ミステリアストーキョー 8
ランチタイムからは外れているせいもあって、店内は混み合ってはいなかった。
むしろすいていた。
「流行っていないのかな?」
失礼な感想を抱くウパシノンノ。
「や、たぶんアレのせいじゃないかな……」
悠人が視線を投げる。
先客がいた。
それ自体は妙でも珍でもない。
食べ物屋なのだから。
問題は、その客の容姿である。
二人連れで、一方はごく普通の日本人。いかにもくたびれたサラリーマンといった風情の中年男。これは良い。この国にいくらでもいる人種だ。
目を瞑って適当に石を投げたら当たっちゃうくらいの。
もう一人の方がやばい。
豪奢なプラチナブロンドと透けるような白い肌。
宝玉のような瞳。
あきらかに日本人ではない。
「ハリウッドスターというより、タカラヅカのようだな」
いささか失礼な感想を漏らすのは、その人物におさおさ劣らない美貌を持つエルフである。
悠人は無言で肩をすくめた。
不同意だったからではない。
なにしろこのシチュエーションってすごく見たことがあるから!
くろうするよね。おじさん。
とっても同情的な視線を向けたりして。
とはいえ彼はましなのだ。
男女のペアだから。
もっのすごい美形の同性と一緒に歩くとか、考えただけで心が折れそうである。
と、こちらに気付いたのか、金髪イケメンがにこやかに手を振ってみせる。
えらくフランクだ。
外国人は物怖じというものをしないのだろうか。
「こちらで一緒に食べませんか。妖精の君も」
「なっ!?」
突然の呼びかけに硬直する悠人。
こいつは今なんと言った?
立ちすくむ少年をよそに、つかつかとウパシノンノが歩み寄る。
「おかしなことを言うな。この世界にはエルフなどいない」
ぐいと男に顔を近づける。
超絶美形どうしの最接近だ。
ものすごく絵になるシーンだろう。
もんじゃ焼きの香りさえ漂っていなければ。
「こ、これは失礼しました。そういうお約束でしたね」
しどろもどろにになりながら同席している男を見る。
助けを求めるように。
だが、視線を向けられたおっさんは、我関せずとばかりにもんじゃを作成中である。
話しかけるな、というオーラが立ち上っていた。
「ウパシノンノだ。不用意に口を開かぬことだ。オスカルよ」
どっかりと斜向かいに腰掛けて言いつのる。
なんとなく流れで、悠人はイケメンの隣に座した。
「ヴィラニカです。そのオスカルというのは?」
「そなたの愛称だ」
「そんなむちゃくちゃな……」
謎すぎる命名である。
わけがわからず首をかしげる悠人だったが、もうひとりの男は、小刻みに肩を震わせていた。
受けているらしい。
「ふむ。そなたには判るのだな」
「世代なもんで。杉村耕治です」
もんじゃ焼きを作る手を止め、自己紹介をする。
続いて悠人も名乗り、変なカップルは、変なカルテットへと昇格した。
生地の焼ける香ばしい匂いが漂う。
「あなた方も観光ですか?」
気を取り直し、ヴィラニカが訊ねた。
「デートだ。見ればわかるだろう」
「ははあ。そうなのですね。私たちもなんですよ」
奇天烈な会話に、ぶはっと耕治と悠人が噴き出す。
大きくため息を吐くウパシノンノ。
「そなたの翻訳機はおかしいな。誰が作ったのだ? それ」
「……そこまで判りますか」
「これは老婆心で言うのだがな。きちんと現地の言葉を学べ。とくに日本語は微妙なニュアンスが多いゆえ、機械的な翻訳に頼れば正確な意味は伝わらなくなるぞ」
「ん? どういうこと? のんのん」
ヴィラニカと名乗った青年は、ごく普通に流暢な日本語を話しているように思える。
「思えるだけだがな」
注文を取りに来た店員にイカともちの入ったものをオーダーし、悠人に向き直るウパシノンノ。
「こやつは自分の母国語を話しているにすぎん。それが私たちの耳に届くときには、日本語として認識される。ようするにマジックアイテムだな」
彼女が常に使っている認識阻害を応用したような技術だ。
しかし、技術である以上、融通は利かない。
「私が言ったデートという言葉も、親しい者と観光地などをまわる、という程度にしか翻訳されておらんだろうよ」
