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ザお姫さまストーリー  作者: 天ぷら3号
12/13

ザ・フリー

よろしくお願いします。

 年が明け嫌いな冬が終わりまだ肌寒い春を迎えた頃、お姫さまは無事に聖マリアンヌ女子高を卒業された。そう、校則というがんじがらめの鎖から解放され、晴れてご自由の身になられたのだ。


 さあ、もう淫行条例なんて知らねえぞォ!俺のハートの行き先はラブホ、ラブホだア!もちろん切実なる思いは胸に秘めたままなのだが……。


 お姫さまの身分が女子高生から専門学校生に変貌を遂げようとも、主従関係に何ら影響など及ぼさない。簡単に言えば、アッシーとお財布代わりの貢君(みつぐくん)任務は継続中ということだ。




 今日も昼休みにケイタイでミッションが発動されている。


「透、今日は学校半日なんだけど、名駅で遊んで帰るから遅くなっちゃうの。仕事が終わったら駅の北口まで迎えに来てね。愛してるから」


 ホントかよ?と思う最後の一言を糧に、午後からの業務を精力的にこなす。カップコーヒーを飲んでる暇など無い。


 定時上がりで即行北口の降車場へ駆け付けた。


「遅かったじゃないの!私、十五分も待たされたんだよォ!」


 お姫さまが露骨に膨れっ面をお見せになっておられる。深く反省しなければ。


「えっ?でも、定時が5時10分だから、どんなに急いでもこれ以上早く来れないよ」


 取りあえず言い訳してみたが、通用させてくれるはずがないのもわかってる。


「それでも何とかするのが騎士(ナイト)ってもんじゃない?透の都合はあなた自身の問題だから私には関係無いもの」


 ハッキリ言ってムチャクチャである。しがないリーマンの俺にとって、就業規則は絶対順守の掟があるのに。頻繁に破ってたら懲戒処分の対象だぞォ!


「ゴメンね。次回は何とか出来るように頑張るから。お詫びに何かごちそうするよ」


 もちろん何とか出来ないけど、そう言うしかないじゃん。超我がままお姫さまと付き合ってるんだから、これくらい受け入れられなくては話にならない。彼女の全てを受け入れるのが天命だ。


「じゃあ、「ニューヨーク・プレジール」のイチゴタルトを食べに行こう。あそこのタルトって病みつきになるの。私はセットにするから、透はブレンドコーヒーだけ飲んでなよ。どう?お財布にやさしいでしょ?私の気遣いに感謝することね」


「ありがとう。由香利ちゃんって可愛いだけじゃなく心までやさしい女だね」


 止む無く褒めてやったらサイドシートでふんぞり返るお姫さまを乗せ、ご指定の「ニューヨーク・プレジール」に向かった。



 店に着き喫茶スペースでおいしそうにタルトセットを頬張る由香利に見とれた。仕事疲れを癒す安息の時だ。


 帰り際、杉村家用のショートケーキをテイクアウトで追加され店を出た。もちろん俺の分など有るわけがない!勝にだけは食わせたくないけど、これもミッションの一つだからあきらめよう。




 お腹も満たし上機嫌に見える由香利が渋滞の最中に耳打ちして来た。


「ねえ透、私たちそろそろシようか。あまりもったい付けるのも悪いからさ」


 危ねえッ!思わずアクセルに力が入ってオカマ掘りかけたじゃねえか!でも、これはスペシャルサプライズだァ!勝手に口元が緩んでニタニタしてしまう。


 やっと俺の愛と誠意が通じたかと思うと、虐げられ続けた日々が脳裏によみがえって来る。思わず涙してしまいそうになった。


「もちろん俺は嬉しいけど、で、いつヤるの?」


「お前なあ、いきなりそれかよ。ハアハアするんじゃねえ、このケダモノがァ!まあ、ストレートと言えばそうなんだけどな」


「いや、ゴメン。ついつい本性が露わになってしまって。じゃなくて、愛の形を思い浮かべてしまって」


「決行は次回のデートかな。ハッキリさせといた方が透もいいだろ?」


 次回かあ。具体的で嬉しいな。今まではキス止まりだったから、そこから先は未知の領域だもんな。俺たちにどんなハッピーが待っているのだろう?これで確固たる主従関係も変化するかも知れない。


 未来に思いを巡らせ由香利を自宅へ送り届けた。前振りのように「ありがとう」と言って頬にキスしてくれた。俺は表情筋を立て直せないまま家路に着いた。




 翌日、勤務中に勝利から内線電話が掛かって来た。終業後、話があるから「ポピンピアリ」へ来るようにとのことだった。申し出を承諾して定時上がりで店に向かった。絹ちゃんと何か有ったのかな?と思った。一緒に来ると言ってたから。


 「ポピンピアリ」に着くとすでに勝利の青いボロヴィッツが駐めてあり、入店したら奥の席から二人に手招きされた。着席するなり絹ちゃんがニタニタいやらしい笑顔を向けて来る。ブレンドコーヒーをオーダーしてから勝利に切り出された。


「透、由香利から聞いたよ。次回のデートプランは決まってると」


 ゲッ!由香利のバカ、何でそんなこと話すんだよ。お前らに兄妹愛があるなんて聞いてないぞォ!


「何の話?プランなんて映画を観てディナーを一緒に食べるくらいしか決めてないよ」


 取りあえず、すっとぼける。お前らもう倦怠期か?退屈しのぎで俺たちに構うなよ!


