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ザお姫さまストーリー  作者: 天ぷら3号
10/13

ザ・トラップ

よろしくお願いします。

 次の日曜日、テスト明けの由香利と久々のデートだァ!杉村家へ迎えに行き、一緒に映画を観に行った。複合施設のシアターで「テルマエ・ロマエ」を観た。この作品も原作は漫画だ。


 俺のつまらない固定観念は周りの人や最近の出来事の影響でかなり柔和になっていた。ためになるではなく面白いが優先され、その中で心に残るメッセージの大切さを感じ取れるようになっていた。これは紛れもなく成長だと思う。仲間たちには本当に感謝だ。


 シアターを出て昼食にしようと思ったが、久し振りに会えたのにいつものファーストフードも寂しかったので「ポピンピアリ」まで移動しようと車に戻った。


 そこで俺は飛び切りのプレゼントを由香利に渡すことにした。スカGのトランクを開け鼻高々に中を指す。偉い奴でしょう?忘れてないんだよね、俺って。


「今日はプレゼントを持って来たんだ。俺の愛が込もってるから使ってやってね」


 由香利はトランクを覗き見て驚愕している。嬉しさのあまり言葉が出て来ないらしく唇をワナワナ震わせた。そのまま後退りしたかと思ったら、助走をつけて胸に飛び込んで来る。俺は大きく両腕を広げ彼女を抱き止めようとした。


「オー、マイスウィートベイベー!」


 ドカッ!グッフウウ!痛ってェェ!飛び蹴りが無防備な俺の胸に炸裂し後方に吹っ飛ばされた。プロレス技で言うドロップキックってやつである。アスファルトに転がった俺は折れたんじゃないかと思わずあばらを擦った。頭打ったら死んじゃうよ、ホントに。由香利は受け身から立ち上がり、俺を見下ろしたまま吐き捨てるように言いやがった。


「お前なあ、いくら私に会えず悶々としていたからって、これはないだろう。キュッと締まった私のお尻を触りたい思いを込めたんだな。透がこんな変態のゲス野郎とは知らなかったよ」


 ひどーい!こんな仕打ちひど過ぎますゥ!彼女は嫌悪感丸出しで転がっている俺に手も差し伸べてくれない。しょうがないから自分で立ち上がった。もちろん胸の辺りに着いた靴底跡を押さえてだ。


「ええっ?だってこれ、キティちゃんの絵柄が入ってるスペシャルトイレットペーパーなんだよ。喜んでくれると思って12ロール入りを四袋も買って来たのに」


「何処からそんな発想が生まれて来るんだよ?どう考えてもおかしいなあ。お前、私が勉学にいそしんでる間に何やってたんだ?」


 ヤバイッ!絶対に真相なんて言えない!ウワーン、どうしよう?そうだ!上川先輩のせいにしよう。嘘言ってるわけじゃないもんな。あんなバカ先輩を信じた自分が恨めしいよォ!


「上川先輩が日用品の大切さを説いてくれたんで、杉村家のお役に立てれば嬉しいなと思ったんだよ。決して由香利ちゃんのキュートなお尻を思い浮かべて買ったわけじゃないんだ」


「ふーん、何か取って付けたような言い訳だけど、今回限りで見逃してやるよ」


「ありがとうございます。お姫さまにそう言って頂けてしあわせです」


 もちろん由香利の疑念が晴れたとは思っていない。キョドらないよう細心の注意を払って振る舞わなければ。




 それから「ポピンピアリ」へ行った。由香利を前にして大好きなハンバーグ定食を口に運びながらズキズキと胸が痛む。彼女への後ろめたさではない。強烈なドロップキックの余韻でだ。


「透、食欲無いの?私に見とれてたら冷めちゃうよ」


 お姫さまが俺の体調を気遣って下さってる。お前のせいだろうがァ!なんて口が裂けても言えない。俺の儚い命は何処まで持つんだろう?死んだら涙してくれるのかな?いや、葬儀の前に過失致死でパクられてるぞ!切ない思いを胸に秘め、イタリアンパスタをガツガツ頬張る彼女を見つめ続ける俺だった……。




 一ヶ月後、セレブセカンドハウスで催されるホームパーティーへのお誘いが有った。俺と由香利、勝利と絹ちゃんの四人でお邪魔することにした。上川絶対君主さまのご意向に背くことなど許されるはずがない。


