東京人外魔境 2
当たり前の話だが、一枚岩の組織などない。
主流があれば非主流が生まれるものだし、非主流は主流に取って代わろうとする。
日本政府だって例外ではない。
内閣総理大臣たる新山の権力基盤には人外が関与している。これはある一定以上の地位にある人間は誰でも知っていることだ。
同時に、それをこころよく思っていないものも数多く存在する。
人間の歴史は人間が刻むべきであると考える人々だ。
おそらく、それは間違った考えではないだろう。
人類が転機を迎えるたびに、何か超常的なチカラが働いて人類をより良い方向に導くとしたら、それは少なくとも人類の歴史とは呼べない。
「という思想があり、人間以外を排斥しようという動きは、大昔からあったのです」
ありふれた女性用のスーツをまとった女が説明する。
神妙に頷く男。
坂上田村麻呂の蝦夷討伐、源頼光の酒呑童子退治。
この国の歴史を紐解けば、いくらでも記述がある。
九尾の狐、玉藻前の伝説など、それは本当に玉藻の仕業か? と首をかしげるような事件で宮廷を逐われているし、最後まで人と戦うことを拒否して殺されている。
人を愛し、それゆえにこそ滅びの道を歩んだ、哀しい妖狐の物語だ。
「現在、東京近郊において人外の失踪事件が頻発しています」
ごく薄いファイルを手渡す。
もともといない人々がいなくなったところで、警察は動かない。
あたりまえだ。
そんなものは事件とはいわないのだから。
「問題は、人外のチカラを利用するために誘拐している場合です。資料の四ページ目を見てください」
「……細胞移植による特殊能力継承の研究……だと……?」
絞り出すように男が呻いた。
これではまるで……。
「ありていにいって、改造人間ですね。すでに実用試験段階に入っているとのことです」
「ばかな……」
人外を倒すために人外のチカラを手に入れる。
なんという矛盾か。
「この件に関して総理は動けません。彼の元に集う特殊能力者が動くのを、敵も待っているからです」
女性が声を潜める。
人外による壮絶バトル。
それこそが敵の望むところだ。
日本の巣くう闇を衆目に晒し、排斥運動を一大ムーブメントとするために。
「それで俺に白羽の矢が立った、というわけですか」
敵も味方も知らない能力者。
道化としか思えないローカルヒーロー。
テレビなどにも幾度も映っているのに、あまりに荒唐無稽な活躍のため、誰も本物だとは気付かない。
「……報酬は充分に用意します」
「俺が金で動く男だと?」
「思いません。ですが、我々は金銭によってしか謝意を示す手段を持ち合わせていないのも事実です」
いかにも心苦しげな女の様子に男が苦笑する。
意地悪な質問だったようだ。
「お引き受けしましょう。俺もまた人外ですからね。こういう連中が跋扈すると、住みにくくなってしまう」
ぱんと資料を叩く。
記された敵の公称、「日本正常化委員会」という文字を。
「頼みましたよ。マスク・ド・ドワーヴン」
深々と、女が頭を下げた。
沖縄在住のヒーローが、いま海を渡る。
「む? あれは篠崎狐ではないか?」
ほてほてと歩いていたウパシノンノが首をかしげた。
午後十時過ぎ。
健全営業をモットーとする『ぴゅあにゃん』は、夜九時半で閉店なのである。
「だねぇ。お盛んでけっこうなことさ」
のどかが苦笑する。
帰宅途中の二人が見たのは、数人の男たちに運ばれる篠崎蜜音だった。
でろーんともたれかかっちゃって、これから複数プレイでも楽しむといったところだろうか。
「いや。狐は意識を失っている。どうも拐かされているっぽいな」
「人間が妖怪を誘拐? そりゃずいぶんと新しいねえ」
逆ならばいくらでも例があるが。
「ふむ。不審な通信もしていたらしい」
「あいかわらず万能だなっ! あんたの目は!」
「背後関係は判らぬが助けるか。あの狐には多少の縁があるしな」
「またそうやって首を突っ込む。あんたは変わらないねえ。ウパシノンノ」
「性分だ。そうそう変わってたまるか」
すっと消えるウパシノンノの姿。
物理的に消滅したのではなく、他人の目には認識しづらくなったのだ。
「めんどくさ……」
続いてのどかも認識阻害を使う。