「正解です。お見事ですね。美しき森の乙女さん」
「わざわざ実験しなくても良い」
「なるほど……」
ヴィラニカの言葉の意味がだぶって聞こえ、悠人は頷いた。
日本語は語彙が多いという話を、彼も聞いたことがある。
同じ響きの単語でも、まったく違う、あるいは逆の意味になったりもするのだ。
「ま、洋楽なんかの歌詞をみると良く判るな。歌詞じたいはしょーもないものが多い」
耕治が顔を上げて笑う。
焼き上がったぞ、などといいながら。
はがしと呼ばれる小さなヘラを手に取る四人。
悠人やウパシノンノが一緒に食べることについて、べつに耕治は咎めなかった。
袖振り合うも多生の縁、というやつである。
たぶん。
「さすが耕治さんおすすめの一品ですね。おいしいです」
にぱっと笑うヴィラニカ。
背景にバラとか咲き誇っていないのが不思議なほどのさわやかな笑顔だった。
一瞬だけむっとしたウパシノンノが、
「さすが悠人が選んでくれた店だ。じつに美味い」
花がほころぶような笑みを浮かべる。
メイドカフェで鍛えた営業スマイルである。
「どうして対抗しようとしたのか……」
「考えるな少年。感じるんだ」
悠人と耕治がぼそぼそと会話を交わしている。
なんつーか、すげーんですよ。
さっきから観光客っぽい人たちに写真取られまくってるし。
そのたびにウパシノンノとヴィラニカは愛嬌を振りまいているし。
ちなみに前者は、『ぴゅあにゃん』での接客に慣れているため。
後者は王族として、民衆に手を振るのは慣れているため。
慣れているわけでもない他二名としては、いたたまれないことこの上ない。
「……苦労してるな。悠人くん」
「……あなたもね。耕治さん」
やろーどもに芽生える共感めいた友情であった。
どうでもいい。
「ともあれ、連絡先を交換しないか?」
「いいですよ」
LINEを結ぶ。
なんというか、不遇同盟の結成であった。
「よかったらヴィラニカさんも……」
「こんなおっさんとで嫌じゃなかったら……」
イケメンと美女に申し出た二人の目が、点になった。
いなかったのだ。
ふたりとも。
より正確には、いた。
のれんの前に立って、客の呼び込みなどをやってやがる。
愛嬌振りまき対決がエスカレートしたらしい。
「エンディミオンにも存在しない美味です! ぜひご賞味あれ!」
「江戸時代から続く伝統の味、そなたらも味わってみぬか?」
宣伝している。
客が次々と押し寄せている。
もっのすごい迷惑行為だ。
慌てて耕治が席を立ち、店主に謝罪するため奥へと向かう。
視線で、あいつらを頼むと訴えながら。
思わず顔を引きつらせる悠人。
あの渦中に飛び込むのは、なんぼなんでも嫌すぎる。
が、ここは謝罪と沈静化に役割を分担しなくては意味がないし、大人の混じっているパーティで高校生の悠人が謝罪しても誠意など伝わらない。
どうやって落ち着かせようかと思案しながら現場へと向かう悠人の携帯端末が震える。
発信元は友人であった。
この忙しいときに。
「大石。いまちょっと取り込んでいて」
「知ってる。やばいぞ悠人。のんのんさんの写真がSNSにアップされまくってる」
「やっぱり……」
「落ち着いてる場合じゃねえって。耳。耳映っちゃってるんだよ!」
「あ……」
このとき悠人は思い出した。
空港の保安検査所において、ウパシノンノの弓矢が引っかかったことを。
認識阻害は、機械の目をごまかすことができないのだ、と。
なにしろ機械は、「ここにそんなものがあるわけがない」という先入観をもっていないから。
「やば……どうしよう……」
「善後策は、芦名澤がのどか店長に相談してる。悠人はとりあえずのんのんさんを隠せ。物好きが浅草に集まるぞ」
場所もバレているのか。
となれば、すぐに暇人たちが押し寄せてくる。
完全に油断だった。
無念の臍を噛みながら、少年が恋人の肩を叩く。
鈴村弥生先生。
出演許可ありがとうございます!
参考資料
トラックにはねられそうになったら異世界の会社にヘッドハンティングされました
URL
http://ncode.syosetu.com/n2169dv/




