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フェアウェル

※これまで書いた話の内容の設定の一部をまた変更しました。

変更点)王国→帝国 竜→王国にのみ存在、帝国にはいない

初めのプロットからずいぶん離れていくだろうとおもったためです、申し訳ありません。

艶やかに泳ぎ続けた熱帯魚達は、お開きを告げる曲と共に熱い体温を残したまま舞い終えた。


「また次も会ったら踊ってくれる?」


適度に疲れて火照った身体は、アレクだけではないようだ。


ほんのり赤らめていたシャルの顔は、一瞬間が空いた後、少し赤味がひいていったものの、満面の笑みを浮かべ、アレクに抱き着く。


「ありがとう、うれしい!」


クレアはそっとだけれでも、明るくアレクの耳元でささやいた。


先程まで一緒に踊っている時に肌が触れ合い続けていたはずなのに、不意打ちをうけてアレクはまたどきりとしてしまう。


クレアを呼ぶ声がする。父親のようだ。中年のおっとりした顔立ちで、没落した原因が彼には一見して見えなかった。どうやらそのまま帰るようだ。


「愉しい想い出をくれたアレクに会えてよかった」


そう言うと、クレアはアレクの片頬にそっと唇をのせた。


二重の不意打ちを食らってアレクの身体は固まってしまう。前世を含めても初めてのキスだったから。


「また会おうね!もっと上手い踊りをしてみせるから!」とシャルに言うのが精いっぱいだった。


クレアはにんまりとした顔で、手を振りながら 「元気でね、今日はありがとうっ!」と別れを言って父親のもとへむかっていった。



「やあ色男!」


良く響く声でその場をずっと見ていたのであろうタイミングよく表れたステファノ公が、アルフレッドと一緒にやってきた。


「...えと何だっけ名前..あ、アレクか、初の舞踏会にしてはなかなかいい踊りだったな!度胸もあるし」


ステファノ公からフランクに言われて悪い気はしない。


「ま、俺の息子だしな、そのくらいの度胸はないと」



「今日はこのまま泊まっていかないか?部屋ならある」


軽口さえ言える親しい仲のステファノ公からの申し出をアルフレッドは意外にも断った。


「いや、今日はこのまま帰るよ。話ならまた今度にしよう。今日はエレノアと久々に燃えちまったから」


だったらそのまま素直に好意に甘えて泊めてもらえればいいのに


やれやれと大げさなポーズをするが、わかっていたかのような反応をするステファノ公


そういえば、と辺りを見回すと、皇妃様の姿はどこにもなく、銀髪と青髪の少年たちも見当たらなかった。


姫様に挨拶をしなくていいのだろうかーー。


と、ぼんやりと考えていると、いきなり背中になにかモノが当たった。


「探し物はこれかい? うちの料理はがっつきたくなるくらい美味いだろう!新鮮で香辛料たっぷりだからな!持って帰っていいぞ、足りないなら厨房にもまだあるはずだ、使用人の分?彼らはもうとっくに自分の分をとってあるよ。んなこと気にせず、どんどん食べろ!アルフレッドより大きくなれ!」


いつのまにか食事を山盛りにしたボウルを手にしていたステファノ公から手渡される。

違いない!とアルフレッドは大きく笑う。


どうやら、食べたりないと勘違いされてしまったらしい。まあ、もらっておいて損はない。味も言う通りの美味さだし。それに確かに踊った後は少しお腹がすく。するといつのまにか厨房からも何品か使用人が持ち帰り用に持ってきた。


ステファノ公は気遣いもそうだが、場の手綱を上手く取るのも馴れてるな..ホストなら当然と言えば当然か


その後アルフレッドはステファノ公に再開の約束を交わした。丁重に招待とお土産の礼をステファノ公へ言って、アルフレッド一家達は館の門へ出た。辺りはすっかり深い伯林青色に包まれている。