 手土産にショートケーキを十個持参した。もちろん由香利の大好物、イチゴタルトも入っている。キッチンを覗くと亜矢子さんがテキパキと調理を始めていた。すごく血色が良くて充実感がみなぎっている。本当に智美さんには感謝だ。絹ちゃんと由香利も持参したエプロンを纏い、早速お手伝いに入るみたいだ。


 役立たずの俺と勝利は応接リビングへ移動した。当然そこには役立たずの象徴(シンボル)、絶対君主さまが座っていたけどさ。


 直ぐに智美さんがブルマンを運んでくれた。ヒマワリの鮮やかなエプロン姿を見て上川先輩は満足そうに微笑んだが、俺は二人分を縫い合わせたようなその超幅広エプロンは何処で手に入るのかと考えを巡らせていた。


 テレビを見ながら一時間ほど経った時、再び智美さんがやって来て俺だけを呼んだ。促されるままキッチンに出向くと料理は完成間近で、絹ちゃんは忙しそうに動き回っているが由香利はボーっと突っ立ったままのデクの棒だ。当然である。お姫さまはご自分で調理などなさらない。手伝ってもらおうと期待する方が間違っているのだ。


 亜矢子さんが俺を見て手招きするので何かな?と思った。近寄ると自慢のカレールーは真っ黒になっていて、どうやら仕上げの最終段階らしい。


「透君、ちょっと味見してくれない?」


 瞬時に由香利からベンガルトラの眼差しアイ・オブ・ザ・タイガーを向けられてしまった。バ、バカタレェ!何で俺を指名するんだよォ!喉笛噛み切られたら死んじゃうじゃないかァ!


 いかにも面倒くさそうなポーズで一さじ口に含んでうなずいて見せた。


「うん、いいんじゃない?先輩たちも納得してくれると思うよ」


 努めて素っ気なく返してやる。ホントは味覚なんてマヒしていたけどね。なのに亜矢子さんは俺の背中を親し気にバチンと叩くのだ。


「イヤーね、透君ったら。もうあの味忘れちゃったの?」


 キャアァァ!上川先輩、助けてェェ!地雷が炸裂した時の選択技は一つしかない。敵前逃亡を図るのみだ。


「まだ先輩たちと話の途中だから、悪いけどリビングへ戻るよ」


 這う這うの体でリビングへ逃げ帰り上川先輩に縋ろうとしたが、勝利が邪魔でそれも出来ない。ホント勝はいつだって使えねえ奴だ。



 やがて役立たずの俺たちにお声が掛かり広いテーブル席に着いてみる。俺の右隣りはもちろん由香利だが、左側は何と亜矢子さんだァ!ヒイィィ!この席の配置って何なの?智美さん、俺に意地悪してない?


 ごちそうを頂く前にゴマフセレブが立ち上がって、ゆっくりみんなを見渡した。ねぎらいの挨拶をするようだ。


「今日はせっかくの休日なのに集まって頂きありがとうございます。こうして仲間と楽しく過ごせることを心から嬉しく思っています。

 お陰さまでリリースが始まった「モンモン」も絶好調で、週刊ゲームランキングも三週連続でトップ3を維持しています。相乗効果で「モンハリ」も人気が再燃してトップ10入りを果たせました。二作が十位以内に入っているのは我が社だけの快挙です。

 今日はささやかですが皆さんのご協力に感謝してのパーティーです。どうぞ心行くまでご飲食とご歓談をなさって下さい」


 俺はもちろんパチパチと拍手し、みんなにも笑顔が広がった。さあ、ごちそう大パーティーのスタートだ!特上寿司もピザもカレーも、俺ごときでは名前を知らない高級そうなお魚料理までが、広いテーブル上に所狭しと並べられていた。腹減ったぜ。食欲は旺盛だ。


「透君、取りあえずピザとお寿司でいい?」


 亜矢子さんが手際良くごちそうを取り分けてくれる。あんたの意図は何なんだ?と問い掛けたかった。さっきの味見といい、絶対確信犯でやってるもんな。こんなおめでたい席で由香利とバトルを勃発されたら困っちまうぞ。


 でも、社長である智美さんの前で亜矢子さんが暴挙に出るはずないし。智美さんと先輩もチラ見してたから、まんざら気付いてないとも思えないんだけど。


 宴が始まって三十分が経とうとしていたが、相変わらず亜矢子さんは俺の世話を焼いている。いくら何でもこれは良くないと思い「ちょっと待って」と彼女を制しようとした時だった。


「イヤァァ!もう止めてェェ!」


 右隣からの絶叫に鼓膜が破れたかと思った。


「透は私だけのものよ!誰にも渡さないからねェ!」


 そのまま頭を掴まれ口づけされた。ちょっ、みんなの前だぞォ!


