〈解放者〉
誰でも分かる。村が襲われているのだ。
ここから見えるだけでも20程度だ。
隠れるか?いや、ここら一帯には絶対安全な所はない。
森で襲われたことが証拠だ。
そんなことを考えていると、どこからか砂が擦れ合うようなザザッ、という音が聞こえてくる。
「何だ?あいつらか!?」
クミルと共に辺りを見回すがそれらしい姿は無い。
警戒を解こうとした瞬間、視界の端に妙なものが映ってるのに気付く。
村の上空に薄い鏡の様なものが広がっているのが見える。
映っているものを見てアルザは思わず息をのむ。
そこには濡羽色の長い髪の女性が映っていた。
整った顔立ちに大きな胸。
吸い込まれそうな緋色の瞳。
腰から上だけでも凄まじいと言えるほどの美人だ。
その彼女は漆黒の鎧を纏い、座ったままだ。
「何だ…?」
それから彼女は口を開く。
「ご機嫌よう皆さま。余興は楽しんで戴けてるかな?まあ楽しもうがどうしようがは自由だが。
さて、単刀直入に言おう。今君達が遊んでいるだろうそいつら、それを仕向けたのは私だ。」
その言葉で今まで抱いた感情が憎悪へと変わる。だが彼女にそれが伝わるはずがない。
彼女は続ける。
「勿論君達はこう思うだろう。なぜ?、どうして?、と。理由は単純。君達を殺す為だ。それ以外の理由は無い。交渉も無駄だ。」
彼女は指を1本立てる。
「君達が生き残る道は1つ。私を殺すことだ。手段は問わない、私の息の根を止めればいい。」
とはいっても今の自分に出来ることは何一つない。
あいつら2匹にこの結果だ。
だがこの程度ならやギルドや大きな町の兵士達なら蹴散らせるかもしれない。
そしてこう付け加える。
「そうだ、自己紹介を忘れていたな。私は〈解放者〉。君達を生きる苦しみから解放するものだ。では。」
そういうと鏡ごとスっと消える。
隣のクミルを見ると、クミルも固まっている。
今の話を聞いた限りでは虫を殺す手段は同じようにするしかない。もしくは彼女、〈解放者〉を殺すしか。
自分にはどちらも出来ない。その力がないからだ。
まずはこの状況をどうするかを判断しなければ。
「クミル、おっさんのところに行くぞ」
「分かった!」
クミルはしっかりと頷く。
屋敷までの最短ルートは村を突っ切るしかない。
隠れながら進めばいけるかもしれない。
道端に落ちている枝を拾い上げクミルに預けていた剣を返してもらうと足を使って枝を支え、剣で余分な枝やささくれを切り落とし簡易的な杖を作る。
クミルはボロボロの魔法用の杖を背負い、これで体重を支える。
ここに置いて行っても良かったが、ここら一帯に安全なところはない。
鞘ごとベルトに戻すのに少し手間取ったがクミルが手伝ってくれた。
「準備はいいか?」
「うん!大丈夫!」
それから一番近くの民家に向かって駆けていく。
今回もかなり短くなりました…
それとこれから更新がかなり遅れるかもしれません…