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モンティト

 ようやく日も登り始めた頃、二人の姿は、モンティトへと伸びる街道にあった。入管が開くのを待つ、商人や旅人たちの列を尻目に、二人は歩みを進める。モンティトは王都の西に位置するため、城壁によって朝日はまだ見えないが、空はどんどんと明るんでいく。歩を進める二人は、振り返ることも無く歩みを進める。二人と言っても、実際に歩いているのはジャックだけで、エレノアの方はジャックの所有する馬に揺られている。

 気まずい沈黙の中、エレノは何度もジャックに声をかけようと試みるが、生まれ持った性分なのか、どうしても話しかけることが出来ずに居た。ジャックの方もなんとなくではあるが、落ち着きが無いのは察知しており。腹でも空いたのかと、的外れな心配をしていた。

 小鳥の鳴く声がさわやかな朝の街道を行く、妙にちぐはぐな二人組を商人たちも不思議そうに見ている。そんな視線を全く意に介さないジャックと、恥ずかしそうに馬に揺られるエレノアのコンビは、とても気の知れた仲間には見れず。しかしながら、傭兵が依頼主を自分の馬に乗せるような真似は中々しないので。傍から見ると、一体どんな仲なのか想像が難しかった。


 商人たちの集まる野営地を積極的に使いながら、3日目のお昼ごろにモンティトの街が見える場所までやってきた。未だにぎこちない二人の関係は、特に改善の兆しを見せることもなく。相変わらず気まずい空気が流れている。何度かエレノアが話しかけたことはあったのだが、ジャックのあまりに釣れない返答に、話しかけるのを躊躇してしまう。

 ジャックとしては、特に気まずい雰囲気も感じず、普段通りなのだが。傭兵とその雇い主が其処まで馴れ合わない事を知らないエレノアにとっては、気まずいだけの時間であった。


 モンティトへと入ると、王都には負けるが十分に栄えた町並みが目に入る。キョロキョロと物珍しそうにあたりを見回すエレノアに、思わずジャックは苦笑する。本当に世のことを知らないお嬢様なんだな、と一人で納得する。


 モンティトは、王都の西に位置する一番近い大きな街で。山に囲まれた王都から、外へと出るためには必ず通る街でもあるため、交易の拠点として多くの人々が生活している。まずは宿を確保するために、宿野街へと歩みをすすめる。王都と違い、まだレンガ造りの建物は少なく、街道も未だ整備されていないところが多く見える。

 また、交易の拠点であることから、傭兵団が多く留まっている場所でもある。実のところ、ジャックもこの街を拠点としており、エレノアの話を受けたのも、たまたま王都までの護衛依頼を受けていたからである。自分の庭である街をさっさと歩いて行き、自分の行きつけの宿へと足を向ける。


 「おや、お帰り早かったね、おっなんだいその娘は!あんたのこれかい!?」


 入った途端に小指を立てながらマシンガントークをかまして来たのは、この宿の女将であるマーサである。いわゆる世話好きのおばさんで、なかなか身を固めようとしないジャックを心配して、お見合いの話を持ってくるような人である。早いところが皆のおかんと言った女性である。


 「違う、依頼主だ」


 「なんだい、面白く無いねえ」


 何がだと思いながら、部屋を2日分取る。


 「2日分ですか?」


 「乗合馬車が2日後にしか出ないからな」


 「まったく、お嬢ちゃんこいつ無愛想でしょう?もっと愛想よくしなさいって言ってんだけどねえ」


 「いっいえ、とても良くしてもらってます!」


 「いいお嬢ちゃんだねえ、このこのお」


 「だから依頼主だ」


 そんな風に話している二人を、穏やかな顔で見つめるエレノア。その表情に胸が少し高鳴るのを感じる、慈愛に満ちた表情と言うのは、こういう表情を言うのだろうとジャックは思った。

 夜までの間、別々の部屋で時間を潰し夜になって、併設された酒場に食事をしに行く。ここでも、物珍しそうに周りを見回すエレノア。そんな二人を先に席についていた、傭兵らしき男達が視線を投げる。

