3、5話 冒険者
休憩中。
ーー蛙の魔物。
ーーフウ姉様が可哀想。
ルオとメナに、酷評された。フラウズナの似顔絵だ。「酒蔵の番人」も目で訴えていたが、どうやら俺に絵心はないらしい。
地面や薪に絵を描いていたという少女に、手持ちのすべての紙を渡して、管理を委ねた。
フラウズナの可愛さを半分も表現できたのだから、自由に好きなだけ絵を描く権利を与えるのは当然のことだ。
荷物の運搬の依頼。
冒険者の主要な仕事だ。冒険者がいなければ、十村はそれぞれに孤立しちまう。今より、相当貧しくなるだろう。
だからといって、優遇されているわけでもない。
規則というのは、大抵それを作った側に有利になるようにできている。商人組合は、冒険者が商売をするのを認めていない。とはいえ、これにも抜け道はある。
組合と交渉するか、その類の依頼を受ければ良いのである。残念ながら、そこまで思い至る冒険者は稀である。彼らの多くは、依頼の報酬を生活と交遊に充てている。
「交遊」と聞いて、ルオは首を傾げていたが、メナのほうは。確実に、良からぬことまで理解していたようだ。
師弟ならぬ師妹は似るというか、猫を被っていたメナ。ルオと打ち解けるなり、ドワーフの性質を、無骨さを隠さなくなった。それでいて愛嬌があるのは、エルフの性質なのかもしれない。
大口の依頼は、まだ早いだろう。他の冒険者と行動を共にすることで学べることはあるが、ーー半周期は様子見が必要と判断した。
共に行動をする上で、隠し事はいけない。報告、連絡、相談ーー色々あるのだが、羞恥心から無断で花を摘みにいってしまったメナと、心配になって捜しにいったルオ。
ーー大変だった。
襲ってきた魔物を倒すより、ルオに常識を教え込むほうが困難だった。どうもルオは、男と女の違いについて、まったく理解していないようだった。バゥラと命の受け渡しをしていた所為なのか、根本的なことを中々わかってもらえなかった。
バゥラとそうしていたように、メナを抱き締めながら寝るのはまだ増しで。ーーそれ以外のことはメナの名誉のために、秘することにしよう。
不思議な関係だ。
メナは、それでもルオを頼りにし、彼の後ろを定位置に。ルオは、メナのことを「半身」として、近すぎる距離感を当然のものとして受け容れている。
「水竜」から「風竜」へと向かっている。
荷は薬草で軽く、安全な経路。報酬は安いが、初めての依頼としては順当だ。まずは達成感を与えてやらないとな。
この依頼を選んだ理由は他にもある。いいや、そちらのほうがメインとも言える。「風竜」の近くにある洞窟が目的地だ。
「風竜」まであと三日。会話を中心に、ルオを矯正しつつ、間にルオを挟まずメナと直接話せるところまで持っていかないと。
気苦労ーーではあるのだが、心は軽い。自分のことは自分が一番わからない、などと言うが。相方が二人になって知った、俺の変化も意外なものだった。これまで好んで独りでいたのが、馬鹿らしく思えてくるほどに。
ルオと同等の魔力量のメナ。
魔力を魔法の鍛錬に使えるようになって、おかしなことが起こった。なぜか、俺の魔法がメキメキと上達してしまったのだ。
どうもこれは、俺の才能が開花したとかではなく、二人の多量の魔力を浴びることで、俺の内のどん詰まっていた魔力が正常に流れ出したようなのだ。
歯車と、リュリケイルは危惧していたが、それは変化とも言える。大きな変化は要らない。せめて、フラウズナと手をつなぐまでは、そこそこに愉快な人生を歩ませてくれ。
信徒ではないが、幸運の女神エルシュテルに祈ってから、休憩を終えたのだった。