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白昼夢

※これまで書いた話の内容の設定の一部をまた変更しました。

変更点)王国→帝国 竜→王国にのみ存在、帝国にはいない

初めのプロットからずいぶん離れていくだろうとおもったためです、申し訳ありません。


ーーーあの貴族のガキは世間知らずだな、どこの家だ

ーーー初めて見たわ、何も知らずに不運な子

ーーーアルベルトの長男ですって、いったい何を考えているのかしら

ーーーあの蕾の子、うまく誑し込んだな


自分の背後でひそひそという音しか聞こえてこないが、彼らが言っていることはそんな事だろう。


ごめんなさい


先程の自分への肯定に満ちた無邪気な姿からかけ離れた細く消え入るような声は、

シャルの存在がパートナーである私に迷惑をかけていることに気付いているのを表すとともに、

彼女の労りがにじみでていた。


「僕と踊るのが嫌い?」


そう尋ねて首を振るクレアに心の中で安堵する。

嫌われていないことに。

嫌いと言って離れる優しさをまだ知らないことに。


ふと、上から観察されるような視線を感じて見上げてみると、2階からステファン公がアレクをじっとみつめていた。初めからずっと見ていたよとでも言いたげな笑みを浮かべながら。


視線を横へずらすと、ゲストなのにフーキエが配膳の手伝いをしながら、こちらの様子をいつもの視線で見守っている。


アレクは、何か文句でもあるか、と言いたげな表情を後ろの貴族連中に見せようと振り向くと、何やら皇妃様が、同じく銀髪のパートナーに耳打ちをする。その彼は、皇妃様から離れ、すぐ近くの青髪の少年へ目線で何かを告げた後、銀髪少年は、私とシャルの横にいた黒髪の蕾飾りの女の子のもとに、青髪少年は別の赤髪の蕾飾りの女の子のもとに歩いて行き、それぞれゆっくりと優しく手を取った。


"私、フランツと1曲踊っていただけますか?お嬢様 ー シャルです。光栄です、よろこんで。"

"私、オスカルと1曲踊っていただけますか?お嬢様 ー サラです。光栄です、よろこんで。"


銀髪少年はフランツという名らしい。そんな光景に背後のどよめきが大きくなる。

場を読んだステファン公が、慣れた手ぶりで奏者達に曲を弾くように指示し、明るめでアップテンポな音が流れだす。


「僕のわがままを聞いてもらえませんか?お姉ちゃん」


わざとらしくそう言うと、クレアは何も言わず、繋いだ手を横へあげて私に身体を密着させた。


仕方ないわねという態度が、嬉しさと照れでごまかしきれていないシャルが見せる表情を、自然と胸に刻んでしまう。


クレアがアレクに合わせて踊りだす。けれどさっきよりもリードは少し弱い。今度はアレクが流れのはやい曲に合わせるように不慣れながらリードする。



「初体験だってこと、みててわかりやすかった?」


と聞くと、クレアはくすりといじらしく笑う。


「だって、身体が触れ続けたとき、ずっとアレクの胸がすごく速く波打ってるのが伝わったから」


そう言われて自分の身体がまた熱くなったことに気づいてしまう。


「どうして僕の名前を知っていたの?」 と自分の掌を上にあげてそっとたずねる。


アレクの腕の下でクレアがひとまわりして身を寄せる


「昨日服を借りるときに、ステファン公から」


クレアが対面のままでいるようアレクの両手を顔の前で取る、


「アレクにさっきのことで言わな..謝らなきゃいけないことがあるの...えと、わたし...」


片手でぐいっとクレアを引き寄せる


「そんなこと、そこらに投げ捨てて忘れよう、今はただ一緒にいるのを楽しもう」


クレアは目を少し開いたあと、弾けた笑顔で応えた。


「そんなことって、何のことかしら?」


光でゆらめく青い景色を窓ガラスがうつしだし、鮮やか色を纏った熱帯魚達が泳ぎ乱れる間を、1組の雌雄は泳ぎ舞う。そんなガラスケースにいる熱帯魚達をずっとステファン公は観賞しつづける。


アレクとクレアは何も言わずに顔を見続けながら同じ場所で円を描く様に回りつづけた。

まるでこの場では自分たち以外は見えておらず、2人が世界の中心にいるかのように。



ーーークレア、君は気付いているだろうか。


互いに触れ合う身体から君の鼓動が私にも伝わっていることに。


初まりの頃はゆるやかな鼓動をしていた君の胸が、


今は流れている曲よりも速く、私と同じくらいに波うちつづけていることに。





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