まあい編
この物語はフィクションです
僕にはあと一人、倒さなきゃいけない音操がいる。
まあい。音操の頂点に立つ者。
彼女の演奏記号はfff。
とにかく、強い。その力は全てを破壊し、無に還す。
「どちら様でしょうか?」
使用人らしき人が声をかけてくる。
ようやくだ。やっと着いた。
ここは彼女の住む場所。豪邸だ。
「まあいを殺しに来た、この物語を正す者さ」
使用人達は一斉に銃を構える。
ゆきのが持っていたそれよりも、遥かに大きい銃だ。
しかし、どちらにせよ今の僕の相手ではない。
僕は抑えていた気を、一気に爆発させる。
「撃てーッ!」
一斉射撃。
「無駄なことを…」
迫る弾丸も、使用人も、みんなまとめて引き裂いた。
僕は先を急ぐ。
「待ってたよ。来ると思ってた」
ここは最上階。
彼女は王座に座りながら僕を待ち構えていた。
「その顔は、全てを思い出したんだね」
彼女は微笑む。
僕の演奏記号を知っていてもなお、笑う余裕があるというのか。
少し間を置いてから、彼女が立ち上がる。
とても力があるとは思えない、華奢な体付きをしている。
なんだ、この程度か。すぐに終わらせてやる。
僕は全ての気を集中させ、彼女へと走り出す。
「あんまり舐めないでくれるかな?」
突然の言葉に、思わず足が止まる。
彼女から凄まじい殺気が発せられた。
「みんな、壊れちゃえばいいのになあ」
空気が変わった。
彼女の体が見る見る盛り上がっていく。
溢れんばかりの筋肉が、居場所を求めて彼女の服を内側から引き裂いていく。
「全テ、破壊スル…」
見開いた目は焦点が合っていなかった。
最終的に、大きさは僕の三倍以上へと達した。
僕は、思わず後ずさる。
僕は、使命を果たさなきゃいけない。
僕には、この演奏記号がある。
もう一度覚悟を決めると、僕は彼女に向かって突っ走る。
しかし、同時に彼女も走り出す。
彼女が地に足を付ける度に鳴り響く地響きの音。
それが、力の差を物語っていた。
あっという間だった。
僕は彼女の巨大な拳に吹っ飛ばされて、後ろの壁にのめり込んだ。
血を吐いた。
力を得てから、初めて流した血だ。
そんなことを考えているうちに、彼女は目の前に立っていた。
彼女の拳は止まらない。
何度も、何度も、殴られる。
壁はもう、ヒビだらけだ。
そして、さらに強烈な一撃が叩き込まれる。
その衝撃は壁をも砕き、さらに吹っ飛ばされた僕は、外にある森の中へと吸い込まれた。
「哀れだねぇ。終わるのはお前自身だよ」
視界の隅に、まあいがいた。
いつの間にか、始めの華奢な体付きに戻っている。
「私の物語にお前は必要ないの。返品していい?」
彼女は両手を上げる。
すると、得体の知れない空間が青空を飲み込み始めた。
…ブラックホールだ。
徐々に周りの木々が吸い込まれ始める。
僕の体も、もうじき浮き始めるだろう。
僕はもう、限界だ。
流す涙すら、残ってはいなかった。
これで、終わりか…。
その時、まあいの様子が変わった。
彼女は突然頭を抱え始める。
「ちんぽを見せろ!まさゆき!」
懐かしい声が聞こえた。
誰かが僕に手を差し伸べている。
…まりなだ。
「お前、殺したはずじゃ!」
まりなは笑い出した。
「お前馬鹿なの?私の演奏記号で自らやられる訳ないじゃん!」
…そういえば、そうだな。
心の片隅にあったモヤモヤが消えていく。
「私はお前の記憶を書き換えただけ。他の音操にバレないように、私が殺された事にしてたの」
そう、だったのか…。
しかし、分からない事が一つ残っている。
「どうして、僕なんかを…」
まりなは微笑んだまま答える。
「そりゃあ、ちんぽ見せてもらうまでは死んでもらっちゃ困るからね~」
相変わらずだ。僕の知っているまりなが、ここにいる。
そして、僅かに残る不協和音に今、終止符を打つ!
まあいは未だに頭を抱えていた。
きっと、ろくでもない偽りの記憶に心を蝕まれているのだろう。
「これで、終わりだ!」
僕の気は彼女の華奢な体にも容赦なく牙を剥いた。
ボロボロに引き裂かれた彼女は、自らが生み出したブラックホールに虚しく吸い込まれていく。
そして、彼女が飲み込まれると、それは音もなく消え去った。
それから数日が過ぎた。
「ねえ、ちんぽ見せてよ」
まりなからの通話に出ると、相変わらずこのような言葉を投げかけられる。
いつも通りの会話。いつもと変わらない日常。
僕の人生の不協和音は、その幕を閉じた。




