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ザお姫さまストーリー  作者: 天ぷら3号
11/13

ザ・クリスマスナイト

よろしくお願いします。

 季節は巡り12月になった。冬将軍の到来を間近に感じられる肌寒さだが、街角はクリスマスを迎える準備でカラフルなネオンサインが華やいでいる。師走の慌ただしさは有るのだが、何と言ってもクリスマスイヴは若者にとって一大イベントだ。メインステージが夜なのが恋人たちの心を掻き立てる。


 思えば夏も遊戯施設のプールにしか行けなかった。でも、初めて見た由香利のビキニ姿は眩しかったなあ。写メは撮らせてくれなかったので、一生懸命目に焼き付けたっけ。


 俺のプアな経験上、高三にとっての12月は受験生なら最後の悪あがきの真っ最中でクリスマスなどと言う季節感は全く無い。西徳時代のクラスメイトたちの目がいつも充血していたことを思い出す。懐かしいなあ。卒業してから来春でもう三年か。俺は二十一になって由香利も十八才だ。


 彼女は二年制の名古屋の美容専門学校へ推薦入学が決まっているので余裕をブッ込いている。今は遊びに専念する大切な時期だそうだ。




 昼夜を問わず勉学にいそしんでる受験生諸君には本当に申し訳ない。平身低頭だよ。((こうべ)を垂れる) でも、クリスマスに浮かれる能天気女を許してやってくれ。(土下座する) 猛獣だけど俺の大切なお姫さまなんだからさ。(頭を地面にガンガン打ちつけて謝る)



 何でも最近の美容学校はヘアメイクだけにとらわれす、ファッションプロデュースやエステ、セラピストにネイルリストの養成講座など多岐に渡るらしい。進路を聞かされて「美容師さんを目指すの?」と聞いたら「お前は昭和か?メイクファッションアーティストって言え。ビューティーを総合的にプロデュースするんだよ」とバカにされてしまった。何か横文字ばかり羅列してるけど、ホントに大丈夫か?と心配したものである。


 良かったのは名古屋なら自宅からの通学圏だからだ。東京でも行かれたら発狂しちゃうよ。由香利の進路に関しては、ホワットよりウエアーが俺にとっては重要だった。何でもネットCM撮影の時、メイクさんにインスパイアされたそうだ。あまりに軽々しく言うもんで、本当の意味わかってんの?と思ったくらいだ。


 でも、将来休日が合わなくなるのはちょっと寂しい。まあ、一緒に暮らせば顔も見たくない日もあるだろうけど。いっそ、美容学校の卒業を待たずに結婚しようか?どうせ俺が養うんだし。いや、今考え過ぎてもしょうがない。



 とにかく、二人でクリスマスイヴが迎えられるのはしあわせなことだ。駅前ホテルのスカイレストランでディナーも予約済みである。と言っても、予約は上川先輩に相談した時「俺がまとめてしといてやるよ」とのご好意に甘えさせて頂いただけだが。もちろん席は別々でお願いしますと念を押したけどね。どうせ智美さんにやらせるに決まってるし、こうして恩義を押し売りして首根っこを押さえておくわけだ。


 プレゼントにティファニーのクロスネックレスも用意した。スウィートルームの予約は……してない。そこまでお金無いもん。




 イヴの夜、俺はボーナスで新調したダナキャランのブラックスーツで由香利を迎えに行った。お姫さまはもちろんメイド服でなく、清楚なネイビーのワンピースを纏っていた。イイ女だなあと再認識した次第である。



 ボロスカGをホテルの駐車場に乗り入れたらすでに「白鯨」じゃなくてゴマフセレブの白いレクサスが置いてあった。


 おいしいフレンチディナーを頂きながらクリスマスプレゼントを渡した。由香利はラッピングを解いてティファニーのスカイブルーの箱からクロスネックレスを手に取り、軽く合わせて俺に見せた。「似合ってるよ」と言って由香利の背に回りネックレスを着けてやった。


 彼女は微笑みながらトートバッグに手を突っ込み、ラッピングされた小さな箱を俺に渡す。


「透、メリークリスマス。いつもやさしくしてくれてありがとう」


 プレゼントを頂いた俺は大感激だァ!さすがにまだ高校生の由香利には期待してなかったからな。サプライズを確認してもっと驚いた。偶然にもそれは同じティファニー社の製品だったが、保存箱がブラックに近いパープルカラーだ。これはゴールド製品の証だった気がする。


