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東京エルフ!  作者: 南野 雪花
第2章 ミステリアストーキョー
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ミステリアストーキョー 5


 悠人が探してくれたレストラン。

 ムーディーな音楽と、壁に設置された水槽の中を、魚たちがゆっくりと回遊する。

「良い雰囲気だ。なかなか気に入った」

「それは良かった。ところで」

 ローストビーフに舌鼓をうち、紅茶を楽しみながら悠人が質問する。

 さきほどウパシノンノが口にした魔術協会なるものについてだ。

 まるっきりファンタジーである。

 二十一世紀の世界に、そんなものが存在するとはちょっと信じられない。

「魔法、魔術、超常現象。べつにどういっても良いのだが、それらは太古の昔から存在している」

 紙ナプキンで口を拭き、エルフが応えた。

 肉食系などと称すると大食いなイメージになってしまうが、ウパシノンノの食事量は悠人のそれと大差ない。

「むしろ、そういった不可思議が世界を支配していたといっても過言ではないだろう」

 予言者や神託の巫女が、(まつりごと)をおこなっていた。

 日本にだってそういう時代はあった。

 巫女なり神官なりにしか聞こえない神の声とやらに基づいて国が運営され、罪人とされた者が裁かれる。

「科学というのは、それに対抗するために生まれたのだ」

 凡人たちが手にした剣。

 誰が扱っても同じ結果が出る、誰が証明しても同じ結果が出る。

 それが科学である。

 それによって、地球上から闇は駆逐されていった。

「インチキだったから消えていった、と、そなたは思うか?」

「……そう思うには、僕は色々知り過ぎちゃったよね」

「うむ。エルフもドワーフも、妖怪すら実在することを、そなたは知ったな。魔法もまた然りだよ」

 かつては世界を支配していた魔法使いたちは科学の前に敗北した。

 そして自ら身を隠した。

 しかし、魔法そのものが世界から消えたわけではない。

「魔法使いたちの作った結社(ソサイエティ)。それが魔術協会だ。そしてその存在は公然の秘密だ」

「公然の秘密?」

「誰でも知ってるフリーメイソンという言葉があるだろう。それと一緒だよ」

 秘密結社フリーメイソン。

 アメリカの大統領を幾人も出した組織だともいわれるが、詳しいことは誰も判らない。

 世界に六百万人もの構成員がいるというが、これも良く判らない。

 しかし、その名は多くの人が知っている。

 秘密とは、誰も知らないから秘密というのではない。

 知っていても口に出せない、探ることを許されないから秘密というのだ。

「魔術協会なんて、きいたこともないけどね?」

「普通に生きる人々にとっては、まったくといっても良いほど無関係だからな。かろうじて関係があるとすれば、手品としてのマジックくらいのものだろう」

 種も仕掛けもある方の魔術だ。

「つまり、一部の人間たちは魔法が存在することを知っている?」

「正解だよ。悠人」

 ずず、と紅茶をすするウパシノンノ。

「ただ、付け加えるならば、知っているにとどまらず、積極的に関わっているものもいる。この国でも政界の闇には人外が(うごめ)いているという」

「まさか……」

「詳しいことは私も知らぬがな。案外、人の世こそが魔境なのかもしれぬぞ」

 自らが否定した超常の力を使ってまで、権力を(ほしいまま)にする。

 それが人間の業だ。

 だからこそ、世界の覇者となったのは人間なのである。

 自然を畏れ、敬うだけでは、これほどの物質文明を作り上げることはできなかっただろう。

 地母神(ガイア)の肉体を痛めつけながら、自然を際限なく壊しながら、それでも人類は歩みを止めない。

 このバイタリティ。

 このタフネス。

 エルフにもドワーフにも、もちろん妖怪たちにもないものだ。

 何がなんでも、どんな手を使ってでも勝つ、という境地に、彼らは達することができない。

「私たちが敗者である所以(ゆえん)だな」

 自嘲的な笑みを浮かべて肩をすくめるエルフ族。

 悠人には、とっさにどう返すべきか判断できない。

 だから、

「政治に興味がないとは聞いていたが、本当に耳が遅いな。エルフ」

 かけられた声は少年のものではなかった。




