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第8章:カミノコ

〜 別れ道 〜


目を覚ますと、先ほどのエレベーターに倒れていた。

エレベーターは止まっている。翔吾さんを起こしてみたが全く起きない。死んではいないようだ。


周囲の気温が少し高い感じがする。

地熱?

いったいどれだけの距離を下に来たんだろう。


俺はエレベーターから降り、ホールの扉を開けてみた。

するとまた、エレベーターホールに続いていて、今度は少し小型のエレベーターが、またそこに設置してあった。

エレベーターの電源は点灯している。


降りて来い、ってことだろうか…


眠っている翔吾さんを床に座らせ、手榴弾を借りる。


連れて行くべきか迷ったが、翔吾さんは行くべきじゃないと思った。

たぶん、その方がいい。


隠していた自分の日記を取り出し、翔吾さんへ感謝の言葉を書き加えると、それを寝ている翔吾さんの近くに置いた。

そしてエレベーターの上昇スイッチを押す。

エレベーターはまた、ゆっくりと上昇をし始めた。

それを見送り小さいエレベーターに乗りこむ。

俺はさらに下へと降りていった。



〜 神の部屋 〜


小さいエレベーターが下降してしばらく経つと、

左右の壁が無くなり途方もなく広大な空間になった。

地面が淡く発光し、

眼下に広がる空間は地平線が見えるほど広がっている。


夢で見た、ボロボロの戦闘機が帰ってきた場所。

ここが、旅の終着点。


神の領域……!



エレベーターは支持を失ったにも関わらず、重力の影響を受けていない。ゆっくりと下降していき、やがて地面にたどり着いた。

地面には背の低い、白い葉が一面に生えている。

そしてその葉が、この淡い光を放っているようだった。



目の前には、黒羅と呼ばれたあの黒い戦闘機、ブラッドイーグルが、十数体、おとなしく並んで立っていた。



———お兄ちゃん、

とうとう、ここまできちゃったね☆


突然、後ろから声をかけられた。

さっきまで誰もいなかったはずなのに。


振り向くと少女が、いや、少女達が立っていた。


13人…

いつのまにこんなに……


そして少女達の中に、もう何度も見てきた顔があった。


ゆい、ちゃん……



〜 神様のアイドル 〜


こんなところまで、良くきたねー☆

がんばったねお兄ちゃん

でも本当はね、わざわざきてもらわなくても良かったんだよぉー?

そろそろお兄ちゃんを、わたしたちで迎えにいくところだったのにー☆

?! なんで…

うん☆

役割、ってやつのためか…

そう!☆⤴︎⤴︎⤴︎


この子達は?

この子達? みんな神様アイドルだよー!☆ って言いたいところだけど、ちょっと違うの!


ローズ・バトラちゃんとバチルダちゃんとリーネちゃんは知ってるよね?

…こんにちわ

おーっす!

はじめまして


…うん


私たち4人は今の☆! 神様アイドル☆!

他の子達はね、私たちの前に、神様アイドルだった子供達だよ☆


前に? 前もこんなことがあったっていうのか!

そう! ずっと前に! そして、もう役割を終えた子供達!

たしかに、雰囲気が違う

みんな白い服を着て、なんかこう、身体が透けてるみたいだ

エレベーターに乗ったとき、俺達を眠らせた子もその中にいる。


神様、アイドルってなんなんだ

神様アイドルっていうのはね


神様……地球に、選ばれたアイドルだよ☆


地球に?

そう! そして、お兄ちゃんの足元見てみて!!

……?

これはねー、全部人間の


魂だよ☆

っ!?

大丈夫!踏んでも透けてるから!避けなくても大丈夫だから!


この1面の白い葉が!! 全部人間の魂!!


…私たちはアガスティアの葉って呼んでるの

そしてこの葉は全て、地球の精神につながったもの

人は生まれるとこの中から一つ、葉を与えられて生まれてくる

そして死んだときに、もう一度ここに葉を返すの


さわってみて?☆ たぶん、気持ちがわかるはずん☆

俺は葉に触れてみた。痛、がってる?


……でも、悲しい想いをした魂の葉は、どんどん変色してしまって、

それを持って生まれてしまった人は、また悲しみを受けると黒くなるの


そして、もっと黒くなった葉は、今度は白い葉を傷つけ始めるの


この葉が全て黒くなった時、地球は終わる


この間まで、人間の魂は真っ黒だったの!みーんな黒くなりかけてたんだよ!☆ 実はまだ黒いのがいーっぱい残ってるの!

