重い身体
目を開けると、目の前には今にも降り出しそうな曇り空が広がっていた。背中には固い地面の感触。どうやら長いこと校庭に倒れていたらしい。
外傷はないようだ。が、倒れたときに打ったのだろうか、頭も身体も重い。時計の文字盤がぼやけて見える。目を細めて見ると、針は1時50分を指していた。俺は、12時間近くも眠っていたのか。
とにかく家に帰ろう。重い身体を引きずるようにして、よたよたと歩き出す。暑い。アゴまで流れてきた汗をむくんだ手で拭えば、無精髭のジャリッとした不愉快な感触が伝わってきた。足が痛い。靴擦れか? 立ち止まって靴紐を緩め、またのろのろと歩を進める。腹が苦しい。ベルトを緩める。
やっとのことで家にたどり着き、玄関の鍵を開けると、奥から声がする。
「え……誰?」
妹の声だ。帰っていたのか! 返事をするのももどかしく、ドタドタと廊下を走る。今は何より、妹に会いたい。その身体を抱きたい。きっと、妹もそうしたいはずだ。甘えん坊だからな。
「きゃああああああああ!」
だが、リビングに入った兄を迎えたのは甘える声ではなく、絶叫に近い悲鳴だった。
「なんで? なんでアンタが!?」
思わず耳を疑う。ひどい兄妹喧嘩をした時でも、妹からアンタ呼ばわりされたことなど一度もなかったからだ。
「なんで、アンタがいるの!? カギは? なんでアンタがお兄ちゃんの服を着てるの!?」
妹は後退りしながら、化け物を見るような視線を浴びせてくる。言ってる内容も支離滅裂だ。一体、どうしたっていうんだ?
「おい、何かあったのか?」
奥から男の声がする。妹の奴、俺のいない間に男を連れ込んでいたのか?
「助けて! 助けてお兄ちゃん!」
妹の叫びが終わるか終わらないかという間に、ドアが勢いよく開かれる。
ーーーそこにいたのは、俺だった。