写した人物の調査依頼だ。

写真を持っていたのは和也さんだった。

俺と瑞穂はそれを見ている。

それをどう伝えたら良いのか悩むところだ。






 「瑞穂、あの写真覚えているか?」



「当たり前だ」



「一体何の話ですか?」



「実は和也さんは此処に写真を落として行ったのです」



「えっ!?」

上村さんの声は裏がえっていた。

相当なショックを受けたのだろう。勿論、俺達も同じだったけど……



「だから俺は玄関の隙間から入れてくるように頼んだのです。申し訳ありません。水村さんが苦悩することは解っていたのですが……」



「『その子の事はコイツと良く相談するんだな』って、写真を拾ったらしい和也さんは冷たく言い放っていたのです。すいません悪いと思いながら聞き耳を立てていましたた」

俺達は水村さんが苦労することは承知していた。

それでもやってしまっていたのだった。





 「上村さんでしたね。失礼ですが、貴方と和也さんの関係は?」



「同期入社で、良きライバルと言ったところです。もしかしたら私を蹴落とすつもりだったのかも知れません。上司のお嬢様との婚約が整いましたから……」



「汚ない人だな。水村さんが哀想だ。其処までして別れなくても……」

瑞穂は又口を滑らせた。



「あっ、婚約が整ったのは私の方です。実は上司の家のポストの中に写真があって、私はそれを叩き付けられました」



「えっ!? 結婚が決まったのは上村さんでしたか?」



「だったら何の意味があるんだろ?」

高校生になったばかりの瑞穂には、男女の問題なんて判るはずもなかくただ腕を組んでいた。





 水村さんは確かに妊娠していた。

でもそれは間違い無く和也さんの子のはずだった。



「『あれは俺のじゃない。お前覚えてきないのか?』って和也は意外なことを言ったんです。上司のポストに入っていたあの写真を和也に見せて確めた時に……」



「解りました。コイツが言ったように隠謀だったら許されない。出来るだけ調べてみます。で、その上司のお嬢様とは?」



「勿論破談です。きっとそれが狙いだったのでしょう?」



「承知致しました。俺達の責任でもあるのです。何とか調べてみます」

俺は上村さんの依頼を引き受けた。






 暫くして和也さん絡みの事件が勃発した。

俺がそのあらましを知ったのは、上村さんの報告によってだった。



交番勤務の警察官が殺害された事件は、高校生が公園でスタンガンを発見したところから始まる。

近くを調べたら遺体があったのだ。



そして和也さんの新婚旅行に出発する前に、手荷物から凶器の拳銃が見つかったのだ。

それは被害者から奪った物だったのだ。

和也さんはその場で逮捕された。

でも不信に思った俺達はその事件を調べてみることにした。



俺は女房の遺したワンピースに袖を通してみることにした。

でもその現場を瑞穂が目撃してしまったのだった。

その時俺はピンときた。

瑞穂にそれを着せて女装させようと……



瑞穂は高校生の標準体格に行っていなかったのだ。

だから、ワンピースとハイヒールを履けば女性に見えるかも知れないと思ったのだ。



嫌がる瑞穂を水村さんのためだと納得させて、何とか丸め込んだ。





 調査内容。

容疑者は三人。

逮捕された当事者の渡部和也さん。

その恋人だった水村麗子さん。

調査を依頼した上村治樹さん。

俺達は、その者達の表の顔と裏の顔を暴かなければいけない。

でも、水村さんだけは違うと考えたかったのだ。

それは俺と瑞穂の一致した意見だった。



誰かが和也さんに濡れ衣を着せるために仕組んだ完全犯罪なのかも知れない。

でも俺達はそれを不完全な物ににしようと思っていた。



それにはまず調査だ。



「なぁ瑞穂。サッカーなんか辞めて仕事を手伝ってくれないか?」



「又その話? 俺からサッカーを取り上げたら何も残らないよ。みずほ以外何も……」

瑞穂はみずほちゃんとのラブラブな関係を然り気無くアピールしていた。





 「キーアイテムはあの写真と……」



「何だ、それは?」



「キーアイテム? ゲームを解くためのアイテムだよ」



「瑞穂! これはゲームなんかじゃないんだ!!」

俺は怒りの言葉を浴びせていた。






キーアイテムは何にしろ、事件は解決させでやるつもりだ。

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