東京人外魔境 3
「げ、とはずいぶんな挨拶だな。不本意ながら助太刀する」
面白くもなさそうな顔で宣言したウパシノンノ。
変なポーズをとる。
認識阻害が解け、左手に構えた短弓が露わになる。
つがえる矢は二本。
躊躇なく放たれる。
普通はこんな射ち方をして当たるわけがないが、真っ直ぐ魔法少女へと飛んだ矢が、大きく軌道を変え野戦服どもの胸に吸い込まれた。
悲鳴すらあげずに倒れる男が二人。
「……いま、あたいを狙ったな? エルフ女」
「そんなことはないぞ。ドワーフ娘。それに当たったところで死にはしない。麻痺毒が塗ってあるからな」
「戦場で麻痺したら死ぬだけじゃないか」
ふんと鼻を鳴らす魔法少女。
「そもそもそなたらに効果があるとも思えぬがな」
言い合いながら、あるいは敵を殴り倒し、射倒している。
息が合っているんだかいないんだか、良く判らないコンビプレイだ。
たとえば魔法少女は、敵がウパシノンノの方向に飛んでいくように吹き飛ばすし、ウパシノンノはわざと魔法少女をかすめるように矢を放つ。
なんというか、互いしか目に入っていない感じだ。
『おまえらいい加減にしろ!!』
同時に叫ぶ、マスク・ド・ドワーヴンとのどか。
中距離攻撃の二人がお馬鹿な戦い方をするせいで、最前線のふたりは戦いにくいったらない。
思わぬ方向から矢が飛んでくるわ、魔法が飛んでくるわ、敵が飛んでくるわ。
死角を作らないために、いつの間にかふたりで背中合わせになってるようなありさまだ。
「わたしの相方がすまんね。マスク・ド・ドワーヴン」
「こっちこそすまん。普段はあそこまでエキセントリックなやつじゃないんだが」
「エルフとドワーフが相性悪いってホントだったんだねぇ」
「まったくだ」
苦笑を浮かべ、またも同時に飛び出す。
褐色のプロテクタアーマーをまとった仮面男と猫耳を生やした妖艶な美女。
豪腕が唸り、繊手が閃き、数倍を数える野戦服どもを圧倒する。
あたかも舞踏のように。
鳴り響く無骨な銃声すら、BGMにして。
そして、後列から降り注ぐ魔法が強力にバックアップする。
「追尾光弾!!」
魔法少女の放つ攻撃魔法が、不規則な軌道で敵を追尾し打ち倒してゆく。
「友なる眠りの精霊よ。彼らにひとときの安らぎを」
撃ち漏らしは、次々とウパシノンノが眠らせる。
じつに的確な援護だ。
どうやら後ろのふたりは一次休戦したらしい。
そう考えたマスク・ド・ドワーヴンとのどかであったが、残念ながらそれは早計であった。
「さすがはドワーフだな。魔法も力業か」
「は。そっちこそ技巧にばっかり走るエルフらしい魔法じゃないか」
嫌味合戦とか始めてるし。
『うるせえ! 黙って戦えっ!!』
ふたたび男女の声がユニゾンした。
こっちの方は連携ばっちりである。
ビルの制圧に時間はかからなかった。
なにしろ人間レーダーのようなウパシノンノがいる。
どこに敵が集結しているか、どこを突かれるのが一番困るか、まるっとお見通しなのだ。
「まあ、こちらに聞かれていることを計算に入れて嘘情報を流す、という手もあるのだがな。聞いても理解できない暗号を使うという方法もあるし、いずれにしても私の魔法などは、何度か戦えばタネが知れてしまう程度のしろものだ」
「ゆーて、一発目じゃ気付くわけがないからね。だからのんのんは初見殺しって嫌われるのさ」
とくにダメージを負うことなく篠崎狐を救出し、あらためてマスク・ド・ドワーヴンから謝意を示されたウパシノンノとのどかである。
なんというか、プロテクタアーマーのヒーローも魔法少女も、けっこう銃弾を浴びていたはずだが、元気いっぱいだ。
「まあ、ドワーフの筋肉を二二口径程度の弾丸で貫けるわけがないがな。頑丈だから。とにかくこいつら頑丈だから」
「はぁ? あんたらがひ弱なだけでしょ! ちょっと蹴ったらがっつり飛んでっちゃうあんたらは、ちまちま弓で攻撃するのがお似合いなんだよ!」