ゆいたちが頑張って、白にもどしたんだよー!ねー?


それが、エミュレーター・エリミネート・システムの目的か……


そう!☆ そして無理やり黒くされた被害者達の魂の葉っぱを集めて作られたのが黒羅ちゃん!!

黒羅ちゃんに殺された魂は、エミュレーターによって選別されて本当に悪い魂の葉は二度とここには戻さないの!


なぜ……

俺に、黒羅の夢を見せたんだ


それはね、


お兄ちゃんが、ゆいのヒーローだから☆!!

…っ!


ゆいを救ってくれた、ヒーローだったから


覚えてる?

…あの事件のこと




〜 12年前・強盗殺人事件 〜


中学生だった俺は悲鳴が聞こえて、急いでその家に向かった。


大丈夫ですか!!なにかあっ……!!!


包丁を持った男が、立っていた。

床にはこの家の、つまりゆいちゃんのお母さんと、生まれたばかりの赤ちゃんが血だらけで倒れていて、

男は血だらけで、それを見下ろしていた。


俺は、身体が強烈に震えて、逃げることもできなくなった。

男が俺に気付いて、


んだぁ…? てめぇ…。なんだよ、ガキか

運、わりいなぁお前


……———!!!


俺は声にならない叫び声を上げて、その場に座り込んでしまった。


うっせぇつーの!!ぎゃあぎゃあ騒ぐなよ…

まじうぜええぇなっ!!

男が包丁を向けて走り出そうとした時、

ゆいちゃんのお母さんが、最後の力で男の足をつかんでくれた。


っ!!?

男はおもいっきりコケて、手から離れた包丁が俺の目の前に転がってきた。

男は呻きながら、ゆいちゃんのお母さんを蹴ろうした。

だから俺は、とっさにその包丁をつかんで…


男のノドを、刺したんだ。



———わたしは、それを押し入れからずっと見てた

お母さんと、るいちゃんとかくれんぼをしていたら


いきなり知らない人が入ってきて、お母さんと赤ちゃんが刺された。わたしは怖くて外に出られなかった

たぶん、次はわたしか、妹のるいちゃんが狙われる

そう思っていたら、お兄ちゃんが来てくれて、そして



犯人を、やっつけてくれた


あの時から、お兄ちゃんはわたしたちのヒーロー。

助けに来てくれる、ヒーローなんだよ


…ごめん、


……俺が、もっと早くに、異変に気付いてれば…きみのお母さんと弟を死なせずにすんだのに…


そしたら、こんな、こんな運命を辿らなくても……


ちがう!ちがうよ、お兄ちゃん!

お兄ちゃんが来てくれたから、ゆいもるいちゃんも助かった! わたしも神様アイドルになれたんだよぉー⤵︎⤵︎⤵︎ だから、泣かないで……



〜 神の子 〜


ゆいのお父さんはあの事件の後、まるで人が変わったように仕事して、家に帰ってこなくなった

わたしとるいちゃんは、施設に預けられたの


俺は、その時に住んでたアパートから引っ越した

犯人は自殺ってことになったけど、そのまま住み続けることは出来なかった。あの時のことをいまだに夢に見る


そして2年前、お父さんが私たちを迎えにきたの


ゆい、るい。お母さんと弟に会いに行こう

やっと、お父さんの研究が完成したんだ。さぁ…一緒に


そして連れて来られたのが

この場所…か


ここにはみんながいる

これまで死んでしまった全ての良い人達


弟のかいちゃん、お母さん。おじいちゃんもおばあちゃんも、みんな☆

地球は人の魂を大切にしてる

良い人の魂はこれから甦えり、悪い人の魂は追放されキレイになったら地球のエネルギーになるの!

そして、


地球は本当に浄化される☆



〜 エミュレーター・エリミネート・システム 〜


役割……、役割と言ってたな

うん☆言った!