 適当に料理を頼みながら、端っこの方の机に腰掛ける。ここの料理は、傭兵の中でも評判になる程度には美味く、彼女の口にも合うだろうと考えての事だった。野菜を中心とした料理が運ばれ、食事を開始してからいくらかたった時、二人に近づく影が現れる。


 「おい猟犬、いい女連れてんじゃねえか」


 「おい姉ちゃん、俺達といいコトしようぜ?」


 二人の傭兵らしき格好をした男が、二人のテーブルへと近づいてくる。もともと四人がけのテーブルだったから、空いていた2つの席へと勝手に腰掛けてくる。


 「やめろ、依頼人だ」


 「まったまた、てめえにこんな上客つくわけねえだろ」


 「そうだぜ?いい娼婦じゃねえか?」


 娼婦という言葉が出た瞬間、男の体は宙を舞っていた。一瞬にして相手の喉を掴み、椅子ごと足払いをかける。そのまま地面へと叩きつけ、いつの間にか抜いた短刀を首筋に添える。


 「貴様、余程命がいらないと見えるな」


 「まっ待ってくれ!冗談だ!」


 叩きつけられた男は、息ができないようで、身振りでなんとか許しを請おうとする。相方の男が慌てて、間にはいろうとするが、喉に当てられた短刀を見て思わず声を呑む。


 「俺は笑えない冗談は嫌いなんだ」


 「あっあの!私は、気にしてませんので……」


 「ほんとすまなかった、な?お嬢ちゃんもこう言ってるからよ」


 舌打ちを一つ付き、ジャックは男を開放する。それでも警戒を怠ること無く、殺気だった様子である。ジャックは傭兵にしては珍しく、依頼を受ければ、全力で相手に仕えているかのように振る舞う。それを媚びと罵る者もいれば、美徳であると称える者も居る。


 「次はない、失せろ」


 「へへっすまねえな」


 「すまない」


 「いえっ、気にしないでください」


 エレノアにすれば、酒によっていた男の戯れ言にも、こうまで激昂することに驚くとともに。とても頼もしく感じていた。その強さも然ることながら、依頼人のためにここまでやるとは、傭兵とは高潔な人々なのだと勘違いしてしまっている。実際のところは、ジャックが特殊なだけで、先ほどの二人組の様な粗暴なものが多いのだが。世間知らずのエレノアには、わからないことであった。


 「まあた問題を起こして!あれほど喧嘩はしないって言ったでしょうが!」


 「うるせえな、依頼人を侮辱したんだ、殺しても未だ足りん」


 「物騒なことをいうんじゃないよ!」


 まったく、と言いながら女将は厨房へと下がっていった。


 「あの、猟犬って……」


 「ああ、勝手に呼ばれてるあだ名みたいなもんだ」


 「わんちゃんですか……可愛いですね」


 「……」


 決してかわいい呼び名ではないと思うのだが、エレノアからすれば可愛いものなのかもしれない。しかしながら、瞬時に返す言葉がなく、思わず鳩が豆鉄砲を食ったような顔を晒すジャック。今まで、その名前をからかってきた奴は多く居たが、可愛いとのたまったのはエレノアが初めてだった。薄暗い店内の、特に薄暗い店のすみで、花が咲いたような笑顔を見せながら言うエレノア。明らかにからかいではなく、本当にそう思っていることが伝わるから、ジャックも何も言えなくなる。

 自分のことを真剣に守ろうとしてくれたジャックに対し、昼間の気まずさは嫌われてるからではなかったとわかったエレノアは、次々に話しかけていく。


 「あの、ジャックさんはお幾つなんですか?」


 「今年で23になる」


 「ご兄弟とかは居るんですか?」


 「兄貴が一人だ」


 エレノアは、この数日で聞きたかったことを聞いていく。何処と無くぎこちなさのあった二人が、打ち解けるのにはそう時間がかからなかった。エレノアの持ち前の人懐っこさに、ジャックはタジタジだったが。それもそれで良いものだなと、ジャックは感じていた。二人の時間は、次の日が移動でないこともあって、人気がまばらになるまで続いていた。