「由香利ちゃんったらこんな高価な物を用意しちゃってさ。貯め込んでたお年玉でも崩してくれたの?」


「ううん、カツアゲしたお金で買ったのよ」シレッと言われた。


「カツアゲ?お前、ヤバイじゃん!バレたら推薦取り消しになっちゃうよ。今さら受験勉強など出来ないだろうし」


「大丈夫よ。お兄ちゃんからカツアゲしただけだから」


「何だ、勝か。ならいいよね。って、どうやってカツアゲたんだよ?あいつからなけなしの金を巻き上げるなんて、ホント由香利ちゃんは恐ろしい妹だ」


 俺はさすがに顔を引きつらせたが、由香利は平然と返して来た。


「簡単よ。お兄ちゃんが会社に行ってる時アニメDVDを借りに部屋へ入ったの。そしたらラックの棚が二重になってて、裏側に隠してあったエロDVDを見つけたの。ホントバカ兄貴だよね。手段が姑息だってえの!まあ、男だし一本くらいなら許されるんでしょうけど、更に家探ししてやったら箪笥の服の下とかから出てくる出てくる。SM物まで有ったわよ。

 帰宅したのを見計らって部屋に乗り込み、ケダモノ呼ばわりしてやったわ。すっかりヘコんでるところへ絹ちゃんに変態だってバラすぞ!と脅してやったの。お兄ちゃんから口止め料を申し出て来たので吹っかけて十万円ゲットってわけ。かわいそうだから進学祝いは辞退するって言ってあげたけどね」


「ひでえなあ。お前は悪魔か。それじゃあ勝、死んじゃうよ。毎日一生懸命仕事してるのに。せっかくのプレゼントだけど、悪銭で買ったってわかると気が引けちゃうね」


 でも、一応箱を開け中身を確認した。18金のミニハートタグピアスだった。俺はガックリ肩を落とすしかなかった。


「ウチの会社、ピアス禁止なんですけど。勝から聞いてない?だいたいこれ、限りなくレディースに近いユニセックスじゃん。俺が頂いても着けられないよ。お気持ちはありがたいけどさ」


「わかったわ。じゃあ気持ちだけ受け取って。ピアスもクロスも私が身に着けるから。透、ありがとう。愛してるわ」


 これは絶対出来レースだァ!何て擦れた悪女なのだろうか。まあ、勝のお財布はどうでもいいけど、マジでこの先思いやられるなあ。でも、彼女が早速パールピアスを外して着け替えたらすごく似合っていた。ピアスがゴールドでクロスがシルバーなのが絶妙なのである。これが同色だとうるさくなってしまうし、ピアスがシルバーでクロスがゴールドでもダメだ。コントラストの妙にはネイビーのワンピースも一役買っている。


 まあいいか、由香利が喜んでるのなら。お姫さまの笑顔ほど高価なものは無いんだからさ。


「ねえ透、ディナーのあとは最上階のラウンジに連れて行って。今夜はちょっと大人の装いだから、そういう場所へも行ってみたいの」


「お前なあ、ラウンジってお酒を飲む場所だぞ。俺たち車で来てるから飲めないじゃん。そりゃ代行って手はあるけどさ」


「じゃあ透はオレンジジュースで我慢して。せっかく一流ホテルに来てるんだし、私だって少しは背伸びしてみたいもの。あなたと一緒だから安心していられるしね」


 まあ、そこまで言われればラウンジくらいいいけどさ。これも大人に脱皮して行く通り道なのかな?まるで保護者の気分だよ。


「いいよ。一緒に行こう。由香利ちゃんの気持ちはわかるから。でも、飲み過ぎるなよ。送って行ったら酔っ払ってましたじゃシャレにならないからね」


 彼女は俺を見て満足そうにうなずいた。




 レストランを出てエレベーターで十一階へ昇った。スカイラウンジへ由香利をエスコートして入る。ウエイターさんが出迎えて窓際席へ案内してくれた。窓越しに見える冬の澄んだ星空とキラめくネオンサインの(はざま)に浮かぶ暗闇。俺たちを天空まで導いて欲しいと願った。



 由香利はメニューを見てもさっぱりわからないらしくオーダーを頼まれた。俺は彼女にモスコミュールを、自分にはオレンジジュースを頼んだ。スクリュードライバーに出来ないのが悲しかった。


「何かこれライムジュースみたいだね。おいしいわ」


「おい、カクテルなんだからガブ飲みするなよ。あとでブッ倒れるぞ」


 由香利はフンッと顔を背けやがる。彼女は指図されるのが嫌いみたいだ。いつの間にロックンローラーになっていたのか?


