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一部始終

ラジオの奥さんは拉致被害を語り出した。

 俺達はあのまま浅見家に泊まらせてもらい、早朝歩き始めた。

その時、遍路中ずっと泊まってくれるように言われた。

案内人に宿の手配を頼ん時に、そのことは言われていた。でも迷惑が掛かると思ったのも事実だ。

でも浅見家の方たちは、最初からそのつもりだったようだ。嬉しい提案に俺は戸惑った。孝一さんと八重子さんの関係者だけではなく、瑞穂や木暮君も連れて来てしまったからだった。尤も瑞穂は今日で一旦引き上げる。遍路を始めたら日数は関係ないけど最後まで廻らなければいけないそうだ。

案内人が用意してくれたパンフレットにはサイクル巡礼ってのもあった。だから二人には休みになったら又来ればいいと言っておいた。






 昨日の三角形の道を札所五番反対に進む。

五番札所は赤い仁王門だった。

所作の後で近くの寺院で納経してもらい、次の十番札所に進む。いきなり進んだ訳ではない。

五番札所から十番札所は比較的に近い距離だったからだ。

それは案内人の配慮だった。

五番札所は語歌堂と言い、近くに語歌橋があった。

其処を暫く行くと十番札所があると言うのだ。其処から小さな橋を渡り、横瀬大橋を渡る。



実は次に向かう七番札所もそうだった。道沿いにあるのが七番札所で六番札所はその奥なのだそうだ。

国道を渡り八番札所へ向かう。

その札所にはコミネモミジと呼ばれる大きな楓があった。その勇姿を見上げながら昼飯になった。それは浅見家の人が朝早くから用意してくれた海苔で巻いたおにぎりだった。

九番札所は納経所は立派だが、本堂はこじんまりとした八角形だった。

次は本来なら十番札所となるのだが、十一番札所の方が道なりにあり、かなり戻ることになるので先に寄らせてもらったのだ。

札所の位置を把握している案内人だから出来る技なのかも知れない。

十一番札所は羊山公園の見晴らし台と道を挟んだ位置にあり、十一面観音だった。

この先で瑞穂と木暮君とお別れだ。いくら入試の時期だと言っても勉強を疎かに出来ないからだ。

歩き出した道には十五番札所の案内看板があった。

それを横目に秩父神社に入る。実は秩父駅は此処から近いのだ。

子育ての寅、お元気三猿、北辰の梟、繋ぎの龍など神社の回りに配してある。それらを見ながら裏道より駅に向かった。

瑞穂は名残惜しそうだった。



「叔父さん、迷子の猫探しの仕事だったらやって良い?」

改札口で瑞穂が耳打ちした。



「いや、止めておいてくれ」

本当は嬉しい提案だけど、木暮君にも頼んでしまいそうな瑞穂が心配だったのだ。それに瑞穂に鍵を預けなくてはいけなくなるからだ。余計な心配だけど、木暮君と女装合戦でもやらかしたら大変だと思ったのだ。