なんだかんだいって付き合ってしまうのだ。
そして尾行すること数分。
篠崎狐を連れた男どもが入っていったのは、繁華街の雑居ビルであった。
「や。これは雑居じゃないっしょ」
ちょいちょいと指をさすのどか。
入口近くに設置された監視カメラを。
「防犯意識の高いビルなのかもしれないぞ」
「アホか。ヤクザか極右団体か。そんなとこじゃない?」
「ますます判らんな。ヤクザが妖怪をさらってなにをする? アダルトビデオでも撮るのか?」
マニアックすぎて、たぶん買い手がつかないだろう。
「あんたが出演するヤツなら売れるかもだけどね」
「くっ 殺せっ というやつだな」
エルフは敵に捕まったら、そう叫ぶのがお約束らしい。
殺せもなにも、死にたいなら魔力を暴走させて自爆でもすれば良かろうにとウパシノンノは思うのだが、様式美というやつなのだろう。
時代劇に入浴シーンがあるのと同じだ。
「あー でもあんたじゃ乳が足りないか」
「失礼なやつだな。べつにBというのは小さいとは思わぬぞ」
「普通だね」
日本人に最も多いカップサイズといわれている。
「普通の何が悪い」
「悪かないさ。でも結局、極端なものの方が受けるんだよ。貧乳なら貧乳。巨乳なら巨乳。日常から遠い方が良いんだろうね」
判るような判らないようなことを言って、肩をすくめるのどか。
乳談義はどうでも良いのだ。
と、ビル内がにわかに騒がしくなる。
「あれ? 気付かれた?」
「いや。侵入者だ。私たちに先んじて動いたものがいるらしいな」
「見えたのかい?」
「うむ。私たちも行くぞ」
ウパシノンノが駆け出す。
「気軽に複数形にすんじゃないよ」
ぼやきながらも続くのどか。
なんだかんだいって仲良しである。
「友なる風精霊よ。私のすすむ道を啓開してくれ」
エルフの言葉とともに風が舞い、監視カメラを破壊する。
「よっと」
次の瞬間、仙狸が扉を蹴破る。
隠密なんて言葉は知らないよ、というばかりの突入だ。
目立つことこの上ないが、現場はそれどころではないだろう。
銃声と怒号が飛びかっていて、誰も美女コンビには気付かない。
「平和な日本とは思えぬ大騒ぎだな」
「鉄砲もってるってことは、やっぱりヤクザかな」
「ただのならず者にしては訓練された動きだ。油断するなよ。のどか」
「誰にいってんだい? 魔法がなきゃ、あんたなんかわたしよりずっと弱いんだからね」
「肉弾戦は好かぬのだ」
階段を駆け上がってゆく。
篠崎狐の居場所は、シルフがすでに伝えてくれているため迷う心配もない。
あっという間にたどり着く地上五階。
灼熱の戦場。
野戦服をまとった男たちと、変な格好をした男女のペアが戦っていた。
変身ヒーローみたいなのと、魔法少女みたいなやつだ。
飛び来る銃弾をあるいは回避し、あるいは腕を振って弾きながらの大暴れだ。
ウパシノンノものどかも見覚えのある姿である。
「マスク・ド・ドワーヴンじゃないか」
「……そのようだな」
悪の秘密結社と戦う正義のヒーローそのものだ。
思わずウパシノンノは悪の側についちゃおうかな、とか考えたが、そういうわけにもいかない。
どうやら目的も同じっぽいし。
「助太刀する。のどかのタイミングで突っ込むが良い」
「らじゃ」
勇猛果敢に戦うマスク・ド・ドワーヴンたちだが、やはり多勢に無勢。なかなか敵を突き崩せない。
しかもこの連中、あきらかに対特殊能力者戦闘の訓練を積んでいる。
たん、と、床を蹴るのどか。
次の瞬間、仙狸の両足は死角から魔法少女を狙っていた男の首を挟んでいた。
突然の闖入者に驚愕する男。
にやりとわらったのどかが、勢いよく後方へと倒れ込む。
きれいな放物線を描き、男が床とキスをした。
フランケンシュタイナーというプロレス技だ。
「助けにきたよ。マスク・ド・ドワーヴン」
驚いた魔法少女が振り返り、そしてウパシノンノと目があった。
「げ。エルフ」
はらくろ先生。
ふたたびの出演ありがとうございます!
参考資料
ドワーフ娘が嫁に来た ~改造人間じゃなく、ドワーフになった俺~
参照URL
http://ncode.syosetu.com/n9474ec/




