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「…おやめ下さい…ッ…それでは…民が…」
この国の政治は腐っている。俺の、ルドルフの父である王によってだ。父王の悪政は遂に国一つを滅ぼした。
西の国だ。幼い頃に訪問したことがあったが豊かな土地と古くからの伝統やしきたりを守る国であった。
国民たちはよそ者に対し無愛想ではあったが、決して冷たくはなかった。
そんな美しい国を王は滅ぼしたのだ
「それでは…ッ!…なんという事だ…」
今日も大臣たちは王を説得しようとしている。いつから父は変わってしまったのだろうか?もう憶えてはいない
「ひぃッ!!」
大臣たちが王の部屋から飛び出してきた。皆一様に顔が青い
「やはり王は聞く耳を持たないか…」
「…ルドルフ様…」
俺をそんな目で見るな、哀願するような目で
「やはり私から申し上げる方がいいな」
「おやめ下さいッ!貴方様に万が一の事があればこの国は…」
大臣たちの静止を振り切り王の部屋へと立ち入る。中は一つの燭台が明るいだけで彼の体の輪郭しか捉える事が出来ない
「…貴様か…ルドルフよ…」
王が笑った事だけは分かった
「父王よ、貴方の政治は間違っている。北の国、南の国とは国交断絶、西の国は崩壊、東の国とは国境の前線で一発触発の睨み合い…貴方は何がしたいのだ?」
はっはっは、と王の低く重いしゃがれた声が部屋に響く
「ではお前は私にどうしろと言うのだ?」
「北、南の国との国交正常化、東の国との和平交渉、東の国への復興支援であります」
ビュンッと風を切る
あまりの速さに身じろぎすら出来なかった。
剣を投げつけられたのだ。頬につうっと温かいものが伝わるのを感じる
「ほう…不肖の息子の分際で私に意見するのか…貴様に何が分かるのか!!この美しい国を見よ!この美しさを永遠に保とうとは思わないのか?それには犠牲が必要なのだよ…」
「私利私欲のために他国を巻き込むのかッ!!」
「口を慎め無礼者がッ!!貴様が息子でなければこの場で叩き切っておるわッ!!」
これ以上の話し合いは不可能。踵を返し部屋を出ようとすると声を掛けられた
「…その鈍、貴様にくれてやる…好きにせよ」
「…ありがたき幸せ」
落ちていた剣を寄越された鞘に納める。薄暗い中でも非常に鋭利であると伺える。
「父上…貴方はいつから変わってしまわれた…」
父からの返答はなかった