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第5章 : カミマチ

〜 上陸 〜


東北自動車道はかなりの渋滞になっていた。

襲撃に備え首都を離れる人、田舎へ向かう人。

仕事で行く人や、変わった人の中では、ブラッドイーグルや神様アイドルのファンで、

撮影目的で襲撃された都市を一目みたいという、あまり褒められた動機では無い人も中にはいるようだった。


休憩がてらサービスエリアに立ち寄った。

食事を済ませガソリンスタンドの列に入る。ガソリンを入れるのも渋滞で一苦労だ。


いまはなんとか岩手に入ったところだ。

今日中に青森に入り、青函トンネルを抜けて北海道に入りたい。

ただ全く車が動かないので、これは少し難しいかもしれない。


俺は日記をつけることにした。

一週間前からの出来事を、思い出す限りノートにまとめていく。

記録を取ると自然と心が整理されていくように感じた。


最期には一応、知り合いや両親に感謝の言葉と、主任と陸佐にメッセージを書いておく。

読まれないにこしたことはないんだけど、本当に一応。念のため。


今日、アメリカとカナダ、ブラジル、ドイツとイギリスが襲撃される。

今の自分にはどうすることもできない。そもそも昨日だって、たまたま自分にできることがあっただけだ。ただの一市民の自分に本来そんなできることがあったことがおかしかった。

しかも結局、止めることはできなかった。

…たった一体のブラッドイーグルに日本とオーストラリアはズタズタに負けた。

複数のブラッドイーグルが同時に襲撃してきた場合、今度こそその都市は火の海にされるだろう。


人間は負ける。


そう、人々が認識した時、世界はどれだけのパニックになるんだろう。

…くそ

その時、主任の近くにいたい。離れるべきじゃなかった。

いや、それはもうどうしようもないことだ。


やれるべきことをやる。そのために進み続ける。

いまはただ、ひたすら我慢の時だ。



〜 北米と南米 / 西欧 強襲 〜


今日は良い天気だなー

そうね

青い海、広い空、青々とした草木達

まったくだわ

まじ爽快な気分だ。神様アイドルになって良かったよ!


バトラは笑って、近くのバチルダに無線でそう呼び掛けた。


…そういうセリフは、もっと爽やかな場所で言うべきだと思うわ


バトラの足元は、言葉とは真逆。瓦礫の焦土が広がっていた。

建物は燃え、空は真っ赤に燃え上がり、

動くもののいなくなった惨劇の世界…


エミュレート・エリミネーター・システムの唯一の欠点だな。人間を殺す時に街までぶっ壊れて二酸化炭素がメチャクチャ出る!!

…そういう割に、あなたガスタンクとかパイプラインを撃ちまくっていたようだけど…?

そらドカン!と一発で済むんだぞ!手っ取り早くて良いじゃんか!

まあ、それもそうね


本当に良い気分だった。なんの制約もなく空を飛び周り、建物を破壊し、無限の弾薬をぶっ放す。

罪の無い人間を直接狙うのはまだためらいがあったが、それはそのうち慣れるだろう。


バトラ、ほんとにアメリカ襲撃じゃなくて良かったの?

ああ? あぁ、…別にいいさ。合衆国に特別な思い入れは無い。それにロシアっ娘があの国に行った方が、思い上がったアメリカ人にはちょうどいいだろうしな!

あまり褒められた考え方じゃないわね。私たちは憎しみを止めるためにこの活動をしているのに。余計怒りを増やしては行けないわ

まぁな!まあそんなの些細なことだ。んじゃ、そろそろドイツに行こうぜー。そのあとゆい達と合流しないといけないしな!

待って、海上にイギリスの艦隊が集結してる。先にそっちを落としましょう。残すと厄介な数だわ。

良い考えだ! さすがドイツ娘は合理的だね!

あなたも、ね


二機は仲良く海上へ向けて飛び立って行った。


さらなる破壊を生むために。遠い未来に悲劇を生まないために。



————


ゆぃゆぃ、

なーにー? リーネちゃん

今日は、その

んー?

バックアップに回ってもらえませんか?

えー? いいよー☆ 闘いたいのー?

はい。これで2回目なので、もっと闘ってみたいです。それに…

それに?

ゆぃゆぃはまだケガが治っていないので、黒羅ちゃんも別の機体で、調整中ですし

あー

なので、今日はわたしが前に出ます

ありがとー☆⤴︎ 超優しいね!リーネちゃん☆

いえ…じゃぁ、行きます!

