プロローグ
今まで書きたかった自由な旅を主人公に送ってもらいます。この作品のテーマはスローなので、ゆっくりと楽しんで下さい。
俺は、カルブ会社に勤めている鈴木慶吾だ。
「おはようございまーす」
朝、先輩が出勤してきた。
「慶吾くーん。俺の仕事はちゃんとやってるかい?」
何故先輩がそんな事を言うのかというと、俺はブラック企業に就職してしまった。幾度もやめようとは思ったが、辞表を持っていくと、門前払いされてしまうのだ。そして、五年の月日が流れてしまった。
俺は昨日から、いや、忘れたがもっと前から家には帰っていない。
「は、はい。これ、先輩が今日の午前中までにやる仕事です」
「お、サンキュー」
それからも、先輩や上司、同期や後輩が出勤しては、同じような会話を繰り返していた。
そして、お昼頃になり昼休憩に入ろうとした時、立ち上がった瞬間目の前が真っ暗に染まり、意識が消えた。
◇
そして、慶吾は意識が覚醒した。
「ここは、どこだ?」
そこは、何もない真っ白な空間だった。地面もなくふわふわと浮いている。
『ここは、時空の狭間です』
何処からか女性の声がした。
「時空の狭間? 何を言っているんだ? ここは地球じゃないのか!? てか、お前は誰だ!!」
俺は、パニック状態に陥り、何も考えられなくなった。
『そんなパニック状態では、私の話は聞き入れてくれないでしょう。少し待っていますので、ゆっくりとこの現状を飲み込んでください』
そう言って、女性の声は聞こえなくなった。その間も俺は、ブツブツと何が起こっているのかを理解しようとしていた。
「ここが、時空の狭間? 俺は死んだのか? ここは地球じゃない。そうだ、俺は死んだんだ」
そして、数時間後やっと立ち直った。
『落ち着いたようですね』
それを見ていたそいつは再び現れた。
「あの、君は誰ですか?」
『私は女神です』
「女神、女神か〜。てことは、女神様ってお呼びした方がよろしいですか?」
『呼びやすい名前で良いですよ』
「それでは、女神様。俺は死んだんですか?」
『はい。貴方は過労死で死んでしまいました』
「……そう、ですか」
俺はそこでやっと死んだ事実を飲み込んだ。
「それで、俺はこれからどうなるのですか? 天国か、地獄に行くのでしょうか?」
『天国は存在しませんし、地獄には行きません』
「では、どうするんですか?」
『貴方には、異世界に行ってもらいます』
「異世界、ですか」
俺はその言葉に少しの高揚感を感じていた。俺はオタクだったので、某小説アプリやサイトで異世界転生、転移系の小説をいくつも読んでいたのだ。
『もちろん、ただで行かせるつもりはありません。貴方の願いを五つ叶えましょう』
「五つですか!?」
俺は、その量にびっくりした。せいぜい二つぐらいかなぁ、と思っていたからだ。
『時間はたっぷりあるので、考えまくってください』
それから、何日、何ヶ月、何年経ったかわからなかったが、決まった。
「女神様。決まりました」
『待ちくたびれました。一体何十年待ったと思うんですか!?』
「え? そんなに待ったんですか?」
『そうですよ! 二十年までは数えましたよ! それ以上は数えてません!』
女神様の声は少し怒っているようだ。
「すみません。これからの人生に大切なものを考えていたので」
『そうですか。で、何にしたんですか?』
「はい。えっとそれの前に、その世界には魔法と剣があるんですよね?」
『はい、その通りです』
「奴隷もいるんですよね?」
『はい』
「では、[強い部類の戦いが出来る奴隷を買えるお金][地球産の壊れず錆びないサバイバルキット][自己修復、自己消臭、自己洗浄付きの服][少し多めの魔力][Q&A]の五つをお願いします」
『はーい』
女神様はそう言って指を振る。すると、俺の身体を色々な光が包み込む。俺は、目の前でそれが起きているのに眩しさは微塵も感じなかった。それどころか、暖かさを感じていた。
『これで、貴方の願いは叶いました。おまけで健康な肉体と言語理解も付けましたので、有効活用してください』
「女神様。ありがとうございました!」
『では、そろそろ旅立ちの時です。異世界でいい人生であることを上から見守っています』
女神様はその言葉と同時に、俺を異世界へ飛ばした。
◇
俺は、草原の中心に転移させられたようだ。なんたって、見渡す限り、緑の大地なのだから。