最悪の邂逅
また遅れてすいません!
今回、ようやくバトルシーンがあります。上手く描写できているか心配ですけど、楽しんで頂けると幸いです!
「着いちまったな…」
小鳥の囀りが聞こえる。
ここは町はずれにあるコルキアの森というところだ。なぜここにいるのか、理由は簡単。
依頼を解決し、生活費を稼ぐ為だ。両親はいつも旅に出るとき、いない間の生活費を置いていき、それがなくなるまでに帰ってくるのが常だった。今までは。
というわけで簡単な依頼を直接受けて、ここまで来たわけだ。直接、というのは、勿論大きい町ならばギルドのような依頼を受注したり、依頼したりするような施設があるのだが、こんな小さな町にそんな上等なものはない。だから直接受けるしかないのだ。
今回の依頼は畑が荒らされて困っているのでその元凶を退治して欲しいという簡単な依頼だ。
討伐対象はセドボアというイノシシ種のモンスターだが、大きさはさほどではない。
立てば普通の人間と同じくらい。問題はその凶暴性だ。目のあった相手に容赦なく襲い掛かる。
元々セドボアは弱いモンスターなのだが、この森ではかなり強い方だ。
つまりこの森に出現するモンスターが全体的に弱いのである。それがこの森に入る許可が簡単におりた意味だ。
勿論モンスターの中で弱いからと言って、誰にとっても弱いというわけではない。過去に二度ほどセドボアと戦ったことはあるが、どちらも際どかった。それでも報酬が良かったからこうして三度目を引き受けた訳だ。普段は他の小さな依頼でどうにかしている。
しばらく歩いているが、セドボアの気配はない。
頭上を木々が覆っているおかげで直射日光が当たらない分、今までよりは涼しい。
「おーいどうだ?見つかったか?」
「だめ、こっちにはいないみたいね。」
呼びかけるとすぐに返事が返ってくる。
それからしばらく探索するが、セドボアの姿は見えない
それでも探し続けると、頭上を覆っていた木々が晴れ、広場のようなところに出る。
「お兄ちゃんあれ…」
囁くような声を上げる妹の視線の先を見ると、セドボアが横たわっているのが見える。おそらくは寝ているんだろう。勝つためには今のうちに致命傷を与えておくべきだ。
腰の剣に手を掛ける。
分類的にはブロードソードというらしい。
両刃で長さは自分の身長の半分ほど。
一切の装飾が無いシンプルなものだ。
一方クミルの杖は自身の身長ほどもある長いものだ。
全体が木で出来ていて、頂点が少し膨らんでいる。
クミルは背負っていたそれを手に持つ。
「クミル、準備はいいか?俺がまずあいつを釘付けにするから、隙を見て援護を頼む。」
「分かった。でも本当にお兄ちゃん大丈夫?」
「ああ。頑張るさ。」
クミルが念を押してくるには訳がある。
セドボア討伐は三度目だが、そのうちの二度ともあのおっさんが付いてきていたのだ。
一度目は五年ほど前に俺とおっさん。二度目は三年ほど前に俺とクミルとおっさん。そして今回の依頼をおっさんに知らせた時も付いていこうか?と何度もうるさかったが、丁重にお断りしておいた。
クミルも同意見だったし、なにより子供扱いしないでほしいとのことだ。
流石に俺もあの時ほど弱くはない。はずだ。
「じゃあ準備しとけよっ!」
そういうとともに、勢いよくセドボアに向かって駆け出していく。
どうせ慎重に近づいたって、目標に辿り着く前に気付かれる。
勢いよく駆けながら魔法を詠唱する。
「エン・ネス・ロエ!」
アルザが剣に触れながら叫ぶと、剣が淡い水色の輝きを放ちだす。付与魔法だ。
これによって、剣自体の切れ味と耐久性が僅かに上昇し、こんなオンボロ剣でもどうにかセドボアの分厚い皮膚を切り裂くことが出来る位にはなる。
セドボアまであと少しというところで気付かれたらしく、フゴフゴといいながら、起き上がっている。
しかし、ここまで接近できれば十分だ。
「おらあっ!」
思い切りよく斬りつけると血飛沫が舞うが、傷は浅い。
セドボアはこちらをじろり、と睨むとすぐさま突っ込んでくる。
「っつ…!」
何とか身をよじって回避する。
剣の腹で受け止めると、牙が刺さるのは避けられるだろうが、少なくとも吹っ飛ばされ、木に打ち付けられて気絶するのは目に見えてるので絶対にやらない。
セドボアは木にぶつかり、ようやく止まる。が、素早く振り返り再度突進を仕掛けてくる。
今度はすれすれで剣の腹で受け流し、背を斬り付ける。
受け流すだけでも凄まじい衝撃で、手が痺れる。
付与魔法のおかげで剣は無事だが、魔法にも有効時間はある。
「援護頼む!」
そう頼むと、セドボアの視線とは反対方向からクミルとその相棒である杖が姿を現す。
「ラツ・キフセ・ライア!」