はーい★!!


リーネちゃんの黒羅が翼を展開した。その下で、

計三対のミサイルポッドが収納から顔を出し、

ミサイルの発射準備をする。その影に隠れて背面中央に一つの棘が頭上に伸び上がってくる。


アメリカの軍事力は世界最大です…、まともに闘えばダメージは免れません…!

…ここは攻防一体のスタイルで闘うべきです


棘から機体の周囲に、エネルギーの膜が生成され機体をすっぽりと覆い始めた。


わーお♡ リーネちゃんは堅実家さんなんだねー

わたしももうちょっとみならわなきゃ⤵︎


続けてゆいちゃんの機体もそれをマネし始めた。

ゆいちゃんの操る機体は昨日の機体とは違い、傷がない。

昨日の機体は南極のアジトで目下再生中なのだ。


昨日は黒羅ちゃんに酷いことしちゃった…⤵︎

ケガが治るまで、違う黒羅ちゃんでおねぇちゃん頑張るから、ゆっくり傷を治してね♡


そして二機は世界最大の軍隊と対峙する。

昨日の続きをするために。



〜 フェリー 〜


青函トンネルは通行止めになっていたため、青森から北海道へはフェリーで渡ることになった。

プリペイド式のスマートフォンを購入し、連絡先を同期して元々使っていたものは潔く処分する。

…新しく変えたばかりだったのに

初期化して知らないトラックの荷台の裏にガムテープで貼り付ける。

充電が切れるまでは偽の居場所を発信してくれる。少しの間、居場所のカムフラージュになるかもしれない。


ラジオのニュースにドイツとアメリカが攻撃を受けている、と速報が入ってきた。機体は4機確認されているようだ。

夢で見た光景ではアジトの機体は十数体。

このままどんどん増えるのか、それとも予備が用意されているだけなのか…


向かう先は北海道で入院している霧島主任のお兄さんの病院。手紙を渡し、米崎さんの伝言を伝えなければならない。


最低でもそれまでは捕まるわけにはいかない。



〜 病院 〜


フェリーを降り、またしばらく走る。札幌市にある自衛隊病院に向かった。

駐屯地に入り受け付けで翔吾さんの名前を伝え、父親からの手紙を渡したい旨を伝えるとすんなりと病院の場所と病室を教えてくれた。


六人部屋の一番奥、窓際に翔吾さんのベッドがあった。

翔吾さんは窓の外を見つめ、その横顔は霧島主任にそっくりだった。


失礼、します 

俺は、霧島まひるさんの部下で、東京からきました。園山雄二といいます。

…ああ、

その、お父さんからの手紙を、預かってきました

そこに、置いておいてくれ

…はい


…まだ、なにかあるのか?

…その、無事で、よかったです…

無事なもんか


———この人は、部隊の仲間を失ってる。たぶん、責任を感じてしまってるんだろう…


俺から、米崎さんの伝言を伝えていいか迷う

伝えるべきなんだろうけど、俺からでいいのか


…すまんな、いつもはもうちょっと愛想良くできるんだが、いまは、ちょっとな


…いえ、出撃したときのこと、聞いています、東京の駐屯地にいましたから

…そうか

あの、駐屯地にいた米崎さんのお兄さんから、伝言があります

…っ!

…こういうことは、良くあることだから、弟も覚悟して出撃してる。だから翔吾くんは、なにも責任を感じる必要はない。と

では、失礼します

…待て


…ちょっと、付き合わないか?

、はい


〜 病院の屋上 〜


翔吾さんは両足をねんざしていたため車イスに乗っていた。


この人は、あの黒い戦闘機と直接交戦してきた。

攻撃し、反撃を受け、脱出はギリギリで生き残って帰ってくることができたけど、

多くの戦闘に出た人は帰ってこられなかった。

それほど、あのブラッドイーグルは強かった。


米崎は、…気の良いやつでな、良くバカなことを一緒にやった

はい

隊の他の奴らも、バカばっかりだったが、最高の奴らだった

俺だけが、生き残って…


…陸佐と米崎さんのお兄さんが、あのブラッドイーグルに直接銃弾を打ち込みました。

仇だと、叫びながら。

悪いのはあの黒い戦闘機です、翔吾さんはなにも悪くない!

おまえになにがわかる

俺たちは、闘うために出撃したんじゃない

ミサイルも、機関砲もまったく効かなかった

あんなのは闘いじゃない…


初めに、気付くべきだった。そうすれば…、皆死なせずに済んだのに…


絶対に、絶対にやつを許さない…

次は必ず、奴らを堕としてやる…


くやしさから、翔吾さんは人知れず泣いている。


翔吾さん

俺、実は指名手配、されたんです

?! なに?

