最後の真実
気づけば、窓の外には夕闇が広がっていた。
「そろそろ、時間か」
そう言葉に出したのは、太一と僕、どちらだったか。
「長々と悪かったな」
太一が頭を下げる。
「気にしなくていいよ」
「もう分かっているかもしれないが……」
「ああ、いいよ。頭を上げてくれ」
そう言っても太一の頭はどんどん下がり続け、ついには土下座の姿勢になってしまう。
「すまない。本当にすまない。俺は、俺はお前を……」
泣きながら畳に頭をこすりつける太一をそのままにして、僕は帰途についた。許す、と言ってやればよかったのか。それとも、恨み言を言えばよかったのか。それが分からなかったからだ。
でも、分かったことがひとつだけある。太一は、とてつもなくいい奴だということだ。
なあ太一、時には割り切りも必要なんだぜ。お前だって最初からそのつもりだったんだろう?
帰り着いた僕は、すぐに荷物をまとめ始めた。
そうそう、今朝、僕の机の中に入っていた手紙、いや、怪文書といったほうがいいのかな? こんな文章が書かれていたよ。
『俺がオニだ 次はお前だ』
そして、校門前で太一が僕の背中を叩いて言った言葉。よく聞き取れなかったけれど、僕は完全に再生することが出来る。
「つ か ま え た」
大事なものだけ入れたバッグを抱え、家を出る。この家とこの家族、けっこう気に入っていたのにな。ちょっと残念だ。
そろそろ、時間だ。
僕はもうすぐ、太一になる。
この先、どうしたらいいのだろう?
ーーーそんなもの、決まっている。僕の身体を探しに行くのだ。半年前に奪われた、僕の身体。
「オニだった者を、オニにすることはできない。一度オニになった人間は、永遠に元の身体に戻ることは出来ないのさ」
太一はそう言った。確かに、直前にオニだった者にタッチすることは出来ない。それが可能になれば、鬼ごっこが終わってしまうから。
でも、本当に、永遠に元の身体に戻ることは不可能なのか?
僕の身体を奪ったのは、さっきまで一緒にいた太一ではない。彼が奪ったのは、啓太。僕が第二の人生に選んだ器に過ぎない。
見つけてやる、絶対に。
僕の身体を奪ったアイツを。
捕まるはずがないと思っていた相手に捕まったら、アイツはどんな顔をするだろうな。『僕』の顔が恐怖に歪むのを想像すると、おかしくなる。
太一は、本当にいい奴だ。
アイツは僕に、チャンスをくれた。
頭をボリボリかきながら、僕はニヤニヤ笑った。
ーーーこうして最後の七不思議、『終わらない鬼ごっこ』は続いていく。
態度が急変した恋人に、突然別れを告げられたことはありませんか?
信じていた友だちに、あり得ない裏切りをされたことはないですか?
あなたの隣にいる人は、本当に昨日と同一人物なのでしょうか?
ひょっとすると、もしかして……。