「じゃあ、次はソルティドッグにする?グレープフルーツジュースみたいなもんだけどさ」


 由香利のうなずきを確認してウエイターさんを呼ぼうとしたら向こうから寄って来た。トレイにシャンパングラスとモエ・エ・シャンドンが入れられたアイスペールを持ってだ。


「あちらのお客さまからです」


 指された方向を見ると上川先輩がニンマリ笑い、智美さんが小さく手を振っていた。もちろん俺たちは二人にペコリと頭を下げた。


 ごちそうさまです!ってか、さすがにいい酒飲んでるよなあ。メニュー表で確かめたらモエ・エ・シャンドンはワンボトル一万五千円だった。車で来たことが恨めしく思えた。でも、ワンボトルだから750ミリリットルも有るぞ。先輩たちは俺も飲むと思ってハーフをオーダーしなかったんだろうけどさ。


「透、どうかしたの?今は考え込む時じゃないよ」


「ああ、わかってる。それよりこんなに飲めるのか?しまったなあ。持ってこられた時ハーフボトルにチェンジしてもらえば良かったよ」


「私なら平気だよ。シャンパングラスを傾ける美女ってカッコイイじゃない。透は飲めないんだからオレンジジュースでも追加しなよ。でも、ゴメンね。私だけ楽しんじゃって」


「いいさ。今夜の主役は由香利ちゃんなんだから。騎士(ナイト)役で光栄ってもんだよ」


「ホント透っていつもやさしいね。あとでキスしてあげる」


 イヤッタァァ!やっぱりイヴにキスの一つも無いんじゃキマらないもんな。よォォし、シャンパンくらいドンドン飲んじゃえェ!あとのことは任せとけってんだァ!


 由香利は「おいしいおいしい」とモエ・エ・シャンドンをガブ飲みした。おい、もう少し味わって飲めよ。次にそいつと巡り合えるのは十年後かも知れないんだぞォ。




 お姫さまが酔っ払いやがった。すっかり千鳥足になっている。やっちまったよなあ。こんな状態で送り届けられないじゃん。勝に事情を話してヘルプ頼むしかないか。絹ちゃんと一緒でも構わないから。とにかくここを出て、暫く車を流しながら由香利の酔いが醒めるのを待つしかないよなあ。


 支払いを済ませラウンジを出たところでオバサンに呼び止められた。


「そちらのお嬢さんは学生さんかしら?お酒を飲まれてるみたいですけど」


「ええっ?いや、確かに彼女は学生ですけど、もう成人してますよ」


「じゃあ、免許証か学生証を見せて頂けないかしら?申し遅れましたが、私、この辺りの地域補導員をやらせて頂いてる柏木と申します」


 オバサンが身分証を提示しようとバッグに手を突っ込んだタイミングで、俺たちは脱兎のごとく逃げ出した。エレベーターはマズイ!非常用階段にしよう。EXITだ!


「高木さーん、そっちに行った二人を捕まえて頂だいィ!」


 ゲッ!仲間がいるのかよ。そりゃ単独じゃ危ないもんな。だったら、引き返して中央階段だァ!でも、こっちはもっと危ない!ヘロヘロのお姫さまを引き連れてるんだから。トイレはダメだ!入ったら袋のネズミだから。


 何でこんな一流ホテルで鬼ごっこしなくちゃいけないんだよォ!補導員さんたちはクリスマスを祝わなくていいの?家族に嫌われるよ。


「由香利、俺の背中に乗れ!バッグだけは離すなよ!」


 階段を駆け下り十階の廊下を、由香利を背負ったままバタバタと逃げ回る。ヤベエッ!走りっぱなしで息が切れて来た。でも、絶対に捕まってはならない!時々部屋のドアが開いて廊下を覗かれるけど、もちろん直ぐに閉められる。


 クリスマスナイトの恋人たちよ。聖なる夜をブッ壊してゴメンね。でも、事情があんだよ!事情がァ!クリスマスだもん。イエスさま、俺たちを助けてェ!


 廊下の端まで来たら1001号室のドアがバタンと開き中に引っ張り込まれた。勢い余ってフロアに突っ伏したら肩を鷲掴みにされる。


「お前、こんなとこまで来て何やってんだ?」


「上川先輩ィィィ!」


 思わず縋ろうとしたら思いっ切り頭をはたかれた。痛ってえよォォ!


