ササクレ
◆
校舎のロビーには人だかりができていた。どの人も、ピッカピカの一年生って感じの着慣れていない制服や上履きを着用している。
張り紙を見る。ええと、わたしは何組だろう……?
人ごみを掻き分けて、張り紙を見る。ぎゅうぎゅうのなか、背の小さいわたしは背伸びして見ることは出来ない。逆に身を屈めて最前列に出ることにした。
そこまで苦労せず、逆に言えばちょっとだけ苦労して、自分のクラスを把握することができた。とぼとぼと人の渦から離れていく。
「はぁ……」
英華もガッカリした様子で出てきて、こっちに来た。
「……」
「……」
「……クラス、違ったね」
わたしは三組。英華は五組。
まあ。同じクラスになれる確率なんてのはそう高くはない。
今から来年のクラス替えを考えてしまう。
「ま。しょげてても仕方ないね。一年先の話を考えるのもちょっとネガティブすぎるし」
うぐぅ。
英華、わたしの思考を読み取ってるんじゃないだろうな。まさかESP能力者はこんな近くにいたのか……
「ほら眞白! そんなに落ち込まない! 新しい出会いもそう悪いものじゃないって」
さすがポジティブ。ネガティブ属性のわたしとは違うなー。
「あなたね、いつまでそうしてるのよ。前見なさい」
掲示板の人だかりはもういなくなっていて、ロビーにはいるのは、気が付けばわたしたちだけになっていた。
「げ。ヤバ」
さすがに初日から遅刻して先生の心証を最悪にしたくはない。それが鬼教師とかだったらなおさらだ。
「じゃ、英華また後で!」
「ましろー! 校門で待ってるからねー!」
うん。と頷いてそれぞれの教室に向かう。
◆
入学から三週間。
英華とは近況をよく話し合う。あの先生はカッコいいよね、とか、数学の授業が難しい、とか、他愛ない話は尽きることを知らない。
チャイムが鳴り、待ち遠しかったお昼休みの時間が来た。
いつものように英華のいる五組に向かう。
そして彼女を呼ぶが、その反応はいつもと違う。
ぴょこん、と小さな影が一つ、余分に現われた。
「えっと。誰?」
茶色いショートヘアがぴょんちょんする動きに合わせて揺れる。わたしの周りを囲むようにぐるぐる動き回っている。
「アタシ、姫乃森鼎って言います! 眞白さんですよね! よろしくお願いします」
「あ。どうも……」
どういうことなの。というか、助けて。と英華に目配せする。
英華も若干困ったようにぽりぽりと頭を掻いていた。
「うちのクラス、入学式のときに座った適当な席順のままだって話をしたよね。鼎は私の目の前でね」
なるほど。それで仲良くなった――と。
経緯はわかった。
邪険にするわけにもいかないし、英華の親友として『らしい』態度をしたい。
「よろしくね。鼎さん」
そんなわけで、二人きりのお昼休憩の時間は、一人増えて三人になった。
ちょっと複雑だけど、まあ、賑やかなのも悪くないかな。
◆
あの日からの下校は、いつも三人だ。
不快ではないのだが、わたしの心にはササクレのような引っ掛かりができるようになってしまった。
……原因はわかっている。鼎さんだ。
でも彼女が悪いわけじゃない。むしろ原因はわたしにある。
「眞白。大丈夫?」
英華が心配そうな表情をしてわたしの顔を覗き込む。その目に、わたしの醜い心は見透かされているような気がしてしまう。
「うん。大丈夫だよ」
「そう……?」
ああ。自分の気持ちがよくわかった。
要するに、異物が混じったような状態が気に食わないのだ。
でもそれは――本当に異物なのは――どちらなのだろうか?
新しい環境には新しい出会いが付き物だ。
だから英華と鼎の行動は正しい。そして間違っているのはわたしだけだ。
でも間違いを間違いのままにしておくわけにはきっといかない。
だからわたしも、いつかは適応しなくちゃいけないんだ。
鼎がさきに別れた、わたしと英華の二人きりになる。
そうなるとよくわからない苛立ちはフッと影をひそめるのだった。
「あの、眞白。なんかごめんね……」
「あー……いや。英華が悪いわけじゃなくてさ」
といって鼎が悪いわけでもない。
「全面的にわたしが悪い!」
ようし。わたしも覚悟を決めた。
「英華。すぐ解決するから、だから、心配しないで」
「うん。じゃあ心配しない」
英華は笑う。久しぶりに
といっても、自分ひとりじゃどうにも解決できそうにないのが正直なところ。
荒療治だけどしょうがない。
英華と別れたあと、さっそく実行する。
スマホでアプリを起動して、鼎に連絡を飛ばす。
『今度の土曜日、遊びに行きましょう』
そういう文言で送った。あっさりオッケーを貰うことができて、彼女と遊ぶことになった。
遊び……? いや、これは決闘だ。