ツギハオマエダ
邪魔する奴はみんなぶち殺してやる。
兄にとっても相手にとっても幸運なことに、学校に着くまでは誰にも会わなかった。今から思えば、通報される危険もあったんだよな。あの時は、そんな当たり前のことが想定出来ないくらいおかしくなっていたんだろう。
校門を乗り越え、校内に乗り込む。薄気味悪いもんだぜ、夜の学校ってのは。昼間のイメージが強いからだろうか、静かさが際立っている。タッタッタッタッ。自分の足音だけが聞こえ、聞こえた次の瞬間には闇の中に溶け込んでいく。何かに絶えず見られているような気配に何度も振り返りながら、校庭に向かった。
校庭に入り、校舎にかかっている時計を見ると、約束の時間の5分前だった。
「おい、いるんだろう!? 出てこい!」
金属バットのグリップを痛いほどに握りしめ、姿の見えない敵に呼びかける。
声は空しく闇に溶け、辺りは変わらず静寂が支配している。
校舎側からか、部室棟からか。それとも俺が来た校門側からか? どこからアイツが現れてもいいように、小刻みに身体の向きを変えて待つ。
4分前。
まだか。
3分前。
本当に来るのか?
2分前。
まさか、こうして俺をおびき出しておいて、その間に何かするつもりなのか?
アイツの目的は何だ。
妹だ。
俺はこんなところにいていいのか?
今すぐ妹のいる病院に行くべきじゃないのか?
いや、まだ約束の時間になっていない。
だが、時間まで俺をここに引き付けるのが目的なら……。
疑心が不安を生み、ネガティブな想像が膨らんでいく。考えても考えても袋小路だ。
ハッと気づいて時計を見る。約束の時間はもう過ぎていた。
ふっと肩の力が抜けた刹那。トン、と背中を叩かれる。まるで「久しぶり、元気だった?」とでもいうような軽いタッチ。
「つーかまーえたっ」
ふざけた声を出す敵をぶっ潰すため、バットに遠心力を乗せて即座に振り返る。
アイツはそこにいた。あのニヤニヤ笑いを顔じゅうに貼りつかせて。
「残念だったなあ、お兄さん。
次は、お前だ」
その瞬間、景色が暗転する。
ツギハオマエダ。
その言葉の意味を考える間もなく、意識は闇に落ちていった。