いろいろあって、霧島陸佐が東京から逃してくれたんです

どういうことだ?

その、俺、

あいつらのアジトの場所を知ってます

意味がわからない

はい…、話すと長いんですが———


———

予知夢、か… そこまで的中してるなら、

そういうこともあるのかもな


これから、三郷空佐に話をして、信じてもらえるかわかりませんが、なんとかそこに行こうと思います


どうやっていくか検討もつかないな


はい…


よし、下で、ちょっと待ってろ

俺も一緒に空佐のところへ行こう

え? でも

まぁいいからいいから! どうせ敷地内だから、

道もわからんだろう?

まぁ…


ケガしてるのにじっとしてなくていいんですか?

といっても聞きそうにない勢いだな…

俺は翔吾さんの車イスを押し、駐屯地内の病院から、北方支部の司令所へと向かった。



〜 北方・司令室 〜


失礼しまーす

翔吾さんが軽い感じで室内に声をかける。

部外者が入ってしまっていいんだろうか、しかも俺、指名手配されてるんですけど…

でも翔吾さんはまったくそんなこと気にしていない。

そういえば主任が、兄はあんまり細かいことは気にしないタイプだ、と言っていた。

勢いに任せて入る翔吾さんについて室内にはいる。

北海道はどこもかしこも部屋が広い。東京の駐屯地とは大違いだ。


…霧島空尉、君はケガの治療中だろう

いやー、外の空気を吸うついでに、空佐の顔が見たくなって。あとこいつが空佐に会いたいっていうから案内をね

まったく…

それで、きみは霧島陸佐の言っていた例の者か?


三郷空佐は女性の方だった。

かなり厳しそうな表情をしている。


はい、自分は園山雄二といいます。その、

子細は不要だ、事情は知っている


俺は陸佐からの手紙を差し出した。

空佐はそれを開封し、内容を読む。


…ふーむ。しばらくきみを匿ってくれ、か。

陸佐は相当君を気に入っているようだな

へえ、あの親父がね…


そうだな、うちは構わん。ちょうど人手不足で手が足りん。

車は運転できるか? ボーっとしているのもひまだろう。ちょっと働いていけ


それは、もう。置いていただけるならなんでもします

いい心掛けだ

ただ、

ただ?

お願いがあります

なんだ?

その、

こいつは南極に行きたいらしいですぜ

南極?なぜだ

そこに

…奴らのアジトがあります



〜 思案 〜


なるほど、あの化け物の巣か

俺はこいつの話を信じるぜ

オヤジが信用して、こいつの話を聞いたから東京は火の海にならずに済んだんだ

だがな、南極とはな…。簡単には行けん

俺はまったく詳しくないんでわからないんですが、やはりかなり難しいんでしょうか

…かなり難しい。まず距離が遠い。さらにいろんな条約があってな。勝手に飛べば行けるような場所ではない。

なんとかならねーのか?

…うーむ


まぁ、今日は長旅で疲れただろう。とりあえず部屋を用意させるから、そこで休め。

霧島も、おまえはケガをさっさと直せ

もう治ったよ

翔吾さんが立とうとするので座らせる。

雄二!てめぇ!

え?もう呼び捨て?まだ出会って一時間も経ってないんですけど!?


この件は私がなんとかしよう。

君たちは数日の間、待っていてくれ

以上


俺は礼を言って翔吾さんと部屋を出た。

翔吾さん曰く、あの人は親父と違って頭が柔らかいからなんとかすると言ったらなんとかしてくれる、とのことだった。


翔吾さんを病院へ送り、宿舎へ行く。


とりあえず、ここまではこれた。

ここまでは。



〜 北方駐屯地 〜


しばらくは基地の仕事を手伝って過ごした。

自衛隊の仕事はかなり厳しかった。

ずっとデスクワークだったせいで身体が悲鳴をあげている。

ただ隊は先の戦闘でケガ人が多く出ていて、仕事が山のようにあり、自分もいちいち悩む暇が無くちょうど良かった。

夕方ら仕事が終わると翔吾さんがちょくちょく病院を抜け出して遊びにきた。

あと数日で退院して歩けるようになるそうだ。

ゆいちゃんの動画を教えていいものか迷ったが、URLを教えた。

翔吾さんはかなり熱心に動画を見ていた。

敵。

翔吾さんにとっては憎むべき敵だ。

闘いになった時、ちょっとでも倒すヒントを探しているんだろう。

銀座の闘いのことも熱心に聞かれた。

米崎さんの対物ライフルで風防を割り、その後少女がケガをしていたこと、オーストラリアではブラッドイーグルがボロボロになり、基地についたときには機能停止寸前にまで追い詰められていたことも伝えた。