俺に、何をさせるつもりなんだ…


……

私から、説明を

バチルダが前に出る。


その前に、今地表で起こっている状況を説明しておきます。

人類は元々いた人口のおよそ30%が今回私たちによって魂をエミュレートされました。

ただし、都市機能はこれから半世紀かけても復旧が難しい状況になっています。

人類の新しく選出された指導者達は、その責務や立場、辛うじて生き残った黒い魂を持つものにそそのかされ、現在、この神の地の入り口に、人類の持つ最悪の兵器、すなわち核兵器による攻撃を仕掛ける算段に移行しています。


な、


誤解してほしくないのですが、私たちのエミュレートの対象はなにも人間の魂だけではありません

不必要に地球の資源を浪費していた、黒い魂を持つものが作ってきた施設もまた攻撃の対象だったのです


……石油、石炭、天然ガス、火力発電所に———


環境を破壊する全て、です。私たちはそれらも優先的に攻撃してきました。しかし、核兵器には手を出せなかったのです

環境を汚染するから?

はい。ここを攻撃される前に、是非止めたいのです

攻撃をか。でもどうやって? 攻撃すれば汚染が広がるぞ


簡単なことです

私たち神様アイドルがいなくなればいい…


…え?


攻撃対象のわたしたちが、エミュレートされてしまえばここを攻撃する必要はなくなります


これは始めから決めていたことです。少し、時期が早まってしまいましたが。

こんなに早く、この場所が人間たちに知られると思っていませんでしたから


俺たち2人がきて、居場所を教えてしまったから


どうか、それは気になさらないでほしい

私たちは、人の魂を選別するために地球によって選ばれた。

この選別が終わってしまえば遅かれ早かれ、私たちも地球に己の魂の葉を返す必要があったのです

これは私たち、全員の意思です


ちなみに、自殺ではエミュレーターは選別してくれません

自分で自分を殺人する時、エミュレーターは機能しないのです

なので、私たちは自殺ができません


……


長くここにいる子はね

もう5千年以上もここにいるの


ごせんねん……?!


ずっとここの葉のお世話をしてきてくれたの


だから、

もう、眠らせてあげたい……


お兄ちゃん…

私たちを


エミュレートして……?



〜 神カツ 〜


ガコン!

ここに乗ってきた小型のエレベーターが勝手に上に上がっていってしまった


……!!


もう、発射まで幾ばくの猶予もありません


あと少しもしない間に、彼らは攻撃を開始してここは死の炎によって灰にされてしまうでしょう


ここは、地球の精神と人の魂がもっとも集まっている、言わば中枢神経系に相当します

ここの破壊はすなわち


地球の死


私たちがゆいゆいをのぞいて全員同時に死ぬことによって

エミュレーター・エリミネート・システムは最終段階になります。

最終段階?


良い魂を持つ者は、甦る


!!


寿命で死んだものは違う生として、ですが

今回の私たちの攻撃で死んだ者たちは、そのまま甦ることになります


そんなバカな…

バカではありません。事実です


夢、絵空ごとだ…


あなたはこれまで、私たちのことをずっと見てきたはずです。この後に及んで、ウソはつきません


……


核攻撃が現実になれば、南極大陸は消滅し大波が世界中を襲うでしょう。湾岸部の人たちがまず犠牲になり、続いて

厚い死の灰が雲になり太陽が遮られます。草木は枯れ、動物は絶滅し、地球は二度と生命を育める環境では無くなります。暗黒の世界が始まるのです


……こんな…

こんな…


バチルダが銃を差し出す


これは、黒羅のシステムで作られた私たち専用のエミュレーターです

これでお互いを別々に撃てば、わたし達は地球に還ることができます。


バチルダが下がっていく。そして、

少女達がそれぞれ1組になり

それぞれの手に、その銃が実体化していく。


お兄さん。ゆぃゆぃ、


……うん☆


……! やめろ


私たちは先に還ります


っやめろぉぉぉー!!!!