 思わず悠人が座席から腰を浮かす。

 何者だ。

 いつから聞いていた。

 ウパシノンノが右手を挙げ、安心させるように少年に笑みを見せた。

 ゆっくりと視線を動かす。

 黒い髪と黒い瞳。

 喪服のように黒いスーツに、ダークグレーのネクタイ。

 クールビズなんて言葉は知らないよ、と全身で語っているような格好なのに、どこか涼やかな印象の若い男。

「盗み聞きとは、なかなか良い趣味だな。鬼」

玄修羅(くろのしゅら)。いまは玄真(げんしん)と名乗っている」

 問われもしないのに自己紹介して、勝手に席に着く。

 しかも悠人の隣、ウパシノンノの斜向かいだ。

 少年は異議を申し立てようとはしなかった。

 なんというか、有無を言わせぬ迫力に、固唾を呑んで見守っている。

「ウパシノンノだ」

 そういって彼女が取り出したのは名刺である。

 あろうことか、メイドカフェ『ぴゅあにゃん』の。

 そういうギャグが通じる相手なのだろうか。

 ごくりと悠人が唾を飲み込んだ。

 なにしろ相手は鬼だ。ふさげるなと激昂してしまうかもしれない。

「これは丁寧に」

 玄真もまたポケットから名刺を取り出す。

 通じる相手でした!

 双方が立ちあがり、右手で渡しながら、左手で受け取る。

 ばっちりビジネスマナー通りでした!

「メイド……?」

「総理大臣秘書……?」

 添えられた肩書きに首をかしげながら着席する鬼とエルフ。

 もう、シュールすぎてどこからつっこんで良いのか判らない悠人であった。

「つまり、鉦辰(かねとき)の手の者か」

「然り」

 名刺を目の前に置いたままの会話。

「それで、私の耳が遅いとは、どういうことだろうか」

「この国の中核に食い込んでいた人外は滅ぼされた」

「そなたも人外だと思うのだがな」

「俺はしがない雇われ人さ。べつに日本をどうこうしようなんて思っちゃいない。バンパイアロードなんかと一緒にされたくないね」

「ふむ」

 軽く頷くウパシノンノだったが、まったく興味がなさそうな雰囲気は、悠人にも感じられた。

「バンパイアロードというと、ドラキュラか。日本にいたのだな」

「ああ。そして滅ぼされた」

「あれはそう簡単に滅ぼせるような存在ではないが」

「けど事実さ。俺がみていたわけじゃないけどな」

 この玄真という男が秘書として雇用されたのは今年度からだという。

 欲しくもない情報だ。

「そして次は、私を殺すためにきたというわけか」

「そう思うか?」

 にぃ、と唇を歪める鬼。

「そうでないことを祈っている。そなたは手加減して勝てる相手ではなさそうだ」

 他方、ウパシノンノはにこりともしない。

 手加減しなければ勝てる、とでもいうような口ぶりに玄真は怒らなかった。

「俺は秘書の中じゃ一番弱いからな。四天王の中では最弱というやつだ」

「は?」

 おもわずエルフが間の抜けた声を出してしまう。

 彼女のみるところ、この鬼は強い。

 さすがに伝説やおとぎ話で語られるほどの強さではないだろうが、全力で戦ってなんとか勝てるかなってレベルだろう。

 それが最弱とか。

「嘘だよな?」

「こんな嘘をついてどうするよ。俺だって傷ついてるんだよ」

「あの男の周囲にはバケモノしかおらんのか」

「だから俺に勝ったところで意味がないぜ」

「で、あろうな」

 ふうとため息を漏らすウパシノンノ。

 彼我の戦力差に思いを致せば、好戦的な判断はできない。

 ましてこちらには悠人がいる。その家族も、友人たちも。

 彼ら全員を守りきれないなら、戦うべきではないのである。

「鉦辰は、私になにを求めているのだ?」

「聡い娘は嫌いじゃないぜ」

 まんざらお世辞でもなく玄真が笑う。

 なにしろ彼のパートナーは、成算とか計画性とかとは、まったく無縁の食っちゃ寝姫だから。

「娘と呼ばれる歳でもないが。長いものに巻かれる程度の知恵はあるつもりだよ」

 東京から退去せよということであれば従おう、と付け加える。

 悠人が色めき立つ。

 視線で制し、玄真の言葉を待った。


Swind先生。

出演許可ありがとうございます!


参考資料

明治あやかし美食奇譚  ~鬼姫様はおいしいご飯を所望します~

URL

http://ncode.syosetu.com/n9405dq/


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