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東京エルフ!  作者: 南野 雪花
エルフが街にやってきた!
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エルフが街にやってきた! 5


 ファストフードで腹ごしらえをして悠人の自宅へと向かった。

 千代田(ちよだ)区は神田(かんだ)

 ビジネス街と古くからの住宅街が混在する、わりとカオスな場所に高槻家はある。

 自宅なのにチャイムを鳴らす。

 少年としては緊張の瞬間だ。

 一人旅に出かけて、女連れで戻ってきた。

 なかなかに壮絶な状況といえるだろう。

 でかした息子よ! と、思う親はいるのかもしれないが、たぶんそれは少数派だろう。

 出迎える両親。

 専業主婦の母親はともかくとして、父親まで在宅なのは休みだったのだろうか。

 夏休みを満喫中の高校生には、親の勤務形態の把握はハードルが高いらしい。

「ただいま。えっと……紹介したい人がいるっていうか……付き合ってるっていうか……将来的には結婚したい人がいるんだけど……」

 居間に移動し、しどろもどろになりながら、説得をはじめる。

 かなりダメな感じである。

 くわっと目を見開いた父親。

 怒鳴られる、と、悠人は首をすくめた。

「でかした! 息子よ!!」

 なんと父親は少数派のほうでした!

 カメみたいに首をすくめた姿勢のまま、少年がずるっとこける。

 器用なことであった。

「いやいやっ! 何言ってるんだよっ! 父さん!」

どえらいべっぴん(スタナー)じゃないか。どっから探してきたんだよ。羨ましいぞ」

「女房のいる前で他の女を褒めるとか、何考えてんだろうね。この宿六(やどろく)は」

 半眼で父親を睨む母親。

「はうぁっ!?」

 なんだこの絵図ってくらいの、ぐっだぐだな空気である。

 大きくため息を吐いたウパシノンノがおもむろに口を開いた。

「おちつけ。そなたら」




 なし崩し的に、悠人とウパシノンノの交際は認められた。

 ついでに、彼女が高槻家に住む許可までもらえた。

「謎すぎる……」

 頭を抱える悠人であった。

 自室である。

 六畳のスペースに、机とベット、そして本棚が置かれている。ありていにいって平凡な部屋だ。

「そうか? べつに複雑な状況とは思わぬがな」

 ベッドに腰掛けたウパシノンノが勢いよく足を組んだ。

「そうなのかい?」

 一方の悠人は椅子に座っている。

 もちろんふたりの居室は別である。エルフにはさしあたり客間が与えられた。

「ご両親はそなたを信用しているのだよ」

「うん?」

「でなければ、大事な息子の一人旅など認めるわけがない」

 分別があって、無軌道な行動もとらないし、危険な場所にも近寄らない。

 その信頼があればこそ、悠人の旅を認めた。

「……さーせん」

「私に謝ってどうする」

 エルフ会いたさで旅に出て、遭難しかけました。

 信頼裏切りまくりである。

「その可愛い一人息子の眼鏡にかなった女だ。ご両親としても、まずは様子を見るといったところだろうな」

 ぬけぬけと自分を指さしたりして。

「様子見?」

「試用期間のようなものだろう。この間に、私はご両親に気に入られなくてはならないというわけだ」

「僕はてっきりのんのんが何かしたのかと思ったよ」

 彼女の能力が認識阻害だけとは思えない。

 幻想種族である。

 ぶっちゃけ、魔法とか使えたってなんにも不思議ではないのだ。

「それを考えなかったといえば嘘になるがな。精神の精霊に働きかける魔法は存在するし、私も使える。だが、知己やそうなろうとしている者に使う類の魔法ではないだろう」

「うん。そうだね」

 精神を操って仲良くなる。

 たしかに(いびつ)すぎるような気がする。

「私としても、そなたのご両親には素のままの自分で気に入られたいと思っている」

「でも、エルフだってことは?」

 いまのところ、悠人の両親はウパシノンノのことを人間だと思っているだろう。

 彼女が自分から口にしない限り、尖った耳はまったく気にならない。

 おそらく外国人の美少女、くらいにしか認識していないのではないか。

「おりを見て説明せねばならんだろうな」

「パニックになりそうだけどねー」

「けっこういるのだがな。人間社会にも」

「は?」

 間の抜けた声を出す悠人。

 いまウパシノンノはなんと言った?