俺は瑞穂が改札口から見えなくなるのを確かめてから皆と合流した。





 残った連中はバスに乗って浅見家近くまで戻ることにした。

今回の巡礼が孝一さんと八重子さんの慰霊の旅でもあったから、宿泊してもらいたいと出発前に提案された。

全行程を歩いて回りたいのは解るけど、終わりにした場所から始めれば良いと言われたのだ。俺達は快くそれを受けることにしたのだった。

でもその前に、夕飯は早目に駅の構内にある地場産で済ませることにした。浅見家に迷惑は掛けられなかったのだ。



「其処まで気を遣わなくても。浅見さんは少しがっかりしておられました」



「申し出は嬉しかったのですが……。二階にあるレストランでワラジカツ丼が名物だと聞いていたのです」



「食べてみたくなりましたか? 驚かないでください。きっと想像を絶した大きさですので」

案内人はそう言いながら階段を上って行った。

出てきたカツは丼からはみ出していた。

瑞穂や木暮君がいたならきっと大喜びすることだろう。でも俺達は四苦八苦だった。案内人の言った意味がその時解った。





 その日の夜。俺は奥さんに拉致被害の裁判することを訴えた。

それはラジオの冤罪を晴らすためでもあるからだ。

その途端、奥さんは顔を強張らせた。



「やっと癒えたトコなんだよ」

ラジオの声は悲しげだった。



「お前は何て聞いたか解らないけど、あの事件に対して俺はお前の無罪をずっと主張し続けていたんだ」

俺はやっと真実が言えた。それを頷きながら男性は聞いていた。



「本当のことだ」

その後でそう言ってくれた。



「私が拉致された現場を見た方がおられます。お孫さんを連れた女性でした」

覚悟を決めたのか、やっと奥さんが言った。



「その孫が、瑞穂ですよ。女性は俺の母親です。だから瑞穂を連れて来たのです。瑞穂には霊感があって、ラジオが……、あっ!」



「又ラジオか? それで良いよ。もう慣れたから」

呆れたようにラジオが言った。



「すいません。コイツが、妻を殺した犯人ではないと言ってくれました」



「どういうことだ?」

ラジオは首を傾げた。



「近所のカフェでクリスマスイヴの日に女子会があって、その店の前でお前にあった」



「女子会? 男だろお前?」



「女装したんだ」



「はー、女装ね。あっ、もしかしたら?」

ラジオはクスクスと笑い出した。



「解った。あん時俺の真ん前にいた不細工なオカマか?」




「不細工とは何だ。半部当たっているけど」



「今度は仏頂面か?」

俺の顔を見てまだ笑っているラジオ。でもそれで蟠りは解けたようだ。



「瑞穂の霊感は、恋人がクラスメートの悪巧みで自殺を装おって殺された時覚醒した。恋人の霊に導かれ、植え込みの中で見つけたコンパクトに『死ね』と書かれていたんだ。それを見ている内に……」



「可哀想」

奥さんは泣いていた。



「木暮君はオマケですが、実は彼にも辛い過去がありましたね。兄が殺されてます。だから一緒に歩こうと誘ったのです。あの時瑞穂は妻のワンピースを着ていて、お前を懐かしがっているって言った。だから犯人じゃないって言ってくれたんだ」



「っていうことは、やはりお前は犯人だと思っていたってことだな?」

そう言いながらもラジオは笑っていた。それでも何か考え込んだみたいで俯いた。俺が木暮君のことを話したからだと思った。





 奥さんは数年間拉致監禁されていたそうだ。そしてそれが原因で身体だけではなく心も病んだそうだ。だから精神病棟にずっと入院させられていたのだ。



「犯人は知っている。お前を罪に落とした奴だろ?」

俺の質問にラジオは頷いた。



「でも、何でお前が知ってる?」



「郵便受けに封筒に入った招待券があったろ? あれは俺が入れた物だ」

俺は覚悟を決めて一部始終を語った。





 「お前が俺を犯人だと思った経緯は解った。でも俺はその日、妻の実家に行っていたんだ」



「身内のアリバイ証言は証拠にならないんだ。だから俺はお前を犯人だと決め付けた。でも、お前が妻を殺せるはずがないってことは理解していた」



「そんなの当たり前だろ?」



「だから苦しんだんだよ。お前を犯人に仕立てた警察が信じられなくなって辞めたんだ。って言えば聞こえがいい。本当はお前を追うためだった」



「俺もコイツが居なくなって気が動転していたからな」



「彼の仮出所が決まり焦ったのでしょうか? 私は人質だったみたいです。そう言えばその時、気になることを聞きました。私が拉致された後、誰かを殺って来たと……。だから私怖くなって逃げることが出来なくなったのです」



「誰かを殺った?」



「もしかしたら刑事さんの奥様だったかも知れません」



「っていうことは犯人は? アイツ以外居ない!」

二人同時に言った。





 どれくらい時は流れただろう? 俺達はまんじりともしない夜を過ごしていた。



「解ったよ。再審の請求をして見る。その前に拉致被害届を出そう。その裁判で俺が無実だと証言させよう。そして奥さんの殺したことも認めさせるんだ。俺達を不幸のどん底に落としたヤツに落し前を着けてやる」

ラジオはやっと決意したようだ。

確かに不幸のどん底に落とされた。信頼していたヤツと仲違いもされられた。でも俺は心の何処かでラジオを見下していたのだ。

俺は本当にいい加減な奴だったのかも知れない。





 裁判の結果はまだ解らない。拉致事件で有罪は確定しても、法律で最高裁まで争うことが出来るからだ。

でも一審の判決によって、ラジオの再審は認められるかも知れない。

その時は俺も証言台に立とうと思う。それが俺達の信頼回復には大切な行為だと思うからだ。





 俺達は一旦、取り止めにした秩父巡礼を再開した。勿論瑞穂と木暮君の休みの日に合わせてだ。

俺達の仲直りは瑞穂がいたから出来たからだ。

今度はあの日終わらせた秩父駅からだった。

其処から一審近い十五番へ向かう。

裁判の行方はまだ解らない。それでもこの遍路が、揺るがない絆をもたらせてくれると信じている。

俺達の旅は此処から始まる。




完。



これで完結です。

誤字脱字は見つけ次第書き直すつもりです。

今までありがとうございましたm(_ _)m

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