「イヤーね、とぼけちゃって。そのあとのことも決めてあるんでしょ?」


 絹ちゃんが卑猥に口元を歪めて追い打ちを掛けて来やがった。


「絹ちゃんにまで言われちゃうのってどうなの?いくら勝の彼女だからって、ちょっといけないと思うけど」


 少々気分を害していた。確かに絹ちゃんは天然おっとり系でマイペースの人だけど、いくら悪気が無かろうとも最低限の気遣いは必要だろう。勝利からいつになく真摯な眼差しを向けられた。


「透、ちゃんと責任取って俺をお義兄さんと呼べるんだろうな?絹ちゃんをお義姉さんとも」


「な、何言いだすんだよ。勝はまだしも絹ちゃんにまでお義姉さんとは」


 向かい側で絹ちゃんが勝利にしな垂れ掛かった。


「私たち、もう直ぐ婚約するの。まだ両親には報告してないんだけどね。勝君が透君には一番に伝えたいって言うから」


 ヒエェェ!もうそんな話になってんの?まあ、俺から言うことも無いんだけどさ。


「そいつはおめでとう。いずれそうなるのなら早くてもいいよな」


「ああ、そう言うことだから、公私ともに忙しくなって由香利にも構ってやれなくなるってわけさ。もちろん透を信用してるから、今まで以上に妹を大切にしてやって欲しいと思ってね。問題多き奴だけど、俺たち共々よろしくお願いします」


 二人は揃って俺にペコリと頭を下げた。構ってやれなくなるって、エロDVDでカツアゲされてたくせによく言うよ。まあ、そこまでお願いされれば応えてやらないこともないがな。


「いやいや、こんな俺で良かったら必ず由香利ちゃんをしあわせにしますって約束するよ」


「じゃあ、早く固めちゃえって。どうせ透のことだから、振り回されっぱなしでチンタラやってるんだろ?」


 お義兄さま、何て意味深なご発言をなされるんでしょう。それもフィアンセを前にして。もしかして、ヤれとけしかけてるの?周りの声援に応えてヤるのっておかしくない?


「透君って恭子ともシなかったでしょ?まだ誰ともシたことないんだ。ホント誠実と言うかウブなのか。それほど由香利ちゃんを大切に思ってくれるのは、私としてもありがたいけどね」



 このお義姉さまはメチャ過激だ。思ったことを明け透けにご発言なされる。お姫さまとタッグを組んだら最凶の殺人兵器になるかも知れない。勝、考え直すなら今だ!絶対尻に敷かれるぞォ!


「えっ?透ってまだ少年だったの?恭子さんとも何も無くて、由香利ともあれほどデートを積み重ねてるのに無いの?早く大人になれよな」


 お前なあ、淫行でパクられるって脅したのは誰だよ。張本人からだけは言われたくねえってえの!俺は進んで自制してたわけじゃないんだぞォ!


「初めての時って緊張するわよォ。勝君もそうだったけど、男の人が可愛くなる瞬間ね」


 絹ちゃんの暴露に勝利は顔を赤く染めている。お前、本当に大丈夫かァ?見事に手の平で転がされてるじゃん。只でさえバカなのに情けない奴だぜ。こいつの将来はオワコン決定だな。精々捨てられないように頑張りなよ。


「いや、俺はそこまでガツガツしてないし、結婚するまでシなくても平気だよ。由香利ちゃんを好きな気持ちは揺るがないからね」


 しまったァ!心にも無いことを滑らせるこの口が恨めしい。二人に怪訝そうな顔で見られた。


「透、身体の何処か悪いのか?それとも頭とか?もしかして、いつか俺が冗談で言ったゲイってのは本当だったとか?西徳出でも秀才ばかりじゃないって、お前を見てて悟ったからなあ」


 うるせえッ!放っといてくれよォ!言葉余ってゲイとは何だ!?勝、殺すぞ!何かここまでクソミソに言われてヤるのもシャクじゃん。これで由香利と結ばれたら、「ほら見ろ!俺たちのあと押しのお陰だろ?」って偉そうに言われるのがオチだもんな。


「何処も悪くねえよ!頭も俺なりに正常機能してる。とにかく、由香利ちゃんとは結婚するまでヤらない宣言だァ!俺たちは心と心がガッチリ連ながれてるから、シなくても愛が揺るがないんだよ」


「わかったよ。透がそこまで自信有るのならお節介だったね。思い込みで言ってゴメンな」


「いや、これくらいで気にしなくてもいいさ。お前らは仲良くしあわせ掴みなよ。陰ながら応援してるぜ」


 あーあ、売り言葉に買い言葉で自爆だよ。やっと制限解除になったのに、自ら制約付けてどうすんの。我ながらとんだマッチポンプだぜ。




 翌週の日曜日、お姫さまとデートした。今日は意地でもヤらないと決意して迎えに行った。最初にコーヒーを飲んだ。シアターで映画を観た。レストハウスで遅駆けのランチを取った。ボウリングをやった。少しドライブをした。イタリアンディナーを食べた。真っ直ぐ送って行った。スケジュールを完璧にこなした。


 由香利は車を降りる際「頬を出して」と言った。いつものキスかと思ったら力一杯ぶたれた。


「な、何するんだよォ!」


「透のバカ!もう知らない!二度と連絡して来るなよ。じゃあ、サヨナラ……」


 取り付く島もなく彼女は自宅へ入って行った。何でだよォ!?



 そのあとケイタイしたけど、案の定スルーされてしまった。翌日以降も同じだった。


 ゴールデンウィークを前にして、俺の大切にしてきたものは突然終わりを告げたのだった……。


読んで下さりありがとうございます。次のお話でおしまいです。

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