「人間以外の者たちも、それなりの数が人間社会に溶け込んでいる。役者やタレントをやっている者もいると聞いたことがあるぞ」

「マジで!?」

「地球上に無数に存在する亜人や獣人の伝説。それらがすべて嘘なわけではないと仮定して考えてみると良い」

 かつては普通に存在したエルフやドワーフ。

 滅ぼされたという記述は、どんな史書にも載っていない。

 であれば、そんなものは最初からいなかったか、あるいは人間の目に触れなくなったか。

「現在では前者が主流の考え方だな。いないものを滅ぼせるはずがない。ゆえに亜人など最初から存在していないのだ、と」

「なんてこった……」

「私たちとしては、その方が有り難いのも事実なのだよ。悠人」

 ウパシノンノの顔に浮かぶ苦笑。

 知られれば探られる。

 探られれば狩られる。

 争いを避けるため、彼らは身を隠した。

「のんのん……」

 何か気の利いた言葉をかけようとしても、悠人の脳細胞は適切な台詞をひねり出してはくれなかった。

 知恵なき身の哀しさ、というよりも年齢的な限界だろう。

 わずか十七年しか生きていない少年に、数千年を(けみ)するエルフの心情を推し量ることなど、どだい無理な相談である。

 くすりと笑うウパシノンノ。

「そなたが気に病むことではないよ。私を含め案外現状を楽しんでいる者も多いしな」

 冗談めかして言って、部屋の一角を指さす。

「ところで、さっきから気になっていたいたのだが、あれはもしかして」

「ん? ああ、テレビだよ」

 指先を視線で追い、悠人が解説する。

 鎮座(ちんざ)ましましているのは、22型の薄型テレビ。

 けっして大型とはいえないが、個室に置くのならこんなものだろう。

「やはりそうか。すごいな。こんなに薄いものが作られていたとは」

 しきりに感心するエルフ。

 彼女の家にあったのは、三十年くらい前の箱形テレビである。

「見て良いか?」

「もちろん」

 悠人がリモコンを手渡した。

「使い方わかる?」

「馬鹿にするな。私のテレビだってリモコンくらいあった」

 本体側で操作をおこなったのは、ウパシノンノのテレビよりさらに十年以上昔の話だ。

 憤慨しつつテレビを付ける。

「チャンネル数が多いな。さすが東京だ」

「北海道は少ないんだっけ?」

「民放が五局と公共放送が二局だ」

「ほとんど変わらないじゃないか」

 民放の数がひとつ多いだけである。

 ぱちぱちとチャンネルをいじっていたウパシノンノだったが、ふとあるチャンネルで手を止めた。

「ほら。出ているぞ。悠人」

「ん? なにが?」

 椅子を移動させて画面を覗き込む。

 映っていたのは、変な格好の二人組。

 どうやらニュース番組らしい。

 今年の一月に沖縄(おきなわ)に登場したヒーローだ。

 なんというか、まるっきり特撮ヒーローのように弱きを助け強きをくじく人たちである。

 珍走団をとっちめたりとか、政治業者の不正を暴いたりとか。

 活躍のほどは、悠人でもそれなりには知っている。

「マスク・ド・ドワーヴンじゃないか。これがどうかしたの?」

「ドワーフだよ。女の方は生粋だな。男はなにやら混ざっているくさいが」

 ふんとウパシノンノが鼻を鳴らす。

 べつに解説などしたくない、と、全身で語っているような雰囲気だ。

「まじかぁ。ドワーフも実在すんのか……」

「私たちがいるのだ。ヤツらがいてもなんら不思議なことではないだろうよ」

「つーか、なんで嫌そうなの? ドワーフ嫌い?」

 往年のファンタジー作品では、エルフとドワーフは仲が悪いとされることが多い。

 太古の昔に戦争をしたとかなんとか。

「三千年も昔の話だ。いろいろあったが、いまは良き隣人だよ。隣人を選ぶことはできぬのだから、ケンカするよりは仲良くする方がマシだろうよ」

「そんな嫌そうに弁護しなくても……」

「あぁん?」

「あ、いえ。さーせん。なんかさーせん」

 じろりと睨まれ、ヒクツに揉み手などをする少年だった。



はらくろ先生。

出演許可ありがとうございます!


参考資料

ドワーフ娘が嫁に来た ~改造人間じゃなく、ドワーフになった俺~

参照URL

http://ncode.syosetu.com/n9474ec/

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