いくつかの貰った食事を護衛とフーキエに渡し、父と一緒に馬車へと乗りこむ。母は眠くなったので後ろの馬車に乗るらしい。ほんとに泊まっていけばよかったのに。


馬車の中では父と二人きりになる。アルフレッドが土産にもらったワインをあけはじめ、アレクはさっそく傷まないうちにともらった料理を頬張りだすと、アルフレッドが口を開いた。


「今日のステファノ公家での舞踏会はな、アレクの顔と我が家の家風をそれとなく皇帝の皇子や皇妃、ステファノ公に見せるためだ」


いきなり言われて思わず料理が口から吹き出てしまう。皇子?ステファノ公が皇帝の一族?


「皇妃が一緒に踊っていた銀髪の美男子がいただろう、彼がフランツ王子だ。皇子と皇妃は、貴族連中に対する視察を兼ねたお忍びみたいなものだから、知らないふりして失礼の無いように接していればよかったわけだ。逆に、今回の意図を知らずに彼らに媚びを売ろうとしていた連中がいたが、ありゃ嫌われたな。あのアレクと一緒に踊った女の子と初めに踊った少年なんかもそうで、特に露骨すぎだった。

まあ、あの場でのアレクのおかげで、顔見せは成功といっていいかもしれないな」


「ステファノ公は皇帝の一族だが、後継者候補からはだいぶ離れていてな、表向きは帝国の直轄領で自分の領地を持ってる、趣味が高じて貴族向けの仕立て屋のような服屋を道楽でやってるような、まあ、絵に描いたような貴族だ。

だがな、別の仕事はうちの自治領と、隣接しているギスカレ家自治領内での情報収集と、まあ、反乱防止のための監視だな。今日のゲストたちも、うちの自治領とギスカレからきた連中で半分占めていたし。貴族連中の状況の変化とか、繋がりとかを把握するために舞踏会を定期的に開いているのさ。」


あの場で知らずにいてよかった、事前にそこまで知っていたら、不自然な立ち回りをする姿が容易に目に浮かぶ。


「それじゃあ、泊まるのを遠慮した理由は...」


「なにか弱み握られないようにするためだなっ!!はっはっはっ!!」


屈託のない大きな声で笑う、と急に真顔に戻り、


「一応言っとくが、疚しいものなんてないからな」 と念押しされる。


「弱みをわざわざつくって嵌めようとしてきたことは無かったが、念のためにな。まあ、オーバーなくらいのフランクさも、もともとぼろっと相手が情報を口にするのを誘うためのものだったが、今では、ありゃ素になってきてしまってるな。とはいっても、すでに互いに情報交換しあってるような仲だし、貴族連中の中じゃ良識あるほうさ」


ワインを飲んでいるせいかアルフレッドがいつもより饒舌になる。

...泊まるのはやめて正解だったかもしれない。


ふと気づいて、恐る恐る気になっていることを聞いてみる


「ステファノ公が僕に食い物をやたらとすすめてきたのは、まさか毒とかはいってたりとかが理由で....」


「ん?単純にステファノ公は背が低いのが少しコンプレックスに感じてるからな、そうならないよう料理をアレクに渡してただけだと思うぞ。皇子や皇妃のいた場所で毒入りの料理がでてたなんてことになったら、それこそ責任問題に発展するし。」


そう言われてほっとした。ステファノ公、うたがってごめん。彼の好意を無駄にせぬためにも、アレクは再び食べ始める。


「それと....」


アルフレッドは言いづらそうにアレクに尋ねた。


「あの女の子から、その...求婚とかはされなかったか...?」


アレクは下を向いてただただだまって首を横に振った。


「そうか...」


察したアルフレッドは、それ以上何も聞かずに黙って半透明の淡藤色のワインを飲み続けた。




深い勝色に染まった闇の夜路を、館へ駆けゆく馬車の中


アレクは黙々と想いの詰まった冷めゆく料理を口に運ぶ


初めてしった熱さの味さえ醒めないようにと願いながら



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