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瑞穂の恋

小さな相棒だった瑞穂の初恋。

 瑞穂は中学生になると学校が早目に終わった日は良く俺の事務所に遊びに来ていた。

両親は共働きで鍵っ子だった。

小学生の時は学童があり、家族が迎えに来てくれるまで預かってもらっていたそうだ。

自転車通学になって暇をもて余した時だけだけど、姉は俺が心配だったようでそんな瑞穂の行為を喜んでいたのかも知れない。

だから探偵の真似事をさせても何も言わなかった。



その内に見よう見まねで迷子の猫捜しなどを手伝ってくれるようになった。



給料なんて払ったためしはないけど、瑞穂はアルバイトだと思っていたのかも知れない。

勿論誰にも言っていない。

甥っ子だけど子供を雇っているとか噂を立てられたくなかったからだ。

姉にすれば弟に子供を預かってもらってくらいにしか思っていなかったはずだ。



でも本当の理由は俺のお目付け役だ。

俺が又暴走しないか心配だったのだ。

新婚時代に殺された妻のことなどで色々と気遣ってくれたのだ。





 そんな瑞穂が恋をした。

お相手の名前は岩城(いわき)みずほちゃん。

実は瑞穂の名前も磐城瑞穂。

そう二人共、いわきみずほだったんだ。



それを聞いた途端にひっくり返った。

笑いを堪えるのが必死だった俺の隣で瑞穂の膨れっ面。

それが面白くて、俺は暫く笑いこけていた。



漢字で表記されない保育園時代とにかく迷惑がられたそうだ。

小さい時から何時もこんがらがって、それでずっとお互いを意識していたようだ。



「好きとか嫌いとかではなく、目障りな存在だったんだ。きっとみずほもそうだったはず」

瑞穂は何故好きになったのかを話し始めた。





 それは俺が瑞穂をデパートのトイレに連れて行った後、まだオムツを着けていた頃のことだ。



お袋の負担を考えて、瑞穂を保育園に預けることにした姉。

せめてオムツが取れるまでと思っていたようだ。



それでも姉夫婦は保育園に入れて、入学準備をさせようと決めた。

そこで早速、名前を覚えさせられたそうだ。

勿論いわきみずほだった。



「そう、俺達は同じ《いわきみずほ》だったんだ」



男女の《いわきみずほ》がどうして付き合うようになったのか?

俺は続きが聞きたくてワクワクしていた。






 お袋は瑞穂が使っていた乳母車に、昼寝用の布団を積んで保育園にやって来た。

保育士に荷物を頼んで、何度も俺の様子を窺いながら帰って行ったと言う。


でもお祖母ちゃんはその時ある荷物を渡すのを忘れたらしい。



それはみずほちゃんにとって最大の汚点になったとのことだった。



『いわきみずほちゃん居ますか?』

そう言ったのは、カッコいい男性の保育士だったそうだ。



『ハーイ!』

みずほちゃんは嬉しくなって大きな声を出した。



『はい。忘れ物だよ』

そう言いながら、保育士は笑った。



みずほちゃんは何だろうと思いながら荷物を開けてみた。

すると中から大量のオムツが出てきたようだ。

みずほちゃんは真っ赤になり、泣き出した。



『オムツなんてもう卒業したもん』

小さな声でそう言いながら……

あまりにも泣き過ぎて……

お漏らしをしてしまったのだ。



「そのことを俺は後で知らされた。でも俺はみずほを追い掛け回した」



「おっ!!」

俺は瑞穂の恋に興味津々だった。





 「保育園から小中学まで同じ学校だった。意識はしていた。同じ名前の怖い女の子として。だってみずほはあの時俺を睨んだんだ」



「お漏らしの時か?」



「でも俺はある日、みずほの優しい一面を目の当たりにしたんだ。それは地域の運動会の時だった。久しぶりに小学校の校庭に集合した俺達だったけど、本当は来たくなかった。でも年代別リレーで走ってくれる中学生がいなくて、俺が頼まれたんだ」



「もしかしたら女子の選手代表はみずほちゃんだった?」



「うん。みずほは長女で、小学生の弟と妹がいたんだ。だから抵抗もなく来られたのだろうな」



「それはトイレに並んだみずほを見た時の事だった。前にいる女の子がもじもじしていたんだ。大丈夫かな? 何故かそう思った」



「彼処の校庭のトイレは、男性用小便器が二つと個室が一つあるけど女性用は解らないけど、姉の話だと個室が二つあるだけだらしいな」



「だから時々、男性用個室から女性が出てきてびっくりすることもあるんだ」






 「絶対量が足りないらしいな? だから苦しむ人が大勢いることは姉から聞いているよ」



「そうなんだ。俺のその感は当たった。女の子は順番が来る前にガマン出来なくなったのだ。その時みずほはトイレの裏へと女の子を誘ったんだ。トイレの裏から出て来た女の子は、みずほのズボンを履いていた」




「優しいなみずほちゃんは……」



「うん。俺は見てはいないが、きっとみずほがズボンを脱いで渡しだのだと思ったんだ」



「だから恋をしたのか?」



「ううん、まだ。その後のリレーで」



「そうかお前達選手だったからな?」



「みずほね、ブルマだったんだ」



「ブルマ!?」



「体育の授業ならそれでもいいと思う。でもみんなスポーツウエアで走るリレーなんだ。俺はみずほを格好イイと思った。そして俺はみずほをずっと意識していたことに気付いたんだ」