「由香利ちゃん、大丈夫?少しベッドで横になりなさい。直ぐにミネラルウォーターを持って行くからね」


 智美さんに由香利の介抱を任せたら、先輩にスウィートルームのリビングへ連れて行かれソファに座らされた。ああ、またカミナリが落ちる。でも、今夜の俺はあまりにも軽率だった。さっきのピンチに比べれば先輩に怒られることくらい何でもない。


 先輩は立ち上がり、俺を睨んでからベッドルームに向かって大声で言った。


「智美ィ!由香利ちゃんが落ち着いたら宮川にもコーヒーを入れてやってくれ。バカ後輩が面倒ばかり掛けてゴメンな。クリスマスナイトだから、イエスさまに免じて許してやってくれよォ」


 それから歩み寄られ、もう一度頭をはたかれた。


「お前はホント面白い奴だな。こんなブッ飛んだ後輩初めてだよ」


「先輩、すみません。本当に助かりました。取りあえず俺にもお水下さい」


 差し出されたペットボトルをゴクゴク飲んで大きく息を吐いた。少し落ち着いたら智美さんがコーヒーを並べてくれた。その直後だった。


 部屋のドアがコンコンとノックされイヤな予感が走った。


「誰だよ?クリスマスナイトに無粋な真似しやがる奴は?」


 不安そうな俺を見て智美さんが「私に任せて」と言い残し入り口のドアへ向かった。俺と先輩は閉じられたリビングのドア越しに耳をダンボにした。


「副支配人の田中でございます。ちょっとお伺いしたいことがございまして」


 智美さんがカチャリとドアを開け、招かれざる来訪者を中に入れるのがわかった。


「実は先ほど地域補導員の方がフロントにお越しになりまして、こちらに飲酒した少女と若い男性が一緒に逃げ込んだとのお申し出がございました。失礼ですが、お部屋の確認だけさせて頂ければと伺った次第でございます」


「ごくろうさま。でも、それはお断りするわ。プライバシーを覗かれるのはイヤですから」


「そうおっしゃられましても、私どもと致しましては地域の治安も重要な……」


「支配人の大池さんはいらっしゃいますか?桜田の娘が今直ぐ話したがってるとお伝え願いたいのですが」


「た、大変失礼致しました。桜田さまのお嬢さまでしたか。お顔を存じ上げない失礼をお許し下さいませ。ええ、大丈夫です。補導員の方には何も異常が無かったと帰って頂きますから。食い下がられたら営業妨害だと言ってやりますよ」


 何?この絵に描いたような手の平返し。やっぱりゴマフはスーパーセレブリティだったんだァ!


「わかりました。田中さんにお任せするわ。ご面倒をお掛けしますがよろしくお願いします」


「いえ、お嬢さまにそう言って頂き大変恐縮でございます。お父さまにもよろしくお伝え下さいませ。では、失礼致します」



 智美さんはリビングへ戻って来て俺にニッコリ微笑んだ。


「楽勝ね。あれくらいじゃ宮川君への恩返しにならないじゃない」


 カッケエェェ!絶対一般ピーポーじゃ真似出来ない権力者の力だ!パワーゲームをまざまざと実践され、俺は羨望の眼差しで智美さんを見た。


「智美さん、先輩、ありがとうございますゥ!本当に大ピンチでしたから。俺、一生お二人に連いて行きます。いや、連いて行かせて下さいィ!」


「フフッ、大げさね。私の父がこのホテルの大株主ってだけよ。大したことはしてないわ」


「宮川、そういう事らしいぜ。大したことじゃないから気に留めるな。お前なんかに一生連いて来られてたまるかってんだァ!」


 あまりにもホッとしたせいでコーヒーをお替りしてしまった。二人の大切なクリスマスナイトにお邪魔虫で申し訳ないとも思う。でも、せっかくの機会だから聞いておこう。


「智美さん、亜矢子さんはお元気ですか?目標に向かって頑張ってみえますか?」


「ええ、最近の彼女は東京ですごく精力的にダンスレッスンとかの習い事をこなしてるわ。今はスキルを身に付けて溜めておく時期なの。でも、見てらっしゃい。来春からブレイクして行くわよ。

 亜矢子は凄く勤勉な子なの。とても素直で我慢強いわ。きっと辛かったワンルームでの暮らしが、いい意味でトラウマになってるんでしょうね。その姿を間近で見ていると、ビジネスとは別次元で応援したくなってしまう。大衆に支持されるというのはものすごくハードルが高いことだけど、きっと彼女の天性なのよね」