翔吾さんは普段軽い感じだが、戦闘に関してはやはりプロなんだと感じる。


ゆいちゃんは新しい動画をUPしていた。

ドイツ、イギリス。アメリカとカナダ、ブラジルの各都市は火の海にされ、現在も鎮火していない。


その後インド、中東を強襲したりアフリカを攻撃したり、ますますやりたい放題になっている。


できれば今すぐ南極に行きたいが、方法も、南極に行った後どうするのかも考え付かない。


全ては三郷空佐の、なんとかする。の言葉を信じて待つしかない。



〜 夜 〜


この日、翔吾さんが退院したので、宿舎で退院祝いがてら一緒に食事をとることになっていた。

その時、妹の主任の話になった。

まひるは昔から性格がキツく、オヤジや自分と何度もケンカしていること。性格がキツすぎて彼氏がまったくできないとすごく嘆いていた。

なんとなく複雑な気分だ。

そんなことを話していると1人の隊員の方がやってきて、空佐が呼んでいる、と教えてくれた。

俺たちは食堂を後にし、空佐の部屋へ向かうことになった。



〜 空佐の部屋 〜


さて、きてもらって早々で悪いが、君たち2人に任務だ

任務…、ですか?

この後に及んで、俺、部外者なんですけど、とは言わない。


空佐は続ける。


早朝、沖縄の基地に飛んでもらいたい

ルートはこれだ。表向きは物資の輸送ということになっている。物資とはもちろん、君のことだ

はい


俺も行っていいんですか?

あぁ、別に行きたくなければいかなくてもいいが?

いや行きます、行かしてください!

結構。沖縄に着いたら現地で研究物資を受け取れ。南極の研究基地に輸送する物資だ。

本来なら時期が違うが無理やり依頼している。ありがた迷惑、とは思われんだろうが不審がられたかもな

ありがとうございます


園山…

はい?

公安が嗅ぎ回っている

おまえは連邦捜査局から正式に国際指名手配を受けた。

沖縄に着いても気を抜くなよ。

はい! 何から何までありがとうございます!

南極は寒い。防寒装備を持っていけ。以上だ


礼を行って部屋を出た。

空佐は翔吾さんとまだ話があるそうで、先に部屋へ帰ることにする。


いよいよ、いよいよだ…。



〜 早朝 〜


先に翔吾さんが飛行場へ来ていた。

少し複雑な顔をしている。

あぁ、そうか。ここは翔吾さんの持ち場だから、

いろいろ、思うところがあるに決まってる。


こっちに気付くと手を振って呼んでくれた。

パイロットに紹介しよう。

あと手続きがあるから来てくれ


出発は30分後だ。トイレに行って準備しとけ

酔い止め薬はいるか?

いえ、乗り物には強い方なんで、大丈夫です

そうか、なら安心だな


輸送機は小さい小型のジェット機だった。翔吾さんの隣に座る。


沖縄で乗り換える

そこからはこいつみたいに良い乗り心地じゃないぜ

はい


昨日、空佐がおまえを逮捕しろと言ってきた

え!?

公安に引き渡して手打ちにしろ、とな

…そうだったんですか

初めて上官に逆らったよ

っ!

いや、初めてじゃないな。何回目かな

…どうして、庇ってくれたんですか

妹がな、電話してきてな

主任、まひるさんですね

おまえと今一緒にいるって言ったら泣き出してな

おまえを助けてくれ言うんだよな

あいつが俺に頼み事なんて普通しないんだよ、一回も無い

たぶん、あれだな、惚れ…

まぁ、妹の頼みじゃあなぁ

空佐は、良く俺を見逃しましたね

いや、たぶんあれは本気じゃなかった。立場上、一応な

命令は出したが、そむかれたってことにしたかったんだと思う

なるほど、でもそれじゃあ翔吾さんが…

言ったろ、妹は泣かせられんってな

これで俺たちは共犯者だ。もう後には引けん

絶対に奴の元まで行くぞ

…はい!


飛行機は出発する。

それぞれの覚悟を乗せて。

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