「ブルマだったら太ももが……」



「うん、その時ことは起こったんだ。リレーのバトンタッチラインに並んでいると、みずほが先頭で駆けて来た」



「格好いいなー」



「叔父さんの想像通り、みずほの太ももが揺れて俺に迫って来た。俺は思わずバトンを落としてしまったんだ。慌てて拾おうとしたら、今度はみずほの胸が迫って来た。みずほがバトンを渡してくれたからなんだ。流石に巨乳とは言えない。でも中学生らしい胸の膨らみに俺は酔った」



「全身が硬直し、カーッと頭に血が登ったか?」

俺はちゃかしていた。



「『何遣ってんの!? 早く走って!!』ってみずほが声を荒げた。その言葉に俺はハッとして、次の瞬間無我夢中で走っていたんだ。気が付くと俺は次のランナーにバトンを一番に渡していた」



「そうだよな。瑞穂はサッカー部のエースを目指していたんだな」



「うん。俺、背は小さいけどすばしっこいんだって。だから少年サッカー団時代からエースだったんだ」



「そうだ瑞穂、そのサッカー辞めてペット探しを手伝ってくれないか?」



「えっー!?」

今度は瑞穂がひっくり返った。






 俺はみずほちゃんが気になった。

瑞穂が惚れたのだから物凄く可愛い娘だと思ったのだ。

だからこっそり瑞穂の家の近くに行ってみた。



(瑞穂が惚れ込んだんだ。きっと千穂(ちほ)ちゃんより可愛いい娘に決まってる)

俺は意気込んでいた。

千穂ちゃんとは瑞穂の住んでいる社宅の隣人だ。

瑞穂は瑞々しい穂でその一字をいただいて千穂ちゃんと名付けられたと姉から聞いていた。



姉は瑞穂の恋人にと考えていたようだ。

瑞穂と千穂ちゃんは生まれた時から一緒だったと言っても過言じゃなかったのだ。

気立ての良くて素直な千穂ちゃんは姉ばかりではなくお袋もお気に入りだった。

だから俺も知っていたのだ。





 瑞穂とみずほちゃんは別々に歩いていた。

と言うより尾行のようだった。



(辞めろ瑞穂。ストーカーに間違えられるぞ)

俺の心配をよそに瑞穂も意気込んでいたようだ。

瑞穂はどうやら俺の真似をしているようだ。



(そう言えば瑞穂、頻りに探偵の極意を聞いていたな。もしかしたらみずほちゃんの後を付けるためか?)

俺の話をくそ真面目な顔をして聞いていた瑞穂が目に浮かんできた。



(問い詰められて、俺の名前を出されたらヤバい)

俺は焦っていた。だからみずほちゃんの後を追っている瑞穂の付けることにした。





 みずほちゃんの家は新興住宅街にあった。

その家の庭を覗き込んで驚いた。

あの女性が居たからだ。

俺が初めてペット探しを依頼された時に協力してくれた人だった。



(彼処に居づらくなって引っ越したのかな? 俺はのせいだったらどうしよう)

そう思うと気が気じゃなかったのだ。





 「瑞穂……」

出来る限り小さな声で呼んでみる。

すると瑞穂は振り向き様に目を白黒させた。



「な、何で叔父さんが此処に居るの!?」

瑞穂の声に反応して、みずほちゃんのお母さんらしい人が此方を覗いていた。

俺は咄嗟に瑞穂に目配せをして家に帰した。

その後ろ姿を見送ってから会釈した。



「あっ、貴方はペットを捜していた人……」

どうやら俺のことを覚えていたようだ。



「あっ、ペット捜しの途中です」

俺は咄嗟に嘘をついた。



「あの時は本当にお世話になりました。ところで、引っ越しなされたのですか?」

俺の質問に女性は頷いた。



「やはり気まずくなりましたか?」

もう少し言葉を選べばいいもものそのものズバリを俺は言っていた。



「それもありますが、色々と判りまして……」



(いや、きっと俺の責任だ)



「あの実は、あの後色々言われまして……」

その発言に緊張して、次の言葉を待つことにした。






 「やはり私の責任ですね」

それでも俺は言っていた。



「いや、違うんです。あの人は親切だったので信用していたのですが、自分の発言を他人が言ったように偽装していたのです」



「偽装? もしかしたら自分で悪口を言っておいて奥さんのせいにしたとかですか?」



「はい。同意を求めてくるんです。『そうね』とか言ったらアウトらしいです」

俺の質問に頷きながら女性は言った。

俺が迷子の子猫を捜す仕事をしなかったら、こんな苦労はしなかったのかとも思った。



「本当にご迷惑をお掛けしました」



「いえ、だから本当に違うのです。私はずっと騙されていたのです。だから探偵さんには感謝しております」

女性は頭を下げた。





 「基本的に飼い猫が家を飛び出した場合、何かに追われてない限り近くに居るのが原則です」



「だから公園の近くに居た私達に声を掛けたのですか?」



「はい。飼い主さんの家の前は公園でしたから、集まっている方に声を掛けさせていただいたのです」



「引っ越しする前日にあの公園に行ってみたのです。公園に面しているその家の飼い猫が、子供に撫でられていて……あの後『まさかあんな汚い猫が産んだとは思えないから捨てられた猫だと思ったのよ』って言ってました」



「確かに普通の猫でしたが……」



「あの猫はね、ああやって子供達と遊ぶでしょう。だから何時も体をキレイに洗われていたの。だから汚くなんかないのよ」

辛そうに女性が言った。





 俺は瑞穂にみずほちゃんのお母さんとの馴れ初めを話した。



「やはりみずほのお母さんだけあるね。叔父さんと同じように正義感に溢れている人だ」

瑞穂が生意気な口をきく。



「あぁ、それは感じた。瑞穂、俺はお前の恋を応援するからな」



「やった!!」

瑞穂は万面の笑みを俺に向けた。





お相手の母親は知り合いだった。

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