 次の日は、買い物がしたいというエレノアに付き合い、護衛と荷物持ちを兼任してジャックが付きそう。主にこれから城塞都市までの道のりに必要な者を中心に、様々なものを買い込んでいく。次の移動は1週間と長い移動になるため、食料もそこそこの量が必要になる。

 乗合馬車にエレノアが乗り、それに追従する形でジャックが馬に乗って追う形になる。乗合馬車には、商隊や傭兵団などが付随的に付きそう。王都から少し距離のある城塞都市までは、あまり治安が良くなく、乗合馬車も護衛の戦力がある程度揃うまでは出発しないため、不定期な便となる。最近はどうも第二王女のアレクサンドラの誘拐事件や、国王が病に伏くしたという発表も有り、兵士たちもピリピリとした雰囲気を醸しだしている。

 乗合馬車の予約は、着いた当日に一番最初にしており、乗れないといったようなことはない。護衛依頼を主に受けるジャックにとっては、なれたものである。


 買い物が一段落し、子供達が遊んでいる広場にある石造りのベンチ(とはいっても石を四角く切り出しただけのもの)に腰掛け、昼食を摂っていた。子供達は、母性溢れるエレノアと、少し野性味の溢れるジャックの二人組に興味津々のようで、遠巻きにではあるが二人をチラチラ見ながら遊んでいる。

 そんな中、小さな女の子が転んでしまい、今にも泣き出しそうになってしまう。それに気づいたエレノアが急いで立ち上がり、女の子の元へとかけ出してしまう。女の子を立たせると、服についた土を払い、女の子の頭を優しく撫でながら何かを語りかけている。

 そんな依頼主を見ながら、荷物番をするジャック。それをきっかけに子供達がエレノアに群がり、遊ぼう遊ぼうと口々にエレノアへと語りかける。こちらを見ながら困ったように笑いかけるエレノアに、ジャックは軽く手を上げて応える。

 子供達と鬼ごっこをするエレノアを見ながら、穏やかな時間が流れる。子供達の笑い声と、エレノアの笑い声。幸せな家庭というものを持てば、こんな毎日なのかと夢想するジャック。はたと、相手は依頼主であることが頭をよぎり、少し綺麗な女性と仲が良くなったからといって、しがない傭兵の自分には高望みだとそんな想像を振り払う。


 「ごめんなさい、子供達が中々離してくれなくて」


 「いや、構わないそれが仕事だ」


 「……もう、其処は構わないまでで良いんです!」


 少しご立腹なエレノアに首を傾げるジャック。


 「おじちゃん達は付き合ってるの?」


 「お姉ちゃんは僕のだよ!」


 「いいや僕のお嫁さんになるの!」


 「随分と懐かれたな」


 エレノアは、遊びが一段落したからジャックに寄ってきたのだが、子供達までジャックのもとに集まった。帯剣しいるジャックは、普段子供に囲まれることなどありえないため、どう接すればいいかわからない様子で。子供達に、なされるがままになっている。女の子達はおませな質問を多く投げかけ、男の子たちはエレノアにメロメロなため、ジャックに攻撃を仕掛けている。


 「ちょっ一気に話すな、叩くな」


 タジタジになっているジャックを見ながら、エレノアはクスクスと笑っている。助けてくれよ、と思いを込めてエレノアに視線を送るが、ニッコリと微笑まれるだけで、すぐに回りにいる女の子たちと話している。


 「勘弁してくれ……」


 次の日の朝早く、乗合馬車に揺られるエレノアと、馬にまたがりあたりを警戒するジャックの姿があった。予定通り人が集まり、城塞都市に向けての乗合馬車が出た。どこと無く硬い表情のエレノアと、それに釣られるように硬い表情のまま、周りを警戒するジャック。どこと無く普段にはない緊張感に、不思議と周りも身を引き締めていた。


 少しずつ近づいてきている。黒い影が。

どうも、Mr.suicideです。

なんかリアローフオンラインに詰まったので書いてみました。

ジャックもエレノアも僕の趣味が詰まってます。

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