 やっぱりこのゴマフエスパーはスゴイ!亜矢子さんにどれほどの素質が有ろうと、智美さんの彗眼が無ければ日の目を見ないのだから。笑顔で続ける彼女の能力を羨ましいと思ったし憧れもした。


「亜矢子の資質を引き出したのは宮川君なのよ。もちろん我が社にも貢献してくれるはずだし。何たって専属マネージメントだもの。彼女を切欠に芸能部も立ち上げたの。他社のCMなりテレビドラマに出るにしても、交渉したり事務処理はしなくちゃいけないし。もちろんマネージメント料も入って来るからね」


「へーえ、何かスゴイ話ですね。亜矢子さんは雲の上の人になっちゃうかも知れないんだ。でも、頑張って夢を掴んで欲しいな。いつも応援してるって智美さんから伝えて下さい」


「もちろん伝えるわ。亜矢子の心の支えはいつだってあなたたちなのよ。誘惑の多い東京で脇目も振らずに孤軍奮闘してるんだもの。私も彼女の姿勢に教えられる時があるわ。お互い頑張りましょうね」


「わかりました。こちらこそ亜矢子さんの頑張りを心に秘めて、先輩共々頑張ります」



 先輩はイヤそうに俺を睨みやがった。せっかくいい話になってたのにさ。まあ、空気を読めないのがいかにも上川先輩なんだけど。


「勝手に俺まで巻き込むなってえの!どうしようもねえバカだって知ってるから我慢してやるけどさ。お前、マジで亜矢ちゃんの爪の垢飲んだ方がいいぞ。いつまで経っても進歩無しのミソッカスだからな」


「ひでえよォ!でも、亜矢子さんとの思い出にはいつも先輩の教えが絡んでましたから感謝してます」


「宮川、それくらいで止めとけ。お前が謙虚になると俺は恐ろしいんだ」


 先輩の言葉がツボに嵌まったらしく、智美さんは腹を抱えて震度3で笑い転げていた。




 暫く歓談を続けていると、目をこすりながら俺のお姫さまが戻って来られた。


「由香利ちゃん、お帰りィ!頼りない騎士(ナイト)に放り出されちゃったみたいだね。こんな奴相手にしないで俺たちと楽しくイヴを過ごそうよ。おいしいケーキも有るからね」


 いきなり先輩に皮肉を言われてしまった。悔しいけど今夜の俺は言い返せない。ソファに座ってホットココアを両手で持ちながら啜る由香利がカワイイ。カップをテーブルにコトンと置いてから怪訝そうに俺へ向き直った。


「透、飲み過ぎて頭が痛くなったあとすごく揺れてたみたいだけど、いったいあれは何だったの?だいたい何でこんな豪華な部屋に居るの?智美さんたちまで一緒でさ」


 お姫さまの大ボケ振りに俺は脱力してソファから滑り落ち、先輩たちに大笑いされてしまった。


「お前なあ、俺の決死の逃走劇がわからなかったのか?由香利ちゃんの諸々処分を回避するためにどれほどのムチャをしたと…」


 悲しくて涙が溢れて来た。いや、由香利が悪いんじゃないのはわかってる。全て同伴者の俺のせいだ。彼女はまだ未成年なんだから。でも……、


 落ち込む俺に智美さんが機転を利かせてくれる。さすが切れ者セレブだ。


「あら、ステキなネックレスとピアスね。宮川君からのプレゼント?」


「うん、そうだよ。どちらも透がくれたの」


「いいなあ。直也!少しは見習いなさい!」


「とんだヤブヘビじゃねえか。宮川だけ廊下へ放り出してやる!」


「せ、先輩、ちょっと待って下さい。勘弁して下さいよォ!」


 虐げられている俺を庇うように、お姫さまはニッコリ笑ってくれた。


「透、ありがとう。いつだって頼りにしてるから私だけを愛してね」


「ああ、もちろんそうするよ。約束する」


「じゃあ、メリークリスマス」


 由香利はそのまま口づけしてくれた。俺は最近キスされる時いつも泣き顔だな。


 先輩と智美さんが拍手するのが恥ずかしかった。いい大人が悪ノリしてんじゃねえよ!


「智美、ケーキを出して来てよ。四人で聖夜を祝おう」


「わかったわ。仲間の思いが天まで届きますようにってお願いしましょう」


 智美さんが切ってくれたイチゴのホールケーキを食べながら思った。由香利はもちろんだけど、いつも俺を助けてくれる周りの人たちの暖かさは当たり前じゃない。キチンと感謝しなくちゃいけないと。


読んで下さりありがとうございます。

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