表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オニになる  作者: 明神啓太
7/9

オニになる

『俺』がスタスタと近寄ってくる。まるでーーー。


「まるで鏡を見ているようだ、なんて思ってるのかい?」


 考えていることを言い当てられて驚いているうちに、いつの間にか『俺』に襟首をつかまれ、玄関まで引きずられてしまう。


「それなら、これを見てみろよ!」


 突き飛ばされた先にあったのは、見慣れた姿見。しかし映っていたのはーーーある意味見慣れた存在ではあったけれどーーー見慣れた自分の姿ではなかった。


 映っていたのは、アイツだった。


 顔を触ると、アイツも顔に触る。驚いて目を見張ると、アイツも目を見開く。


 自分という存在が、足元から崩壊していく。

 信じたくない真実を突きつけられ、気がつけば嘔吐していた。


 一体何が起こっている? 何がどうしてこうなった?


 混乱する俺をニヤニヤ笑って観察しながら、『俺』が言う。


「ようこそ、七不思議の呪いの世界へ」


 戦慄した。


 ーーー七不思議、最後のひとつ。


『七、オニに捕まった者はオニになる』


 意味が分からなかった。ただの、オニごっこのルールじゃないかと思った。こうして、この姿になるまでは。


 耳元で、かつてオニだった者が囁く。


「次のオニは、お前だ」


 追う者と、逃げる者。捕まえれば、捕まれば。その存在が入れ替わる。


 俺は、オニになったのだ。


「出ていけよ。ここはもう、お前の家じゃない」


 ニヤニヤ笑いを止めた『俺』に蹴られ、殴られ、文字通り家の前に放り出される。


 バタン、と玄関のドアが閉まり、鍵がかけられた。


 何なんだ、何なんだよ!!

 俺が何をしたって言うんだ!

 誰でもいい、誰か助けてくれ!


 その叫びに呼応したかのように、ガチャン、と鍵が外される音がした。そうか、妹が助けに来てくれたのだ!


 だが、そんな夢は一瞬で崩れる。


「これ、渡し忘れてたわ」


 放り投げられたのは、A4サイズの封筒。


 渡す義理もないんだけどさ、プレゼント。感謝してよね。あ、礼はいらないよ? 言っとくけど、今度俺たち兄妹の前に現れたら、ソッコーで通報するからそのつもりで。


「大変だと思うけど、頑張ってね」


 心にもない応援の言葉とともに再びドアは閉じられ、もう二度と開くことはなかった。


 放り出される時に、鍵は奪われていた。隔てるものはたった一枚のドアだけなのに、その向こうは、ずっと遠い世界に思えた。


 とぼとぼと歩き出す。俺はもう、この家にとって、家族にとって他人なのだ。


 たどり着いた公園のベンチで、頭をボリボリかきながら封筒の中身を検める。学生証、保険証、住民票、傷だらけのガラケー、その他……。元はアイツで今は俺の、存在を証明するものすべてが入っていた。


 オニに戸籍があるなんて、何の冗談だ。


「くははははは、うひひ、うはははは」


 笑っているのか、泣いているのか、自分でもよく分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 態度が急変した恋人に、突然別れを告げられたことはありませんか?  信じていた友だちに、あり得ない裏切りをされたことはないですか?  あなたの隣にいる人は、本当に昨日と同一人物なのでしょうか?  ひょっとすると、もしかして……。 夏のホラー2015参加作品です。暑過ぎる夏、少しでも涼しくなってもらえたら。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