 直後、ヒューと言う嬌声と共にパンパンとクラッカーが俺に向かって放たれた。驚いたのは一拍遅れて由香利までイェー!と叫んでクラッカーを鳴らしていたことだった。オマケに亜矢子さんとガッチリ握手までしていやがる。


 何これ?新手のドッキリ?こんな陳腐で悪魔のシナリオを思いつけるのはこの世で唯一人、エンマ大王さましかいない!早くあの世へ戻れよ。そっちが仕事場だろ?俺なんかとレクリエーション楽しんでるんじゃねえッ!


「上川先輩、ひどいじゃないですかァ…」


 俺は一気に感情がカオスって、メソメソ泣き出してしまった。智美さんがなだめるようにやさしく言ってくれる。


「宮川君、ゴメンね。先日直也が「宮川はいつも人の応援ばかりしてるけど、自分の恋はちっとも進んでないんだ。俺は何が何でもあいつを応援してやりたい!」って言ってたの。もちろん私にとってもあなたは大恩人だから、絶対に協力したいって思ったわ」


 先輩が智美さんを手で制して割って入り、俺に向かって続けた。


「そこから先は俺が言うよ。それで杉村にパーティーを伝える時言い含めたんだ。亜矢子さんにはCMの打ち合わせ時に、絹ちゃんと由香利ちゃんにはキッチンで智美から伝えてもらった。でも、ちょっと刺激が強過ぎたみたいでゴメンな。怒ってる?」


 怒ってる?だとォ!俺は涙を拭いながら返した。


「先輩ィ!寄りによって由香利ちゃんの前で俺を泣かせるなんて……。ありがとうございますゥ。みんなにも感謝してます。こんな不甲斐ない俺を応援してくれて」


 ベショベショの顔をしている俺に構わず、由香利がもう一度キスしてくれた。




 それから全員で応接リビングに場を移す。宴あとのティータイムとのことだ。移動途中、「あなたがワンルームに泊まったことは伏せてあるからね」と智美さんに耳打ちされた。ホント冷や汗もんだぜ。



 リビングでの歓談中わかったことだが、来週から「モンモン」のテレビ用CM撮影が始まるらしい。テレビ仕様のマリアはもちろん亜矢子さんが務めるそうだ。本当に良かったと思い彼女に声を掛けた。


「亜矢子さん、俺、ファンクラブ会員ナンバー001だからね。心から祝福するよ。本当におめでとう。智美さんのお陰です。ありがとうございます」


 勝利が挙手して続けやがる。


「ハイ!俺はナンバー002でお願いします!」


 バカが、手なんか上げやがって!ハイじゃねえだろッ!ここは学校じゃないっつーの!


 感極まったのか、亜矢子さんは立ち上がってみんなに深々と頭を下げた。


「ここにこうして居られるのは、社長はもちろんのことみなさんのやさしさのお陰です。まだスタートラインに立ったばかりですけど、ステキな仲間に恥じないよう精一杯頑張って行きますので応援よろしくお願い致します」


 絹ちゃんが友情を確かめるように目を潤ませて拍手を送った。


「亜矢ちゃん、頑張って。私、いつでも応援してるからね」


 彼女たちは泣きながらうなずき合い抱き合っている。何と由香利はさっきから俺に腕を絡ませたまま離れない。ベッタベタってやつである。こんなの初めてだよ。心がパシフィックな俺は上川エンマ大王を許してやることにした。



 由香利がトイレに行った時、亜矢子さんが寄って来て耳元で囁く。


「透君、私の誘惑は演技じゃなかったからね」


 意味深なセリフを吐いてフッと息を吹き掛けられた。こいつ、もうマリアに成り切ってやがるぜ。


 ヘラッと鼻の下を伸ばしていたら、戻って来た由香利にいきなりヘッドロックで締められた。マジ痛ってえよォ!みんなに大爆笑されてしまった。


読んで下さりありがとうございます。

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