———12人が、全員をお互いに撃っていた


バチルダ、ローズ、リーネちゃん

他の少女達……


なんで、……なんで…

こんな結末で、それで本当に


さぁ、これでシステムの準備が終わったよ☆

わたしが最後のトリガー

わたしがその銃で撃たれれば

みんなエミュレーターで生き返れるんだよ☆



〜 トリガー 〜


俺はここに来る時、

自分の命と引き換えに君たちを止めようと…


人の命を奪うんだから、償いになるかわからないけど、

それぐらい


なのに…


ただ、撃てば良いなんて…

簡単に、命を奪えだなんて


俺には……


お兄ちゃんはわたしの、ヒーロー……

初めて好きになった初恋の人


あなたしかいない

あなただけが、


わたしを救ってくれる


わたしは、わたしたちはそう信じてる



……



俺は長い、本当に長い逡巡の後、



引き金を引いた



〜 ヒーロー 〜


少女達の亡き骸は、光の粒子になって虚空に溶けていった。

黒羅、黒い戦闘機も、少しずつその体軀から質量を失っているようだった。

これから何が起きるのか、検討もつかない。

俺はもう、ここから一歩も動けなくなっていた。

途方もない喪失感。

なんの実感も覚悟もないまま、

少女の命を奪ってしまった。


神の領域で、罪の意識だけがドロリと心に残ってしまう。


ここは、あまりにも旅の最期に相応しい。


1人で、死を迎えるのも悪くないのかもしれない。



そう時間が経っていないころ、俺が降りてきた時に使った小型のエレベーターが降りてきた。


翔吾さんが乗っている。


…途中で目覚めて引き返してきたのか


凄まじく逃げ出したい衝動に駆られた。

全て終わらせたはずなのに。


なにが、あった。ここは、なんだ…?

ブラッドイーグルが、消えていく…!

……俺は、


とんでもないことを……

……その銃は?


奴らはどうした…?

全員、死にました

なんだと……!

全員、自分達で、お互いを撃って…

それが最後のやるべきことだからって…

俺は…ゆいちゃんを……あの少女を……


……

…そうか


脱出するぞ

上に行こう!


……

雄二?


翔吾さんは、戻ってください…俺は、もう

っ馬鹿野郎!!!

ぐっ……!!


まだ終わって無ぇ!!

俺はまひるに約束したんだ! おまえを絶対生きて連れて帰るってな!!


……! まひるさんに……


会いたくねーのか、まひるに!!

……会いたい…

会いてーだろ!!

会いたい!!


ならつべこべ言わずに帰るんだよ!!

悩むのはな、帰ってからまひるに言え!!


……はい


翔吾さんに腕を捕まれ、俺は上に帰ることになった。




〜 帰路 〜


それから、長い帰路についた。


地表の研究施設に戻り、救出を待つ間翔吾さんは下でのことをなにも聞かなかった。

ただ、ゆいちゃんは間違いなく死んだとだけを伝えた。


そうか、なら、仇はとれた。それでいい。

そう言っていた。


研究施設にある通信設備を使いSOSを発信すると、どこかの国経由で日本の南極基地に連絡が繋がった。


天候が回復すれば救助に行ける、とのことで施設で数日待つことになった。


世界はいま、大混乱中らしい。


突然、この1週間以内に死んだ人が次々に生き返った、というのだ。

そして、みんな口々にこう言っている。

神の国から帰ってきた、と。



〜 エピローグ 〜


それから、約一か月が過ぎた。

日本に帰ってきて、すぐに俺達は逮捕された。

ハイジャック、自衛隊法違反、国際法違反、テロリスト特別法違反等、数々の重犯罪名が並び、

このままてっきり取り調べや拘置所に移送されるのかと思いきや、結構豪華なホテルに連れて行かれた。

疑問に思っていると、どうも生き返った人たちが全員俺や翔吾さんのことを覚えていて、

神の領域内での出来事から、反対署名が強く出されている、ということだった。……それも世界中から。


おそらく行動に制限はつくものの、恩赦の対象になるだろう、という。

そして、今日やっと外出の許可をもらえた。


今日は、クリスマスイブだ。

主任……もう会社はクビになってしまったので、まひるさんと呼んだほうがいいだろう。まひるさんが家に招待してくれるらしい。

ゆっくりとこれまでの話をして、できればずっと言えなかった大切なことをちゃんと言おうと思う。

今はその待ち合わせをしている際中だ。


園くん!

あ、まひるさん


まひるさんが声をかけて走ってきた。


てっきり感動の再会になると思っていたのに、

なんだか顔が真っ青だ。なんだろう、なにかあったんだろうか。


あれ……!


指を指す方向を見つめる。

大きなビルの外部に備え付けの、大型ディスプレイに視線を向けると、


……なっ!!?


そこには、とても見覚えのある少女に、

とても良く似た笑顔が映し出されていた。


なんで…?


『はーい!! 世界の生き残った悪い人たちの皆さーん! こんにちはー!!⤴︎⤴︎⤴︎


そして画面にはやはり、見覚えのある文字でこう書かれている。


——神様アイドル……!!!



デンジャラス★るいです!! よろしくねー☆


ん★デンジャラス!!⤴︎⤴︎⤴︎ ニコッ!!』


ブツーン…(ディスプレイの切れる音



終わり。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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