また侃々諤々と言い合っているエルフ女とドワーフ娘。
諦めきった顔で、のどかとヒーローが肩をすくめた。
なんというか、本気でいがみ合っているというより、仲良くケンカしているような雰囲気である。
そっとしておくのが一番だと悟った。
「あらためて礼を言う。俺は武士。あっちは妻のティナだ」
変身を解くマスク・ド・ドワーヴン。
「おや? 変身ヒーローが正体を明かしちゃっていいのかい?」
くすくすと笑いながら、のどかも名乗り、ウパシノンノを紹介する。
「同じ人外に隠しても始まらないからな」
苦笑し、事情を説明する。
なんと妖怪を誘拐し、その能力を我が者にしようとする組織があるらしい。
「ふむ。AVの撮影のために、篠崎狐をさらったわけではなかったのだな」
形の良い下顎に右手をあてるウパシノンノ。
「すぐそういうことに結びつけるってのは欲求不満の証拠なんだよ」
ティナが食いつく。
「しかたあるまい。私はそなたのような肉食系ではないからな」
にやりと笑って変身ヒーローと魔法少女を等分に眺めやる。
女の方は生粋のドワーフだが、男はあきらかに混ざっている。
誰が混ぜたのか、という話だ。
ドワーフというのは、ある肉体的接触によって眷属を増やすことが可能だから。
「うむ。お盛んでけっこうなことだ」
「うやらましかろうっ くやしかろうっ」
照れるどころか、胸を張って煽りにくるスタイルのドワーフ娘。
にらみあう。
けっこう身長差があるため、なかなかに愉快な構図になっている。
「べつに羨ましくなどない。私にも相手はいるからな。しかも高校生だ」
「はあっ!? あんたいくつよっ! この犯罪者!」
「そなたの見た目ほど犯罪ではない。外見ローティーンめ」
「よっし。良く言った。おもてでろ。この超後期高齢者」
「良い度胸だ。合法ロリが」
蒼眸と金瞳から放たれた視線が、ばちばちと火花をあげて絡み合う。
次の瞬間。
ごっちんと音を立てて、二人の頭に拳骨が降ってきた。
『ええかげんにしなさい』
またしてもハモった武士とのどかの鉄拳制裁である。
「あの……私はどうすれば……」
すっかり蚊帳の外に置かれた救出者、篠崎蜜音が所在なさげに佇んでいた。
「とまあ、そういうことがあったのだ」
普段より帰宅が遅かった理由を悠人に問われ、あっさりとウパシノンノが口を割った。
のりとしては、友達とお茶を飲んでいたから遅くなっちゃった。てへ。
みたいな感じである。
頭を抱える悠人。
もうね。
それとこれとは、次元がびっくりするくらい違うってもんですよ。
仕事帰りに誘拐を目撃して、救出しようとしたら犯人は悪の秘密結社っぽい組織で、居合わせた正義のヒーローと共闘する。
「のんのんが言ったんじゃなければ、絶対信じないよね……これ……」
「事実は小説よりも奇なりというやつだな」
いつもの、夫の部屋でのトークだ。
こういう時間を大切にした方が良いと、常連客に言われたばかりである。
戦闘による多少の疲労は感じているものの、それを理由に寝てしまうという発想はエルフにはない。
「でも、助け出しただけじゃ、またすぐ捕まっちゃうんじゃないのかな?」
首をかしげる悠人。
事態の根本的な解決には至っていない。
聞けば、マスク・ド・ドワーヴンたちもウパシノンノたちも、誰ひとり殺していないという。
怪我をした者は多いだろうが、時間が経てば戦線復帰するだろう。
ようするに、敵の戦力はまったく減っていないということだ。
「篠崎狐に関しては、のどかが保護することになった。明日からは私の同僚だな」
「うわぁ……」
「日本なんとか委員会の方は、あのドワーフどもが引き続き追うそうだ」
「うわぁ……」
ひとつめの感嘆は『ぴゅあにゃん』にまた人外が増えるのか、という意味であり、ふたつめのそれは共闘までしたのにまだいがみ合ってるのかよ、という呆れだ。
わりとどうでも良い。