クミルがそう詠唱すると、彼女の前に5本の光の矢が出現する。
そして、クミルが杖を振り下ろすのと同時に、セドボアに向かって飛んでいく。
よそ見をしていたセドボアは気付くことなく、すべての矢が命中し、グオオ、と苦しそうな声を上げる。
矢は、セドボアに刺さり数秒経つと、空気に溶けるように消える。
ひるんだ今しかない。そう思い、切り掛かる。
しかしすぐに体制を立て直し、こちらを睨み、突っ込んでくる。
しまった、と思った時にはもう遅く、目の前までセドボアが迫っていた。
とっさに避けようとするが、直撃しまう。
激しく吹き飛ばされながら、ああ、運よく後ろに木がなくて良かったななどと考えていると、こちらを追撃しようとしているセドボアと目が合う。ちくしょう。
どうにかならないかと、周りを見渡すと今にもこちらに駆け寄ってきそうなクミルが視界に入る。
「頼む一瞬でいい!気を引いてくれ!」
「分かった!やってみせるわ!任せて!」
クミルはそう返事すると、セドボアに向き直り、大声で叫ぶ。
「こっちよ!おいで!」
「なにやってんだ!バカ!」
確かに気を引けとは言ったが、魔法でどうにかしろということで、そういうことじゃない。
企み通りに、セドボアは、クミルの方を見ると、物凄い勢いで突進していく。
「目を閉じてて!」
「お、おい!」
クミルがセドボアに蹂躙される前に目を閉じ、詠唱する。
「ロ・シル!」
すると、杖の先端から眩いほどの光が溢れる。
勿論クミルを見据えていたていたセドボアはその光を直視してしまい、思わず軌道が逸れ、クミルではなく、横の木に激しく衝突する。俺は咄嗟に目を閉じていたし、距離もあったので何ともない。
クミルは続けて詠唱する。
「リバ・カフリ・メルス・ヒルシー・メルターチ・ロ・バーレ!」
体の痛みが引いていくのを感じる。回復系の呪文だ。これなら大丈夫だ。
「早く!今よお兄ちゃん!」
「分かった!」
短くそう答えると、セドボアの懐に潜り込む。
既に付与魔法の効果は切れている。
「行くぞクミル!」
「うん!」
「「エン・ネス・ロエ!」」
二人の同時詠唱だ。先ほどよりも剣は明るく輝きを放つ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」
セドボアの胸に深く剣を突き立てる。
血が噴き出し、周囲を赤く染める。血が柄を濡らし何度も滑りそうになるが、絶対に離さない。
それでもまだセドボアは倒れない。
刺さった剣を殴りつけ更に深くめり込ませると、ぐぉ、短く鳴きようやく動きを止める。
「お兄ちゃん倒れるよ!」
クミルの言葉で我に返ったかのように慌ててセドボアの体の下から這い出る。
と、同時にセドボアの体が音を立てて地面に伏せる。
勝ったんだ。あのセドボアに。二人だけで。
そんなことを考えていると、右の頬に鈍い痛みが走る。
「お兄ちゃん!」
その原因はクミルの平手打ちだった。
「私心配したんだからね!?死んじゃうんじゃないかと思って!」
涙目になりながらそういうクミルを見ていると、本当に自分は危なかったんだなという実感が湧いてきてまた生きてこうしてクミルと話してることの嬉しさを実感する。
「ありがとう。もうあんな事しないからな。ごめんな。」
そういいながらハグすると、最初はちょっと!?などと言っていたがやがて静かになる。
「帰ろうか。一緒に。」
「帰りにケーキ買って」
「ケーキって…まあ今回の報酬で買うか!」
そんな会話をしながらしばらく座り込んでいたが、辺りの様子がおかしいことに気付く。
うまくは言えないが、嫌な気配がする。
「早めに帰ろう。行けるか?」
「どうしたの?」
「いいから!行こう!」
そう言い、クミルの手を引き、駆け足で森を出ようとする。
傷はさっきの魔法のおかげですっかり良くなった。
「私一人で歩けるよ?」
「ああ…悪い…」
そう言いクミルの手を放す
歩き続けて、ようやく森の出口まであと半分の地点までくる。
出口まで近づいてはいるが、嫌な気配は強くなってきている。
「あと半分だ。行けるか?」
「まだ全然大丈夫よ!」
そうは言ってるものの、この嫌な気配を感じているのか僅かに震えている。
振り返り、大丈夫か?と聞こうとした時だった。
左右の茂みから何かが凄まじい速度でクミルに向かって飛び出てきた。
とっさにクミルを突き飛ばす。
次の瞬間、アルザの右腕は、消えていた。
今回はかなり頑張って書いたつもりです…
ちなみにモンスターの討伐依頼の報酬総額は報酬金+モンスターの素材(今回の場合は角とか肉とか)という設定です。
今はあまりキャラクターがいませんけど、もっといろんなモンスターとかキャラクターとか出していきたいです!